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書籍名

Schools and Schooling in Asia Teacher evaluation policies and practices in Japan How performativity works in schools

著者名

Masaaki Katsuno

判型など

152ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2016年3月31日

ISBN コード

9781138853133

出版社

Routledge

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学内図書館貸出状況(OPAC)

Teacher evaluation policies and practices in Japan

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近年、より良い教育成果を保証するためには教師の質を測定し、向上することが重要であるという理解とともに、教員評価に対する関心が世界的に高まっている。たとえば、NCLB法 (No Child Left Behind Act) 制定以降のアメリカは、結果に基づくアカウンタビリティと、教育の成果を向上させるための手段としての教員評価への関心が合流を見た好例である。前オバマ政権が採用した「頂点への競争 (Race to the Top)」の財政スキームとNCLB法の免除手続きによって、テストスコアが教師と授業について何を明らかにし得るのかが学術的に確立されていないのにも関わらず、多くの州で標準化されたテストで測定される子どもたちの学力による教員評価が実施された。
 
日本では2000年前後から、教師の資質・能力や業績への関心が高まり、教育委員会による「新しい教員評価」の導入が始まった。その背景には、いじめ、不登校、学力低下など教育諸課題の深刻化や「指導力不足教員」問題が注目を集めたことに加え、職務・職責・勤務実績を反映した成果主義的給与制度への移行もあった。現在、ほぼすべての公立学校教員を対象に実施されている「新しい教員評価」では、教師一人ひとりが職務に関する目標を組織目標に基づいて設定し、職務に取り組み、年度末にその成果を自己評価したうえで校長等の評価者と面談を行う「目標管理」のサイクルが組み込まれている点が、かつての「勤務評定」とは異なる特徴である。
 
日本の教員評価は、今のところアメリカのように学力テスト結果が重視される制度ではないが、教師たちはこれまでとは異なるやり方で自分の業績や能力を説明しなければならなくなっていることは確かである。本書において著者は、この新たなアカウンタビリティ (accountabilities) の性質と影響を解明することを目指した。
 
日本の教育は、海外の研究者や政策決定者の目にはしばしば成功事例として映っている。特に日本の教師教育については、授業研究や初任者教育 (研修) に対する評価がきわめて高い。その一方で、日本の教育は学習指導要領や教科書検定を通じた国家的統制が強く、教師が専門的な裁量を発揮する余地が少ないとも指摘されてきた。近年の教育制度の分権化改革や市場原理の導入によって、この国家統制が弱まっているか、教師の専門的自律性にどんな影響を与えているかは重要な研究課題だが、著者は必ずしも楽観視できないと思う。本書で、その一端を明らかにしているように、組織的目標や国家的な教育改革からの要求を内面化して実行することを強いられ、自己の専門的な価値観や信念との間の板挟みに苦しんでいる教師たちが存在している。教師が「教師であること」の意味を強く動揺させられている、この過程において教員評価は看過できない役割を果たしている。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 勝野 正章 / 2017)

本の目次

1. Introduction
2. New Teacher Evaluation Policies
3. Theories of Teacher Evaluation and Performativity
4. Views on New Teacher Evaluation Policies
5. The Enactment of the New Teacher Evaluation Policies
6. Conclusion
 

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