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紺色の表紙

書籍名

日本の大学経営 自律的・協働的改革をめざして

著者名

両角 亜希子

判型など

424ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年7月20日

ISBN コード

978-4-7989-1639-2

出版社

東信堂

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日本の大学経営

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大学経営は厳しさを増しています。18歳人口は減少し、高齢化の進行と経済成長の鈍化の中で、大学に対する公財政支出も伸び悩んでいます。停滞感の漂う社会の中で、大学に対して、活躍できる人材を育成し輩出することのみならず、知の拠点として、他の機関等とも連携し、社会の様々な問題の解決にさらに貢献することが、求められ、こうした期待にどのように応えていけるのかが組織体としての大学に大きく問われています。
 
かれこれこの30年近く、大学改革が続いている状況で、ガバナンス改革をはじめとする様々な制度改正も行われて、大学の経営陣のみならず教職員の意識や行動も大きく変わりつつあると感じています。しかしながら、未だに大学の努力が足りないという見方は根強く、外部からの改革への圧力は強まる一方で、現在の大学は疲弊し、自律性や主体性を失ってきているように見えます。この本で訴えたいのは、外から押し付けられる改革ではなく、大学や教職員の自律的・内発的な改革こそが重要で、大学経営の中心的な理念となるべきであるというメッセージです。
 
本書は、全部で5部18章、403頁から構成される学術書です。第一部は、大学をめぐる環境の変化、第二部は、厳しさを増す大学財政、第三部は、大学の戦略的マネジメント、第四部は、大学のガバナンス、第五部は、教職員の意識と役割についてと、多岐にわたるテーマを扱っています。大学経営は企業等の経営と類似点も多いですが、異なる独自の視点も多いです。大学組織には教員集団と管理部門・職員集団の組織があり、多くの内部組織から構成されていますが、それぞれの内部組織の価値観や文化は大きく異なります。それぞれの活動の自律性、価値観の多様性、重層的・複雑性を重視しつつ、組織として統合し、協働しつつ、最適解を導き出すことが求められています。大学を経営する者が理解しておかなければならない知識が広いため、本書の構成もまた多岐にわたるものになっています。
 
日本の大学経営についてはこれまで経験談のようなものは多く出版されてきましたが、学術的研究は十分ではありませんでした。この分野の研究者として筆者は、多様で複雑な現場を深く理解しようと、まずは大学へのヒアリング調査を多く行ってきました。そうした質的調査の結果は紙幅の都合でこの本の中にはほとんど入れられませんでしたが、多くのヒアリング等から考えた仮説をもとに、できる限りデータ等で客観的にアプローチすることを重視してこの本をまとめました。大学改革を進めるために、近年の政策ではガバナンスの改革が中心的なテーマでしたが、これまでの分析からはガバナンス (権限問題) よりもマネジメントの確立が重要であること、そのための人材育成が重要であると筆者は考えています。
 
なお本書は、筆者が10年ほどの間に書いた論文の一部を加筆修正し、一冊の本としてまとめたものでそれぞれが独立した内容です。前から順に読むというよりも、関心のある章から目を通してもらう読み方をお勧めします。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 両角 亜希子 / 2021)

本の目次

序 章 大学経営をめぐる状況と課題
 
第一部  大学をめぐる環境変化
第1章  18歳人口の減少のインパクト予測
第2章  私立大学の入学定員充足率の変動
 
第二部 厳しさを増す大学財政
第3章  私立大学財政の変化
第4章  国立大学の経営と人件費
第5章  財務マネジメントの現状と課題
 
第三部 大学の戦略的マネジメント
第6章  マネジメント改革が経営改善に与える影響
第7章  ガバナンス、人事制度、組織風土の影響
第8章  中長期計画の実質化はいかに可能か
第9章  成果の上がる中期計画をどう作るか
第10章 アメリカの大学の戦略的計画
 
第四部 大学のガバナンスの課題
第11章 私立大学のガバナンス改革の課題
第12章 日韓の私立学校法の比較
第13章 大学の統合・連携
 
第五部 大学改革における教職員の役割と意識
第14章 経営人材としての大学職員の役割
第15章 大学経営政策コースの自己評価
第16章 大学改革が教員の活動に与えた影響
第17章 教員の意識の世代間ギャップ
第18章 教育と研究をめぐる教員の意識
 
終 章 日本の大学経営の課題と展望
 

関連情報

著者インタビュー:
東大大学院准教授の両角亜希子さん「混乱期こそ大学のマネジメント力が問われる」 (朝日新聞EduA 2020年7月27日)
https://www.asahi.com/edua/article/13568853

講演、研究会:
大学アドミニストレーション実践研究学位プログラム公開研究会「コロナ禍後の大学教育を考える」 (桜美林大学大学院国際学術研究科 2021年8月21日)
https://www.obirin.ac.jp/event/r11i8i000007uj1t.html
 
大学経営を巡る課題と展望 (日本私立大学協会附置 私学高等教育研究所 2021年6月18日)
https://www.shidaikyo.or.jp/riihe/news/PDF/6ef1fc781c079d54ded089834d0deec55dd6e7de.pdf
 
私大連フォーラム2020「ポストコロナの大学教育のあり方」 (日本私立大学連盟 2021年1月28日、29日)
https://www.shidairen.or.jp/files/user/forum2020.pdf
 
2020年度 第18回 SDフォーラム お問合せ先 新たな価値を生む これからの大学職員の姿
「これからの大学経営と職員の役割」 (大学コンソーシアム京都 2020年10月25日)
http://www.consortium.or.jp/wp-content/uploads/page/34610/18th-SDforum-fliyer.pdf
 
大学経営協会2020新春講演会「私立大学を巡る当面の課題」 (大学経営協会 2020年1月16日)
http://www.u-ma21.com/file/2019/20201213_g.pdf
 
合同シンポジウム「大都市圏の3市大学長が語る大学の未来像」 (名古屋市立大学 2019年9月27日)
http://www.kodaikyo.org/?p=9794
 
 

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