東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ライトブルー、ブルーの模様が重なった表紙

書籍名

契約規範の法学的構造

著者名

森田 修

判型など

680ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2016年12月

ISBN コード

978-4-7857-2470-2

出版社

商事法務

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契約規範の法学的構造

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本書は、契約によって当事者間に定立される権利義務関係 (すなわち「契約規範」) がいかなる根拠によって正当化されるか、とりわけそのような根拠として、そこでの契約時における当事者の主観的事実としての意思 (「当初契約意思」) がどのように位置づけられるかという問題 (「契約規範の形態原理」の問題) について、筆者が1990年代後半から2010年にかけて10年あまりの間に執筆した論文を一書にまとめたものである。
 
現在、契約法は、フランス民法典やドイツ民法典といったヨーロッパの19世紀に編纂された諸法典が立脚する古典的概念構成から、新しい概念構成へと向かう転換期にある。契約法の新しい概念構成の特徴は、一言で言えば当初契約意思からの解放である。それは一方で、当事者の意思としての「当初契約意思」からの解放であると同時に、契約時の意思としての「当初契約意思」からの解放である。契約規範の根拠としては、上記の「当初契約意思」以外にも、強行規定はもとより任意規定も含めた法律や慣習があり、契約の客観的解釈の際に検出される裁判官の裁量が準拠している手がかりまでをも念頭に置けば、そこには多様なものが想定される。
 
それらもろもろ根拠の中で、契約法の古典的概念構成においては、「当事者意思」ないし「合意」という概念に優越的な地位が与えられている。しかしそれはどのような意味においてなのか。そこでいう「当事者意思」は上記「当初契約意思」と同じなのか、それとも何らかの意味の膨らみをもたされた概念として構造化されているのか。この点を明らかにすることが、新しい概念構成を模索する出発点においてなされなければならない作業である (他方で、筆者は <当初の意思からの解放> すなわち <現在化 (presentiation) の呪縛> からの解放についても作業を進めているが、それに関する論攷は本書には含まれていない)。
 
当初契約意思を契約規範の第一義的な根拠とする考え方、つまり古典的な「意思主義」が、「契約規範の形態原理」への問いに対する古典的概念構成における解答であったが、それは、現代社会において契約法に提起される難問の前に限界を露呈している。「契約規範の形態原理」の古典的あり方は揺らいでおり、新しい試みが様々になされている。現代の契約法学のそのような試みも、もとより、我々の学問的資産たる古典的概念構成とその中核にある意思主義を捨て去って別の道を選ぶことは許されない。しかし他方で意思主義の神話化を退け、その立論の前提を、厳しく文脈化しなくてならないこともまた当然である。本書に集められた論考は、意思主義のそのような脱神話化・文脈化のために、現代契約法が前提としている深層に筆者が下ろそうとした試掘抗である。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 森田 修 / 2017)

本の目次

総序
  第1節  意思主義の現在
  第2節  契約規範論のための方法的諸概念の整理
  第3節  本書の構成と行論
 
第1部 支援された自律
第1章  <支援と自律> というアポリア
  第1節 問題性格
  第2節 民事特別法のタイポロジー
  第3節 現代における民法
第2章  独禁法による民法の <支援>
  第1節  「独禁法違反行為の私法上の効力」試論
  第2節  独禁法違反行為の反公序性の基準
再考録1  「支援された自律」を規範的理念とすべきか
再考録2  「支援された自律」と法典化
再考録3  特異的市場と現代私法
再考録4  取引の悪性論の法律行為無効一般への拡張
 
第2部 契約責任と当初契約意思
第1章  「契約の修正」としての代金減額
  はじめに
  第1節 フランスにおける基本構造の形成
  第2節 明治民法典における基本構造の形成
  結びに代えて − 梅の構想とその意義
  補説  註釈学派の文脈におけるボアソナードと梅との対立
第2章 解除と「契約目的」
  はじめに
  第1節  「契約目的」概念の論理構造
  第2節  「契約目的」概念と解除の諸相
  小括
再考録5  「契約の修正」と代金減額権
再考録6  債権法改正と代金減額権
再考録7  債権法改正と解除における「契約目的」の概念
 
第3部  「契約規範の形態原理」
第1章  ラーレンツの手品
  はじめに
  第1節  ワイマール期
  第2節  ナチス期
  第3節  戦後初期
  第4節  第1章小括
第2章  Pimontの「契約のエコノミー」論
  はじめに
  第1節  予備作業−フランス法における契約規範論の基本構造
  第2節  「契約のエコノミー」論の理論的構造
  第3節  「契約のエコノミー」論の解釈論的作動
  第4節  第2章小括
第3章  フランスにおける「契約のエコノミー」論の展開 はじめに
  第1節 「契約のエコノミー」論のインパクト
  第2節 「契約のエコノミー」論と「契約上の連帯主義」
  第3節  Ghestinと「契約のエコノミー」
  第4節  第3章小括
 
再考録8  ラーレンツと契約類型概念
再考録9  「契約の修正」と「契約のエコノミー」
再考録10  「契約のエコノミー」と「契約の法性決定」
 
おわりに
  第1節  行論のまとめ
  第2節  残された課題