躍動する韓国の社会教育・生涯学習 市民・地域・学び
本書は、近年大きな躍動を見せている韓国の生涯学習 (韓国語では平生学習) の実践と政策を日韓の研究者・実践家30人余りが結集し、5年の歳月をかけて、「市民・地域・学び」を切り口に描き出した本である。今から約10年前に出された黄宗建・小林文人・伊藤長和編『韓国の社会教育・生涯学習-市民社会の創造に向けて』(エイデル研究所、2006年) に続くものであり、同書出版から10年が過ぎたが、その間韓国の生涯学習は政策と実践両面において大きな変化と発展を遂げている。2006年の本が韓国社会教育・生涯学習の歴史や政策動向に比重を置いていたことに対し、本書は制度的なアプローチよりは実践の躍動的な変化を読み取ろうと努力した本といえる。
韓国の生涯学習は、1995年に打ち出された「5・31教育改革方案」においてその重要性が叫ばれ、法制をはじめとする生涯学習推進体制の構築が本格的に取り組まれるようになる。その後、生涯学習都市造成事業や生涯学習フェスティバル等の官主導の生涯学習関連事業が次々と進められ、生涯学習に対する関心や認識も高まり、全国各地への広がりを見せるようになる。生涯学習の全国的な広がりは、1990年代半ばに復活した地方自治制度とともに、ほぼ同時期に大きな躍動を見せた市民運動が追い風となってさらに拡大していく。とくに、2007年生涯教育法全面改正後の動きは刮目すべきである。従来の官主導型生涯学習に、市民やNPOなどによる多様な実践が加わることで、生涯学習における多元的なセクターによる広がりと深まりがみられる。
本書では、主に生涯学習法の2007年全面改正後の新たな動きを丁寧に捉え、市民の動きから始まり、政策として充実してきた経過をわかりやすく紹介している。また「注目ポイント」として、各節ごとに特徴的な点をまとめている。そして、20年以上の日韓交流で見えてきた社会教育・生涯学習における共通認識をもとにしながら今後の課題について、日韓を代表する生涯学習研究者及び実践家が交わした座談会の記録も収録している。その他に、様々な実践・研究交流を積み重ねてきた研究者・実践家による「コラム」をはじめ、地域の実践をもとに生み出され、新たな実践を支えている10の宣言・条例を集めた「特別編」、生涯教育法、年表、統計、基本的な用語と訳語をコンパクトにまとめた「資料編」なども充実しており、韓国の生涯学習に対する理解を手助けするものとなっている。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 李 正連 / 2017)
本の目次
第1章 市民社会を育む学習共同体
第2章 格差社会を乗り越える平生学習
第3章 働く希望を創る平生学習
第4章 平生学習の多面的展開―すべての人々に教育を―
第5章 未来を開く平生学習政策
第6章 今、韓国の平生学習の躍動を語る (座談会) ―政治・行政-研究-実践・運動のダイナミズム―
特論 韓国・平生教育の“躍動”が示唆するもの―平生教育・立法運動に関連して―
終章 日本と韓国の社会教育・平生教育はどう学びあうか
特別編 韓国の平生学習の歩みが紡ぎだす10の宣言・条例
資料編 平生教育法 (2007年全部改正) / 年表 / 統計 / 基本的な用語と訳語