東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にシチリアのパラティーナ礼拝堂の写真

書籍名

中世シチリア王国の研究 異文化が交差する地中海世界

著者名

高山 博

判型など

480ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年8月25日

ISBN コード

978-4-13-021082-9

出版社

東京大学出版会

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中世シチリア王国の研究

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本書は、私が1985年から2017年にかけて英語で発表した中世シチリアに関する論文13篇を収めた日本語論文集です。(*)
 
本書の前半部に収めたノルマン・シチリア王国の行政組織・役人に関する一連の論文は、アラビア語、ギリシア語、ラテン語史料を分析して、20世紀初頭以来の通説の誤りを正し、新しい説を提示したものです。現在は、王国に関する基本文献として英・独・仏・伊語の書物・論文で利用・参照されるようになっています。これらの研究で明らかとなったシチリア島と半島部の行政の違いはその後の研究の前提とされ、ドゥアーナ・バーローヌムという役所がパレルモではなくサレルノに置かれ、半島部の行政を司っていたという理解も世界の研究者の間で共有されています。また、王国行政の枠を越えて、南イタリアの領主制・農民研究に影響を与え、イスラムのヨーロッパへの影響という文脈でも引用・参照されるようになっています。

私が中世シチリアの研究を始めたのは、1978年に東京大学文学部西洋史学専修課程に進学した時でした。西洋中世世界とイスラム世界の文化交流に興味があった私は、両文化が接触していた中世スペインと中世シチリアに惹かれ、結局、国際的に研究が進んでおらず不明な点の多かった中世シチリアを研究対象に選びました。そこでは、ラテン文化、ビザンツ文化、イスラム文化が併存し、ラテン語、ギリシア語、アラビア語が公用語として使われており、多様な文化が重層する歴史の複雑さと多言語史料読解の困難さのために未解決の謎が多く、知的刺激に満ちていました。
 
大学院進学後は、異なる文化的背景の役人から構成され三つの言語の用語が錯綜するノルマン・シチリア王国の行政機構に焦点を絞り、1982年に修士論文『12世紀シチリアにおけるノルマンの財務行政機構』を提出しました。この修士論文のテーマがその後の私の研究の中心となり、本書の第一部に収めた諸論文、さらに、エール大学に提出した博士論文へとつながることになります。その後、米国とヨーロッパで研究を進め、西洋中世史を主導する研究者たちと議論を重ね、その成果を、米国、英国、ドイツ、イタリア、フランスの学会や学術機関、専門誌で発表してきました。
 
中世シチリアの研究を始めてから、私の関心は、当初の中世シチリアの行政組織から、中世地中海の異文化接触・交流、中世ヨーロッパの統治システムの比較、地中海三大文化圏の比較、歴史における現在のグローバル化現象の位置づけなど、より広いテーマにまで広がり、現在に至っています。複数の文化・宗教が併存していた中世シチリアは、グローバル化が進行し多様な文化的背景をもつ人々が交流・衝突する現代世界と共通する側面を有しており、現代世界理解のための有益な示唆を与えてくれると思っています。

(*) ただし、13篇の論文のうち最後のものは、本書刊行後に英訳版が刊行されました。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 高山 博 / 2017)

本の目次

序章  ノルマン・シチリア王国と歴史家たち
 
               第一部  行政機構と官僚
 
第一章  十二世紀シチリアにおけるノルマンの財務行政機構
第二章  十二世紀シチリアにおけるファミリアーレース・レギスと王国最高顧問団
第三章  十二世紀ノルマン・シチリア王国の行政官僚
第四章  ノルマン・シチリア王国のアミーラトゥス――ノルマン行政の頂点に立つアラブ官職
第五章  ノルマン・シチリア王国の行政機構再考
 
                第二部  権力と統治システム
 
第六章  シチリア伯ロゲリウス一世の統治――ノルマン統治システムの基礎
第七章  中世シチリアの宮廷と王権――権力中枢の変化と多文化的要素
第八章  ノルマン・シチリア王国の権力構造――王、貴族、官僚、都市
第九章  南イタリアにおける法と君主国
 
                第三部  宗教と異文化併存
 
第十章  シチリアにおける「宗教的寛容」――ノルマン君主支配下のムスリム
第十一章  フレデリクス二世の十字軍――キリスト教徒とイスラム教徒の外交の一例
第十二章  地中海地域と極東における移住――中世のシチリア島と日本
第十三章  中世シチリアにおける農民の階層区分
 
                附録
書評1: Graham A. Loud, Church and Society of the Principality of Capua 1058-1197 (Oxford U.P., 1985).
書評2: Joanna H. Drell, Kinship and Conquest: Family Strategies in the Principality of Salerno (Cornell U.P., 2002).
書評3: Alex Metcalfe, The Muslims of Medieval Italy (Edinburgh U.P., 2009).
 

関連情報

出版情報:
英語論文を収録した書籍『Sicily and the Mediterranean in the Middle Ages』(2019年4月5日出版 Routledge)
https://www.routledge.com/Sicily-and-the-Mediterranean-in-the-Middle-Ages/Takayama/p/book/9781138496194

書評:
『西洋史学』259号 (2015年)
『地中海学研究』39号 (2016年)
『歴史学研究』953号 (2017年)
 

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