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白と青の表紙にブルーのイラスト

書籍名

大塚久雄から資本主義と共同体を考える コモンウィール・結社・ネーション

著者名

梅津 順一、 小野塚 知二 (編著)

判型など

336ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年1月

ISBN コード

978-4-8188-2483-6

出版社

日本経済評論社

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大塚久雄から資本主義と共同体を考える

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本書は、2016年11月19日に催された「大塚久雄没後20年記念シンポジウム――資本主義と共同体」の成果を一書にまとめたものです。
 
大塚久雄は、戦後日本において、「戦後改革」の方向性を学問的に指し示した戦後社会科学の旗手として知られていますが、その学問は戦時期に形づくられました。国際的にも、精神的にも、自由な学術交流が途切れた時代に、破局に突入しつつあった日本にあって、日本の「旧体制 (アンシャン・レジーム)」の構造改革の方向を、普遍的な言葉で探ろうとしたのが大塚でした。
 
その没後20年を経て、現在の世界・社会のありさまを睨みながら、大塚の学問的な遺産を改めて棚卸しして、大塚の編み出したさまざまな概念や方法に積もった埃を払い、今も使えるものと、補修を施したうえで使えるものと、大塚の遺産には足りなかったものを炙り出そうという、現時点での大塚再訪が、シンポジウム参加者に共通した意図でした。
 
大塚の学問的関心の中心は、何よりも、封建制の中からいかにして資本主義が発生し、発展し、定着したかということにありましたが、その結果できあがった資本主義社会には、何の共同性 (communality) も存在していないかのような誤解をしばしば招きました。確かに、大塚自身も繰り返し明言したように、資本主義の発展過程は伝統的な共同体の最終的な解体局面です。また、資本主義・市場経済とは、各経済主体の間には何の関係もない孤立した状態であり、それを市場が結果として調整するといった通俗的解釈が経済学の世界では広く受け容れられていました。
 
大塚からじかに教えを受けた者たちの間では、近代資本主義社会における、人の共同性を否定することは大塚の真意ではなかったと回想されています。しかし、大塚が実際に書き残したものは、近代人の独立・自尊・自発性を強調し、また、近代人の隣人愛の実践に注目はするが、近代人の共同性・社会性については、『共同体の基礎理論』のようにまとまった形では、明瞭な議論を示していません。
 
そこで、本書の第一部では、大塚の遺産を、コモンウィール (「民富」)、アソシエーション (協同性, cooperation)、国民経済、国民と国家、宗教コミュニティーという五つの、いずれも近代の共同性に関わる主題に即して、資産評価することを試みました。その結果、おそらくは、大塚が残した概念や方法の現在における静態的な価値だけでなく、大塚が近代資本主義の形成過程を認識する際に、より広くは経済を歴史的に把握する際に、戦前、戦時、戦後、高度経済成長期と大学紛争期、そして高度成長が終演し、「バブル」を経験するにいたるまでの日本において、いかなる問題意識を持続させていたのか、その学問的営為の基礎的な動因や関心事にまで本書の資産評価は及んでいるでしょう。
 
その意味で、本書は単なる遺産評価ではなく、いま、大塚の学問の成果を動態的に継承しうるとしたなら、何を考えるべきかについての、現時点での覚書という性格を有しています。
 
本書の第二部では、当日のシンポジウムに参加した方々の中から、大塚久雄の業績とその今日的意義をめぐって、自由に寄稿していただきました。また、大塚の略年譜と基本文献の解説も付け加えましたが、本書がこのような形で、多岐にわたる大塚久雄の業績を、若い世代に橋渡しできるとすれば、幸いです。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 小野塚 知二 / 2019)

本の目次

まえがき
第一部  資本主義と共同体
  序  章  問題提起 : 没後二〇年の大塚久雄 (梅津順一)
  第一章  資本主義と可能性としてのコモンウィール (齋藤英里)
  第二章  近代資本主義とアソシエーション:永遠の希望と永遠の絶望 (小野塚知二)
  第三章  国民経済と経済統合 (小林 純)
  第四章  「ネーション」のとらえ方をめぐって:大塚久雄と内村鑑三 (柳父圀近)
  第五章  イギリスにおける宗教コミュニティーについて:「チャーチ」と「チャペル」という教会史の視点 (須永 隆)
 
第二部 大塚久雄が問いかけるもの
  I  大塚史学から継承すべき課題 (石井寛治)
  II  大塚久雄の「方法」をめぐって (河合康夫)
  III  『共同体の基礎理論』と日本前近代史研究 (保立道久)
  IV  近代社会の「人間的基礎」と組織原理:小野塚報告に触発されて (斎藤 修)
  V  国民経済論から国民経済の諸類型へ:大塚久雄の産業革命論 (道重一郎)
  VI  大塚史学と近代奴隷制 (平出尚道)
  VII  大塚久雄とキリスト教:一九七〇年代を中心に (村松 晋)
  VIII  私はどのように大塚史学を受容したか (肥前榮一)
  IX  大塚先生・大塚史学とわたくし (近藤正臣)
  X  二つの補遺 : 『大塚久雄著作ノート』に関連して (上野正治)
  XI  大塚久雄について若い友人に話すなら (高嶋修一)
 
大塚久雄略年譜
大塚久雄の代表的著作案内
あとがき
 

関連情報

書評など:
松野尾裕 (松山大学教授) 評 (『経営史学』第54巻第1号 p.74-77 2019年6月)
http://bhs.ssoj.info/bhsj/sub03.html

伊藤誠一郎 (大月短期大学教授) 評 書評 (『経済学史研究』第60巻第2号 2019年1月)
https://jshet.net/wp-content/uploads/2019/02/602ito.pdf
 
ブックガイド (『出版ニュース』 2018年5月中下旬号)
http://www.snews.net/news/1805c.html

中島隆博 (東京大学東洋文化研究所教授) 評 「人の資本主義」 (東京大学出版会『UP』546号 2018年4月号)
http://www.utp.or.jp/book/b359029.html
 

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