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表紙にドイツ連邦議会議事堂の写真

書籍名

ドイツの政治

著者名

平島 健司

判型など

226ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年3月24日

ISBN コード

978-4-13-030163-3

出版社

東京大学出版会

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ドイツの政治

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第2次世界大戦後の欧州大陸を相対立する東西の両陣営に分けた冷戦が1980年代末に終焉を迎えたとき、ドイツにおいても二つの分断国家の統一という歴史的大事業が成し遂げられた。しかし、誰一人として予測しえなかった早期の国家統一は、統一そのものに劣らず重い課題をその後に残した。西ドイツで築かれた福祉国家の制度が大量の失業者を救済するために投入され、東に成立した新州への支援が政府間の財政移転の仕組みを通じて継続された結果、公的債務が急増することになったのである。
 
政党を初めとするさまざまな政治的アクターは、東部再建の課題にどのようにして取り組んできたのか。西ドイツの時代にさかのぼる、ドイツ連邦共和国を構成するさまざまな制度的枠組みは、これらのアクターによってどのように活用されてきたのか。また、東部再建によって膨張した債務から圧迫されて不可避となった社会保険制度や連邦制度の改革はどのようにして進められてきたのか。本書は、ドイツ内外の政治研究を幅広く渉猟し、その成果を踏まえつつ、今日に至る統一ドイツの歩みをその政治構造に内在するメカニズムに即して明らかにしようとするものである。
 
(西) ドイツでは、分権的な国家とよく組織された社会が政党を初めとするさまざまな政治的アクターによって媒介され、これらの間の調整を通じて政策の対応がゆっくりとではあるが着実に進められることを強調したのは、アメリカの政治学者P・カッツェンシュタイン (Peter J. Katzenstein) である。たとえ連邦首相であっても、多元的な政治主体との間で調整を行うことなしには政策を変更しえないゆえにドイツは「半主権国家」と呼ばざるをえないが、「漸進的な」政策の変更が結果としてかえって政治的安定をもたらす、と主張したのである。
 
このような洞察がドイツ政治研究者の間で広く共有される一方、個別の政治的アクターや政策領域についても豊かな研究成果が蓄積されてきたが、本書の最大の特徴は、特定のアクターや政策の動向に関心を限定することなく、統一後に変容を重ねてきた、「半主権国家」の全体像を描こうとする点にあると考えている。
 
国内ではポピュリスト政党がついに連邦議会に進出を果たし、対外的にも未曽有の危機の中で停滞するEUの主柱であり続けなければならない「半主権国家」の将来は、まさに予断を許さない。しかし、ドイツの行方を考察する上では、本書が明らかにした「半主権国家」の政治構造とそのメカニズムが有益な判断材料を提供するであろう。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 平島 健司 / 2017)

本の目次

序章
第1章 「半主権国家」の形成―占領と連邦共和国の成立
第2章 「半主権国家」の国家
第3章 政党と政党システム
第4章 「半主権国家」とコーポラティズム
第5章 「半主権国家」と国家統一
第6章 社会国家の変容
第7章 東部建設の継続と連邦制改革
第8章 移民・難民政策
終章
 

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