東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の上に青いスクエアのグラデーション模様

書籍名

社会の芸術 / 芸術という社会 社会とアートの関係、その再創造に向けて

判型など

352ページ、A5判、ソフトカバー

言語

日本語

発行年月日

2016年12月22日

ISBN コード

978-4-8459-1609-2

出版社

フィルムアート社

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社会の芸術 / 芸術という社会

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「芸術」「アート」という単語がタイトルに入ってはいるものの、本書は、いわゆる美術 / 芸術論とも、美学や美術史とも、あるいは個別の作品やジャンルについての考察とも、少し異なるアプローチをとっている。目次が示すように、本書において試みられているのは、現代日本における <アート> という制度を、それと無関係ではないがそこに回収されるわけでもないその他の諸制度との関わりにおいて検討すること — 本書の編者の一人である東京大学の北田暁大の「まえがき」の言葉を借りるならば「『アートと社会の相互反映性』を領域横断的に考察していくこと」 — である。
 
もちろんこれは、<アート> と <社会> とをそれぞれに独立した異なる制度とみなしてその両者の関係を考える、ということではない。むしろ、<アート> とはどのような実践からなりどのような人々のかかわりによって形作られた制度であるのか、それは <アート> という制度を超えた他の諸制度によってどのように支えられ / 制限されているのか、同時にそれらの諸制度と交渉しつつどのような機能や作用を果たしているのか、「社会の芸術 / 芸術という社会」というタイトルが示すように、その両者の多層にわたる複雑な絡みあいを考察するのが、本書の目的である。
 
そのために本書が採用するのが、北田のいう「異種格闘技」的なアプローチである。本書には確かにアーティストやキュレーター、あるいは美術 / 芸術の研究者や批評家による考察や対談も含まれるものの、それとほぼ同数あるいはそれ以上のいわば狭義の <アート> の部外者が論考を寄せている。それに加えて本書の「異種格闘技」的色彩をさらに強めているのは、「表現の自由・不自由」「多文化主義」「包摂と排除」「搾取」「公共性」という章立てをもつ本書の構成それ自体だろう。
 
猥褻性と検閲の問題、性的・人種的・民族的少数者の表象の問題、ジェンダーやセクシュアリティの問題、労働の問題、美術館という場所の問題 — <アート> の考察に際して二次的・周辺的な問題とみなされることがまだ多いこれらを各章のテーマとして打ち出す構成によって、本書はこれらの「二次的・周辺的な問題」を、<アート> の核心から外されていても (あるいはまさにそうだからこそ) <アート> を取り巻き <アート> の輪郭をかたちづくる要素として、設定する。
 
そして、各章の論考が示すように、現代の日本の <社会> において、狭義の <アート> がそれと異なる制度と遭遇し、異なる原理によって判断や論評をされ、異なる集団に影響され / 影響を与える場、すなわち「異種格闘技」の場となっているのは、まさしくこれらの領域である。<アート> と <社会> とがもっとも刺激的な化学反応を生み出す場、<アート> が強烈に社会的であり <社会> が芸術表現と決して無関係ではいられない場 — 本書が指し示そうとするのは、その領域なのだ。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 清水 晶子 / 2017)

本の目次

まえがき………北田暁大
 
第一章  表現の自由・不自由
イントロダクション………北田暁大
[論考]
芸術表現の自由と憲法上の「表現の自由」………志田陽子
制度としての美術館、あるいは表現の「場」と媒介者………成原 慧
[フォーラム総括]
表現の自由と規制との間で考えるべきこと………神野真吾
 
第二章  多文化主義
イントロダクション………北田暁大
[論考]
多文化主義なき多文化社会、日本………韓 東賢
表現の自由 / 表現が侵害する自由 - アートはヘイトスピーチとどう向き合うべきか………明戸隆浩
[フォーラム総括]
多文化主義とアート - アイデンティティの表現をめぐって………神野真吾
 
第三章  包摂と排除
イントロダクション………神野真吾
[論考]
欲望と正義 - 山の両側からトンネルを掘る………岸 政彦
ポルノ表現について考えるときに覚えておくべきただ一つのシンプルなこと (あるいはいくつものそれほどシンプルではない議論) ………清水晶子
[フォーラム総括]
誰が何から排除されているのか………神野真吾
 
対談1
現代美術の表現から考える - 方法・技術・戦略………高嶺 格 x チェ・キョンファ
 
第四章  搾取
イントロダクション………北田暁大
[論考]
遍在化 / 空洞化する「搾取」と労働としてのアート - やりがい搾取論を越えて………仁平典宏
[フォーラム総括]
アートにおいて交換される価値とは………神野真吾
 
対談2
芸術生産の現場から考える - 労働・キャリア・マネジメント………藤井 光 x 吉澤弥生
 
第五章  公共性
イントロダクション………北田暁大
[論考]
ハーバーマスとアレントの理論から考える「公共性」………間庭大祐
[フォーラム総括]
公共(性)とアート - 「社会の芸術」の実現にあたって………神野真吾
 
対談3
美術館の公共性から考える - コレクション・展示・教育………蔵屋美香 x 神野真吾
 
ソーシャリー・エンゲイジド・アートとしての九〇年代京都における社会 / 芸術運動と『S/N』………竹田恵子
 
アートの開かれた王室問題 - あとがきにかえて………神野真吾
 

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