
書籍名
やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ よくわかる高等教育論
判型など
214ページ、B5判
言語
日本語
発行年月日
2021年4月30日
ISBN コード
9784623091133
出版社
ミネルヴァ書房
出版社URL
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大学は、かつては社会の指導者を養成する機関であり、ごく一部のエリートしか行きませんでしたが、現在では多くの人が学ぶ場になっています。専らエリート養成機関であった頃の大学は、必ずしも一般の関心を集めるものではありませんでしたが、大学進学者が増えると、学歴社会が注目され、選抜機能を巡って批判的な検討が行われる対象となりました。さらに高等教育の大衆化が進むと、多くの国民が直接に関わる存在となり、また情報化社会や知識社会へと進展するなかで、知識生産や人材養成を担う不可欠の社会制度として期待され、学問的にも検討すべき対象としての存在感を増してきました。
以上は世界的に共通の傾向ですが、とくに日本では、1990年代になって大学進学率はさらに増えたものの、18歳人口減少で定員割れが進み、大学経営は厳しく、政府の財政難で公的支援の拡大もそれほど期待できない状況です。加えて日本経済は長期にデフレ不況が続き、大学の人材養成への期待から、大学教育の効用や職業レリバンスが厳しく問われる状況です。また最近では研究活動における日本の国際的地位の低下が指摘され、日本の大学は教育と研究の活性化のための改革を迫られています。
このように社会に欠かせない制度でありながらも、厳しい状況にある大学・高等教育の在り方については、様々な課題設定や分析・検討がなされる必要があります。しかし、そのための前提となる大学・高等教育に関する知識は十分に普及していません。本書はその知的基盤を形成することを目指して作られました。そのため本書は、受験競争や学歴社会の問題に限らず、現代の大学・高等教育に関わるさまざまな課題を検討するために必要な専門知識を得られるように構成されています。大学の入口と出口から始まり、その間のプロセス (教育機能や教育内容)、その活動を支える組織、制度やシステム、政策やガバナンス、財務や財政について、さらにこれらの日本の特徴を理解するために大学の歴史と国際比較、そしてトピック的にグローバリゼーション、研究者の世界、大学と社会の関係について取り上げました。
本書は、高等教育に関心のある一般の方々向けに作られましたが、同時に大学の「高等教育論」のテキストとして使えるような構成や内容にしました。ただ、高等教育論は「論」というほど高度に学問的ではなく、いまだ成熟した学問分野とはいえません。学問分野の発展 (制度化) には、研究者コミュニティとしての学会と、大学における授業科目や後継者養成プログラムの開設が必要ですが、それと同時にテキストの存在も不可欠です。しかし、日本では大学で高等教育論の授業や講座は少なく、これまで高等教育論の包括的なテキストで手に取りやすいものも限られていました。本書はそういう学部生向けのテキストとしての側面を持ちますが、大学1、2年生でも十分に理解できる内容になっています。本書で、大学・高等教育の問題に関心を高め、さらに専門的に深く学ぶ学生が増えることを期待しています。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 阿曽沼 明裕 / 2023)
本の目次
I イントロダクション
1 大学へ行く意義
2 高等教育研究史
II 大学に入るまで
1 アドミッション・入学
2 入学者選抜方法
3 高大接続
4 受験競争・受験体制
5 機会均等・進路選択
III 大学を出てから
1 就職
2 大学教育のレリバンス
3 学位、資格、称号
4 学習成果
5 適格認定・アクレディテーション
6 退学・留年・休学・転学
7 大学教育の経済効果
IV カリキュラム・内容
1 学士課程教育
2 大学院教育
3 専門職教育
4 職業教育・継続教育
5 カリキュラム
6 学生の学び
7 教授法
8 学習プロセス
9 大学教育とテクノロジー(ICT)
10 教育における社会連携・産学連携
V 構成員と教育研究組織
1 大学生
2 大学教員
3 大学職員
4 基本的な構成単位:学部とカレッジ
5 内部組織の構造
6 大学院組織と研究所
7 大学管理職
VI システムと制度
1 学校教育体系と高等教育
2 短期高等教育機関
3 高等教育機関分類・機能分化
4 設置者別高等教育機関
5 女性の高等教育
6 生涯学習と高等教育
VII ガバナンスと政策
1 外部ガバナンス
2 内部ガバナンス
3 大学・高等教育関係行政機構
4 審議会と答申
5 大学改革と政策
6 チャータリング・設置認可・大学評価
7 学長のリーダーシップ
8 インスティテューショナル・リサーチ
1 中世の大学 ⑴大学の誕生
2 中世の大学 ⑵発展と停滞
3 フランス専門学校主義
4 近代ドイツ大学
5 アメリカ的大学の形成
6 戦前期の日本の高等教育
IX 現代の大学: 20世紀後半以降
1 高等教育の大衆化とトロウモデル
2 イギリスの大学
3 フランスの大学
4 ドイツの大学
5 アメリカの大学
6 中国の大学
7 イスラームの大学
8 戦後日本の大学
X グローバリゼーションのなかの大学
1 大学の国際化
2 アジア高等教育圏
3 欧州高等教育圏
4 国境を越える学生と高等教育機関
5 国際大学ランキングとワールドクラス大学
XI 財政・財務・経営
1 高等教育財政
2 政府財政補助
3 学生納付金と学生への経済支援
4 大学経営と財務
5 アカデミック・キャピタリズム
6 大学病院
7 私学助成
XII 研究者の世界
1 大学における知の生成
2 学界・科学者集団・科学コミュニティ
3 大学と研究機関
4 学術政策
5 大学と科学技術
XIII 大学と社会・経済
1 大学と政府・市場
2 大学と各種団体
3 大学と戦争
4 大学スポーツ
5 産学協同・連携
6 学生運動
7 大学とエピステーメー
8 学歴社会
9 大学とキャンパス
10 学問の自由,大学の自治
さくいん