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書籍名

最新 教えて考えさせる授業 小学校 深い学びとメタ認知を促す授業プラン

判型など

200ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2016年

ISBN コード

978-4-8100-6680-7

出版社

図書文化社

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最新 教えて考えさせる授業 小学校

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学校教育では、知識や技能の習得を目指す学習と、自ら設定した課題を探究する学習とがある。「教えて考えさせる授業」とは、クラス内学力差の大きな普通の学校で、深く高い習得を達成するための現実的な授業設計論として提案された。授業の前半には教師が教材・教具を工夫してわかりやすく教えることを重視した「受容学習」、後半には学力の高い子にとっても取り組みがいのある課題を使った「協同的問題解決」を置くのが基本的考え方である。
 
「何をあたりまえのことを言っているのか」と思う人もいるだろうが、現実の教育場面はけっしてそうなっていないことが多いのだ。時代により、地域により、校種 (小・中・高の別) により、極端から極端に大きく揺れ動いてしまうのである。教師が次々に教えるだけの授業、逆に、教師は教えずに子どもに自力解決や討論を促すだけの授業、どちらも、多くの人が経験してきたのではないだろうか。学力の低い子は、どちらの授業でも参加しにくい。
 
私たちは、長年行ってきた個別学習相談での児童生徒の声や、実際の授業観察から、こうした日本の教育が陥りがちな姿に大きな疑問をもつようになった。そして、2001年に「(予習) -教師の説明-理解確認-理解深化-自己評価- (復習)」という学習サイクルを通して、深い意味理解を伴った習得を目指す授業スタイルを提案した。いわゆる「ゆとり教育」のあと、学力低下論争が起こり、教育行政や学校も学力向上に舵をきろうとしていた時期である。
 
「教えて考えさせる授業」の基本的な考え方は「超オーソドックス」ともいえるが、それぞれの段階には、私たちが背景としている認知心理学における、先行オーガナイザー、素朴概念、相互説明、協同的問題解決、メタ認知、動機づけなどの理論や知見が込められている。「あたりまえの授業」ではあるが、けっして「ありふれた授業」ではない。学習者の認知、理解のメカニズムを考慮しながらも、子どもの活動だけに委ねているわけではないところが特徴である。
 
その後現在に至るまで、「教えて考えさせる」というフレーズや、教授と活動のバランスへの配慮ということは、中教審答申にも繰り返し盛り込まれるようになり、継続している学校では学力面、学習意欲面で大きな成果が現れるようになった。私たちの研究スタイルもこの間、ずいぶん変わった。実験や調査で学術的知見を示すだけでなく、年間数十回は指導案づくり、授業の実施、授業後の検討会などに関わるようになった。
 
これまでにも、実践事例集はいくつか公刊されているが、年を追うごとにその質は高まりつつある。本書は、最も新しいもので、実技教科、英語、道徳なども含まれ、「教えて考えさせる授業」の全体像や特色がよく表れたものになっている。教育心理学と教育実践フィールドがどのように連携協力していくかについても、これからの一つのあり方として参考にしてもらえればと思う。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 市川 伸一、教育学研究科 助教 植阪 友理 / 2017)

本の目次

Part 1 「教えて考えさせる授業」設計と展開のポイント
  1 「教えて考えさせる授業」とその展開状況
  2 「教えて考えさせる授業」づくりの工夫と注意
  3 学び方と学習観を育てる「教えて考えさせる授業」
  4 教育の新しい動向と「教えて考えさせる授業」
 
Part 2 教科別授業プラン
  1 算数2年 分数:「半分の半分」を分数で表す
  2 算数4年 直方体と立方体:立方体になる展開図について考えよう
  3 算数5年 平均とその利用:部分の平均から,全体の平均を求めるには
  4 算数6年 ともなって変わる量:「比例・反比例・どちらでもない」を判断するには
  5 国語3年 国語辞典の使い方:見出し語の順序を理解する
  6 国語4年 説明文の構造をつかむ:筆者の「考え」と「その理由」を読み取る
  7 国語5年 わかりやすく伝える:推敲の力をつけるには
  8 国語5年 物語文「わらぐつの中の神様」:人物像を「価値観」という視点からとらえる
  9 理科4年 もののあたたまり方:水と金属のあたたまり方の違い
  10 理科5年 流れる水のはたらき:この川の防災対策は大丈夫?
  11 理科6年 てこのはたらき:支点,力点,作用点はどこにあるか
  12 社会3年 私たちのくらしとお店ではたらく人々:身近な資料から「なぜ」を考える
  13 社会5年 情報化した社会と私たちの生活:なぜ総合病院は情報ネットワークを導入しているのか
  14 社会6年 国民主権と選挙:自分のこととして選挙を考えよう
  15 家庭5年 工夫しよう,さわやかな生活:「衣服の汚れ」を目で見てみよう
  16 体育5年 ゴール型のボール運動/バスケットボール:状況に応じた技能を身につける
  17 音楽5年 日本音楽の創作活動:ぼくも わたしも 作曲家
  18 図工2年 ぼかし遊び:魔法をかけて,生まれた世界は
  19 外国語 (英語) 6年 When is your birthday?:基本文の一部を変えて表現する
  20 道徳6年 いろいろな立場で考える:「泣いた赤鬼」を高学年で読み直す
 
Part 3 実践校の取組レポート
  1 北海道 室蘭市立八丁平小学校:教師による的確な説明と理解確認の工夫
  2 東京都 品川区立第二延山小学校:自立した学習者の育成
  3 沖縄県 うるま市立宮森小学校:「教えて考えさせる授業」で国語・算数の学力向上を実現
  4 大阪府 貝塚市立東山小学校:課題の難易度を下げずにすべての子どもがわかる授業を目指す
 

関連情報

参照ホームページ:
教えて考えさせる授業 / 市川研究室HP
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/lab/ichikawa/ok-toppage.html
 
書評その他の情報:
「教えて考えさせる授業」とは? 認知心理学から見た習得型アクティブラーニング (先生のための教育事典EDUPEDIA / 2016年12月29日)
https://edupedia.jp/article/57c4dd17aa18ce00003c0fb9
 
教えて考えさせる授業 小学校 (教育新聞 / 2016年10月24日)
https://www.kyobun.co.jp/book-reviews/r20161024_04/
 
最新 教えて考えさせる授業 小学校 (先生解決ネット / 2017年2月27日)
http://www.kyoiku-press.com/modules/smartsection/item.php?itemid=66434
 

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