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黄緑色の表紙

書籍名

大学のIR 意思決定支援のための情報収集と分析

著者名

小林 雅之、 山田 礼子 (編著)

判型など

212ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2016年4月25日

ISBN コード

978-4-7664-2279-5

出版社

慶應義塾大学出版会

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大学のIR

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インスティテューショナル・リサーチ (Institutional Research, 以下、IRと略記) は、アメリカの大学で1960年代から実施されている活動である。狭義にはデータ収集と分析をもっぱらとするが、広義にはさらに分析結果に基づき、大学の意思決定の支援を行う。特に重要なのは、具体的なエビデンスに基づき大学の強みと弱みを明らかにして、大学の目指す方向を示すことである。現在、大学にとって不可欠な活動となり、IRのネットワーク活動や調査研究も盛んに行われている。
 
本書は、近年、日本の大学でも注目されているIRについて、とくに大学の質保証との関連、エンロール・マネジメント、学生調査、大学情報公開、大学ベンチマーク、戦略計画や財政計画などを中心にアメリカとの比較と調査統計分析を行い、その特性を明らかにすることによって、日本の大学のIRの発展に資する基本的な知見を得ることを目的としている。
 
本書は文部科学省先導的大学改革推進委託事業「大学におけるIR (インスティテューショナル・リサーチ) の現状と在り方に関する調査研究」を受けて、2015年1月に実施した全国国公私立大学のIR状況調査結果をもとに日本の大学のIRの現状を明らかにし、IRの導入に関する論点を提示している。この調査は、必ずしもIRと銘打っていなくても、さらには自覚されていなくても、日本の大学はIR活動を実施しているのではないか、という問題意識から行った。その結果、多くの大学で既にIR活動が行われていて、2割以上の大学でIR室 (または部署) を設置している。しかし、組織を設置することが目的化されていて、大学としてIRに何を求め、どのように展開していくかについては十分に検討・理解されていない。そのため、実際にIR担当者が業務を遂行しようとすると、各種の障壁に直面し、業務を十分に展開できないため、その必要性が疑問視されていく、というケースもみられる。
 
また、大学執行部においてもIRの必要性の理解、あるいは大学内に山積し、分散している情報を集約するためのIRとそれらを統括する組織の必要性については、理解が進んでいると見られる。しかし、データベースの構築など、具体的にいかに組織化するかについては十分なノウハウがないのが現状である。
 
これに対して、アメリカで発展しているIR関連のネットワークなども日本でもいくつかの試みが見られるが、また萌芽段階と言える。このように、日本の大学のIRが今後発展して定着するのか予断は許さない。とりわけ、IR担当者として調査分析のできる、多くの若手研究者が採用されているが、そのキャリアパスは不確かであり、将来が懸念される。
 
アメリカのIRも決して順風満帆だったわけではなく、多くの試行錯誤の積み重ねで、現在のように大学に定着していった。そこには現在の日本の大学において直面している問題の解決について、示唆が得られるであろう。決してアメリカのIRが理想的なものではなく、日本の大学にそのまま直輸入しても、日本の大学では根付かないというのが、本書の主張である。このため、本書は、IRの概念とその変遷をはじめ、IRの基本的なツールや戦略計画や財務計画への応用まで日本での適用を念頭に初心者にも理解しやすいように、幅広く紹介している。
 

(紹介文執筆者: 大学総合教育研究センター 教授 小林 雅之 / 2018)

本の目次

 <第I部 IRでなにができるか>
第1章 IRとは何か ―― 日本型IRの追究 
Column 1 アメリカの大学のIR小史
第2章 IRの適用領域とツール
Column 2 アメリカのIR協会: AIR
第3章 IRの組織をつくるために
Column 3 アメリカの大学のIRオフィスが果たす機能
 
 <第II部 大学とIRのツール>
第4章 大学を見る ―― IRの主なツール (1)
Column 4 IRに関する高等教育政策
第5章 大学を調べる ―― IRの主なツール (2)
第6章 大学のデータを集める ―― IRの主なツール (3)
 
 <第III部 IRの主な実践例>
第7章 エンロールメント・マネジメント
第8章 大学の質保証と情報公開
Column 5 アメリカの大学情報公開の現状
Column 6 大学評価と質保証
第9章 IRコンソーシアム
Column 7 アメリカの大学のデータコンソーシアム
第10章 経営支援のIR
終章 IRの実践のために
資料 日本の大学におけるIRの現状
参考文献
 
 

関連情報

資料集:
図表のカラーページや参考URLなど (慶應義塾大学出版会ホームページ)
http://www.keio-up.co.jp/kup/sp/uir/
 
書評:
ブックウオッチング 良書を誇る大学出版部特集 (毎日新聞東京朝刊 2016年5月4日)
http://mainichi.jp/articles/20160504/ddm/015/070/087000c
 

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