東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

a hand of bananasはどんな手?とイラストが掲載された白と深緑の表紙

書籍名

英単語の世界 多義語と意味変化から見る

著者名

寺澤 盾

判型など

224ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2016年11月17日

ISBN コード

978-4-12-102407-7

出版社

中央公論新社

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英単語の世界

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英語辞典で英単語を引いてみると、意味が一つしかない単語はごくまれで多くのものは複数の意味をもっていることがかわります。たとえば、barという語には、「バー (酒場)」、「棒」、「チョコレートバー」、「柵」、「カウンター」、「法廷」など、多岐にわたる意味が見られます。本書では、多義語のさまざまな意味の間の繋がりを語の史的意味変化を辿ることで見ていきます。そのことによって、一見縁もゆかりもないと思われた異なる意味が結びついていることを知ることは、多くの読者にとっても新鮮な発見になることと思います。
 
意味変化は決して無秩序におこるのではなく、ある意味から別の意味に変化するときには、2つのものや事柄の間に何らかの連想関係が見られます。たとえば、barの場合、「棒」から「チョコレートバー」への意味の転用は形の類似性によります。また「棒状のもの」と「柵」の間には必ずしも類似性は見られませんが、前者は後者の素材となっている点で2つのものは密接な関係にあると言えます。さらに、「柵」と「カウンター」は空間・場所を仕切る機能が共通しています。「カウンター」と「バー」については、前者は後者の一部をなしています。
 
意味変化のしくみを知っていれば、過去の意味変化の集積である多義語の異なる意味にも繋がりが見いだせ、そのことは多義語の意味を覚えることにも役立つと思われます。本書では、意味変化に関する知識が多義語の学習において有用であることも示していきます。
 
語の意味は時とともに変化していきその結果、1つの語が複数の意味をもつ多義語になりますが、そもそも意味はなぜ変化するのでしょうか。本書では、意味変化の原因について、社会に関わる要因、言語使用者に関わる要因、言語そのものに関わる要因の3つを見ていきます。
 
さて、多義性や意味変化の問題を扱うとき、従来は前置詞、助動詞、接続詞といった機能語に焦点が当てられることはあまりありませんでした。前置詞のofにはthe leg of the tableのように「所有・所属」を表す意味のほか、I was robbed of my purse. (財布を奪われた) のように「分離・剥奪」の用法も見られますが、一見正反対にも思える両者の意味はどのように関連しているのでしょうか。本書では、機能語に見られる多義性の問題、とりわけ異なる意味・用法がどのように繋がっているのかを歴史的な観点から考察します。
 
意味の問題は、語の意味や意味変化だけでなく、ある意味を表すのにどのような語が用いられるかという角度からも考察できます。ある意味領域を歴史的に見てみると、そこでは新規参入した語がすでにあった語を廃用に追いやるなど、語同士の生存競争 (意味のエコロジー) がしばしば見られます。
 
本書を通して不思議が一杯の英単語の世界を探索していただけば幸甚です。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 寺澤 盾 / 2017)

本の目次

まえがき
 
第1章  もっとも語義の多い英単語は? — 多義語のさまざまな意味
第2章  a hand of bananasはどんな手? —「似ているもの」で喩える
第3章  bottleを飲み干す — 「近くにあるもの」で指し示す
第4章  quite a fewはなぜ「たくさん」? — 意味変化の原因
第5章  youは多義語 — 機能語の多様な意味を繋ぐ
第6章  トイレを表す語彙の変遷 — 意味のエコロジー
終 章  一語一義主義 — 多義語と英単語学習
 
あとがき
文献案内
用語解説
人名・作品名・事項索引
語句索引
Promenade

 

関連情報

朝日新聞 (朝刊) 2016年12月18日
新川清治 (書評)『英語教育』第65巻第13号,pp. 91-92 (大修館書店 2017年3月号)
相澤正夫 (書評)『日本語学』第36巻第5号,pp. 96-97 (明治書院 2017年5月号)
野矢茂樹 (書評) 『言語・情報・テクスト』第24巻 (東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻 2017年)

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