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書籍名

中公文庫 英語襲来と日本人 今なお続く苦悶と狂乱

著者名

斎藤 兆史

判型など

224ページ、文庫本

言語

日本語

発行年月日

2017年1月19日

ISBN コード

978-4-12-206355-6

出版社

中央公論新社

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英語襲来と日本人

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英語教育は、日本の教育問題の中でも、かなり重要度の高い問題として議論されることが多い。特に、いわゆる「グローバル化社会」において、英語を身につけることは必須であるとの前提で、様々な英語教育改革が提言・実行されている。その際に頻繁に現れる議論として、日本の今まで英語教育のあり方は間違っていた、失敗であった、というものがある。文法・訳読主義の方法論ばかりを採ってきたために、日本人は十分な英語力を獲得するに至らなかったのだ、と。そのような議論や考え方に則り、昭和後期から実用コミュニケーション主義の英語教育が実践されているが、その効果も不明である。本書は、日本の英語教育の議論における「失敗仮説」に根拠があるのかどうか、さらに日本人にとって本当によい英語教育とはどのようなものかを再考するために、英語が初めて日本に上陸 (襲来) して以来の、日本人と英語との付き合い方を、歴史的考察を踏まえて記述したものである。
 
江戸時代、日本人は、和蘭通詞たちを中心として、英語という正体不明の言語と格闘し、国防のための英学を確立させた。明治時代初期は、日本史上他に例を見ないほどの英語偏重の時代である。とはいえ、実際に高度な英語力を身につけたのは、新渡戸稲造をはじめ、特別な努力をした者たちのみであった。明治中期、日本が近代国家として成長し、教育が国語化されると、英語は実学における機能を失い、学力判定の指標、あるいは学問的研究の対象となった。大正から昭和にかけては、軍国主義の台頭もあり、いくら勉強しても身につかない英語など、教育現場から排除せよとの英語廃止論が沸き起こり、戦前戦中は、さらに英語は敵性語・敵国語となった。生後、アメリカの影響下で英語ブームが巻き起こり、そのブームを引き継ぐかのような「グローバル英語」論が現在も喧しいが、さっぱり日本人の英語力は向上しない。
 
このような歴史的考察から考えられるのは、そもそも日本人にとって英語は習得困難な言語であって、それを教育によって全員に身につけさせようというのがどだい無理ということである。英語教育の「失敗仮説」に基づく改革を推し進めていく限り、英語教育のさらなる混乱が危惧される。英語を身につけるには、学校教育における文法や読解の基礎に加えて自分で努力をする必要があるとの考え方に切り替えていくことが重要となる。

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 斎藤 兆史 / 2017)

本の目次

プロローグ  福沢・新渡戸・夏目の英語受容史
第1章  江戸時代の英語
第2章  明治時代の英語
第3章  大正・昭和・平成の英語
第4章  これからの英語
エピローグ  日本人の学びの知恵
 

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