東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白とマゼンダの二色を使った表紙

書籍名

岩波ブックレット No.984 検証 迷走する英語入試 スピーキング導入と民間委託

判型など

96ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2018年6月5日

ISBN コード

9784002709840

出版社

岩波書店

出版社URL

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検証 迷走する英語入試

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2020年度に実施される大学入試から、共通テストの一環として、英検やTOEIC等の民間試験が導入されようとしています。さらに、その4年後には、大学入試センターが作成する英語試験を廃止し、民間試験に一本化する案まで出ています。この「改革」には多くの問題があり、このまま進められると大きな混乱を引き起こすことが予想されます。すでに英語教育やテストの専門家から批判の声が上がっていますが、まだ一般には事の重大さや危険が十分には知られていません。本書は、「改革」の実施年度が迫るなか、共通テストへの民間試験導入に伴うさまざまな課題を整理・検証し、大学・高校関係者、そして大学入試および英語教育に関心をおもちの方々と、広く理解を共有するために緊急出版したものです。
 
民間試験には、現行の大学入試センター試験にはないスピーキングとライティングが含まれています。特にスピーキングの導入は、英語を話すことが苦手な日本人が多い現状を打開する「改革の目玉」とされています。話すことが苦手なのは、高校までに話すことの指導が十分になされていないからであり、さらにその原因は大学入試にスピーキングがないことにある、したがって、大学入試にスピーキングを導入すれば、その波及効果で問題が解決するという「論理」です。この「論理」は一見、もっともらしく感じられるかもしれませんが、現実には非常に多くの問題点が指摘されます。以下はその一部です。
 
・高校での限られた学習時間が民間試験のスピーキング対策に偏ることになったら、大学での学習により必要な基礎的・総合的な力がかえって弱まるのではないか。
・もともと異なる目的で開発され、異なる測定内容をもつ複数の民間試験の成績を互いに比較することができるのか。
・そもそも50万人もの受験生に、機器等の事故もなく、センター試験のような高度のセキュリティ環境で実施することができるのか。
・採点には膨大な人 x 時間がかかるが、採点者はどうやって調達するのか。採点結果は、大学入試に求められる水準の信頼性があるのか。
・受験期よりも早い時期から受けることができるため、大学受験の早期化、長期化をもたらすのではないか。
 
本書の特徴の一つは、多様な背景をもつ執筆者の構成にあります。全国高等学校長協会の会長であった宮本久也氏は高校現場の立場から、そして応用言語学が専門でスピーキングテストの開発を主導してきた羽藤由美氏は民間試験の選定と成績比較について、問題提起をしています。『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房) の著書もある英米文学者の阿部公彦氏は、スピーキングの導入が狙いとは逆の効果をもたらす危険を指摘し、最後に高等教育が専門で元・大学入試センター副所長の荒井克弘氏は、広く高大接続改革の問題という観点から論を展開しています。編者の私はテスト理論の研究者です。
 
本書が、迷走 (暴走?) する英語入試「改革」の歯止めに役立つことを願っています。
 

(紹介文執筆者: 高大接続研究開発センター センター長 南風原 朝和 / 2018)

本の目次

はじめに (南風原朝和)
 
第1章  英語入試改革の現状と共通テストのゆくえ (南風原朝和)
第2章  高校から見た英語入試改革の問題点 (宮本久也)
第3章  民間試験の何が問題なのか―CEFR対照表と試験選定の検証より (羽藤由美)
第4章  なぜスピーキング入試で、スピーキング力が落ちるのか (阿部公彦)
第5章  高大接続改革の迷走 (荒井克弘)
 
年表 入試改革全体と英語入試改革の流れ (南風原朝和)
 

関連情報

本書刊行の契機となった東京大学高大接続研究開発センター主催シンポジウム「大学入学者選抜における英語試験のあり方をめぐって」の報告書
https://www.ct.u-tokyo.ac.jp/news/20180210-symposium/
 
書評:
金曜J-CAST書評「2020年から大学入試にTOEFLやTOEIC、大丈夫なのか?」(BOOKウォッチ 2018年7月20日)
https://www.j-cast.com/bookwatch/2018/07/20007657.html

週刊ダイヤモンド 2018年10月27日号

学研・進学情報 2018年11月号