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黄色の表紙

書籍名

メタ言語能力を育てる文法授業 英語科と国語科の連携

判型など

304ページ、A5判、並製カバー装

言語

日本語

発行年月日

2019年8月

ISBN コード

978-4-89476-896-3

出版社

ひつじ書房

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メタ言語能力を育てる文法授業

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「ことば」は、人間の知的営みにおいて欠かすことができない。学校における教科学習も「ことば」を媒介にして営まれる。我が国において2020年度から学校段階ごとに順次施行されている新たな学習指導要領では、言語能力は教科を超えてすべての学習の基盤となるものと位置づけられている。各教科においては、教科の学習内容や見方・考え方と密接に結びついた教科に特有の言語使用 (表現) に必要な語彙 (概念) や文型を学ぶ。教科に固有の資質・能力としてこれらに習熟することが教科学習の目標の一つであるといってよいだろう。その目標を達成するためには、各教科における語彙や文型の獲得や使用を支える能力を、教科を超えて育むことが必要なのである。このような能力を「メタ言語能力」といってよいだろう。
 
人間が自分の認知過程を対象化してとらえコントロールできる能力のことを「メタ認知」という。メタ言語能力はメタ認知の一種で、言語についてのメタ認知である。つまり、メタ言語能力とは自身の言語産出や言語使用についてモニタリングすること、モニタリング結果に基づいて言語産出や使用の過程を調整したり制御したりすることができる力ということになる。
 
本書は、「メタ言語能力」をさらに「文法」に特化した「メタ文法能力」の育成を目的として、本学教育学部附属中等教育学校との連携による英語科と国語科との教科横断的な実践、プロジェクトメンバー自身による実践の報告を中心として、実践構想のよりどころとなった日本と中国の英語科における文法学習の系譜を紹介している。
 
英語科と国語科の連携のかたちをとったのは、この二つの教科は、「ことばを用いてことばを学ぶ」という特徴があるためである。上述のように、教科学習においては、教科の学習内容や見方・考え方と密接に結びついた教科に特有の言語使用に必要な語彙や文型を学ぶ。英語科も国語科もことばを理解し、ことばを語るための語彙や文法を学ぶ、という点でことばを意識的かつ相対的に学ぶことが可能になると考えた。また、「文法」に特化したのは、「文法学習」を創造的なものに、という思いによる。中高生にとって「文法」は言語における規則体系で、どちらかといえば知識として暗記し、試験において活用するもの、というイメージが一般的であろう。その規則性に興味関心を抱く者はいても、実際の読解や日常の言語活動における有用性を感じている者は多くない。しかし、我々が文章の意味を解釈しようとするときにはその叙述に加えて文の意味を文法という形式的側面とともにとらえている。つまり、文と自分との接点に実は「文法」があるのだということに気づかせることを企図したのである。
 
執筆者には、大学や高校、中学校で言語教育の実践に携わっている者も多数含まれ、授業デザインへの具体的示唆も随所にちりばめられている。
 
「ことば」の学習に関心のあるかた、言語教師を目指しているかたに、ぜひ手にとっていただきたい。
 

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 秋田 喜代美、教授 藤江 康彦 / 2021)

本の目次

第1章 英語教育の現状と課題  斎藤兆史
 
第2章 日中の英文法教育に関する先行研究
 1.日本の英語教育における言語横断的文法指導の展開  柾木貴之
 2.中国の英語教育における文法指導の展開と現在  王 林鋒
 
第3章 英語科教員による実践
 1.日本語と英語の文法を比較してメタ文法能力を育成する  越智 豊
 2.メタ文法能力の育成を通じて英語表現力を伸ばす  沖濱真治
 
第4章 国語科教員による実践  大井和彦
 
第5章 メタ文法プロジェクトの実践と授業デザインのポイント  藤江康彦
 
第6章 メタ文法能力の育成を目指した英語授業の分析  藤森千尋
 
第7章 メタ文法能力の育成に向けた授業案  三瓶ゆき・柾木貴之
 
第8章 メタ言語能力の育成を基盤に置いた言語教育を目指して  大津由紀雄
 
第9章 コンピテンシーの育成を核とする教育イノベーションへの挑戦の試み  秋田喜代美
 
執筆者紹介
 

関連情報

書評:
臼倉美里 評 (『英語教育』2020年1月号Vol.68 No.11 2019年12月13日)
https://www.taishukan.co.jp/book/b492388.html

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