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白い本に黄色い帯

書籍名

大学入試がわかる本 改革を議論するための基礎知識

判型など

362ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2020年9月25日

ISBN コード

9784000614214

出版社

岩波書店

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大学入試がわかる本

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私はこれまで戦後社会変動と日本の教育選抜の仕組みの関連を中心に研究をしてきました。その研究を進める中で重要なフィールドの一つとなっていたのが大学入試でした。若いころに私が執筆した論文で、25年も前の論文なのに現在でも参照される「推薦入学制度の公認とマス選抜の成立」(日本教育社会学会編『教育社会学研究』59集)があります。これは、日本の大学入試の選抜システムを教育の大衆化という構造変動との関連で「エリート選抜」と「マス選抜」に区分してとらえることを提案したもので、当時としては仮説的提起をしただけのものでしたが、その後の調査研究でおおむね実態に対応していることが裏付けられています。
 
ところが、昨今の大学入試改革の混乱にみられるように、大学入学者選抜をめぐっては、世間では未だに「エリート選抜」の観点だけからの発言や教育の大衆化をほぼ無視した暴論がまかり通っていました。例えば、「これまでの入試は知識偏重だから改革を」「入試を変えたら高校生は勉強する」みたいな話はその典型です。まったく研究動向が踏まえられていない状況に危機意識をもち、社会的メッセージを自ら発信するようになりました。その過程で見回してみると、自分とは異なる専門分野の方々もまた同じように、大学入試改革については専門的基礎知識が踏まえられていないことを嘆いていることがわかってきました。英語教育然り、試験制度研究然り、高大接続論然り、テスト理論然り、といった状況だったのです。
 
こうした状況は多くの専門家や高校・予備校・大学の教員が声を挙げることで徐々に改善はされていきましたが、いまだに揺り戻しの言説がメディアを通じて出てくるのも事実です。そこで、大学入試に関わるそれぞれの領域の専門家の方々にお願いし、大学入試政策を議論するうえで最低これぐらいは知っておいてほしいという内容をトピックごとにご執筆いただき、広く共有することが今後のために必要だと考えました。それが本書のできた経緯です。
 
二度と同じような失敗を繰り返さないためにも、多くの方々に読んでいただきたい本だと思っています。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 中村 高康 / 2021)

本の目次

序章 これからの入試改革論議に必要なこと…… 中村高康
 
I 歴史と現状
1 入試の試みと失敗史…… 吉野剛弘
2 共通テストの歴史と現状…… 腰越 滋
3 入試の多様化の経緯と現状…… 木村拓也
 
II 試験と選抜のあり方
1 複数回の共通入試は実施できるのか――公平性を確保する項目反応理論とは…… 光永悠彦
2 記述式問題の現在――テスト理論から見た検討課題…… 宇佐美 慧
3 英語スピーキングテスト――入試導入の前提と方法…… 羽藤由美
4 eポートフォリオの入試利用をめぐる功罪…… 大多和直樹
5 大学入試における面接評価…… 西郡 大
 
III 高校から大学へ
1 学習指導要領と大学入試改革…… 小針 誠
2 大学入試における共通試験実施に関わる諸問題――センター試験実施の経験から…… 大塚雄作
3 大学入試は学習誘因となるか…… 山村 滋
4 試験日程と高校教育…… 杉山剛士
5 高大接続改革の現在…… 荒井克弘
 
IV 多様な入試
1 知られざる附属高校からのエスカレーター進学…… 村山詩帆
2 障害のある人々の受験…… 近藤武夫
3 スポーツ推薦の現状…… 栗山靖弘
4 美大(芸術系大学)の受験…… 喜始照宣

関連情報

著者インタビュー:
国立大受験に「情報」追加へ 中村高康・東大教授「受験生の負担重すぎる」 (朝日新聞EduA 2022年2月22日)
https://www.asahi.com/edua/article/14554309
 
2021年度JCERIレポート: 制度改革の視点から高大接続の今後を考える~個別大学の自主性を尊重し、受験生に配慮した設計を (河合塾グループ 2021年3月)
https://www.kawaijuku.jp/jp/research/jceri_report/2021_3/
 
【中村高康先生インタビュー】ROJE関東教育フォーラム『どうなる?大学入試~改革延期の今、何が必要か~』 (EDUPEDIA 2020年10月31日)
https://edupedia.jp/archives/26210
 
著者コラム:
【大学入試改革を問う (1)】「高大接続改革」とは何か (教育新聞 2021年2月12日)
https://www.kyobun.co.jp/education-practice/p20210212/
 
【大学入試改革を問う (2)】英語民間試験導入と不公平 (教育新聞 2021年2月12日)
https://www.kyobun.co.jp/education-practice/p20210216/
 
書評:
濱中淳子 (早稲田大学) 評 (『教育学研究』第88巻第3号, pp.104-105 2021年9月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku/88/3/88_484/_pdf
 
益川弘如 評 (『日本テスト学会誌』Vol.17 No.1, p.130 2021年6月)
http://www.jartest.jp/book17-1.html
 
荒井英治郎 評 (『月刊高校教育』p.102 2021年1月号)
https://www.gakuji.co.jp/script/magDtl.php?prodid=03413-1-2021
https://araieijiro.hatenablog.com/entry/2020/12/16/151936
 
書評 (『IDE現代の高等教育』 2020年7月号)
https://ide-web.net/newpublication/blog.cgi?category=001
 
イベント:
2020年度対話のひろば 第5回「高大接続と多面的評価」 (Be a LEARNER 2021年1月11日)
https://be-a-learner.com/event/dialogue/2005-1/
 
迷走する日本の教育――専門知なき教育政策の問題点 中村高康×川口俊明 (シノドス・トークラウンジ 2020年11月20日)
https://peatix.com/event/1683157?lang=ja

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