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白い表紙に航空機の写真4枚

書籍名

明治大学国際武器移転史研究所研究叢書 1 航空機産業と航空戦力の世界的転回

著者名

横井 勝彦 (編著)

判型など

406ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年2月

ISBN コード

978-4-8188-2428-7

出版社

日本経済評論社

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航空機産業と航空戦力の世界的転回

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第一次世界大戦での航空戦の経験と航空技術の進歩を背景として、各国は将来戦における航空の重要性に注目し始め、航空戦力拡張の動きを始めた。軍用機生産を担う欧米の航空機産業も大戦時の軍需を背景として急成長を遂げた。
 
航空機産業の発展が、両大戦間の「軍縮」期、1930年代後半の公然たる再軍備期、第二次世界大戦期、さらに戦後の冷戦期を通して、どのように航空戦力の拡大と拡散をもたらしたのかを本書は追究する。この半世紀の間に航空機の生産国と輸入国は大きく増加した。航空機産業はまさに世界的転回を遂げたのである。その実態と論理の解明が本書の課題である。
 
「軍縮下の軍拡」という概念を用いて、両大戦間期における軍縮の限界と武器移転の必然性を明らかにしてみよう。ワシントン会議 (1922年)、ジュネーヴ海軍軍縮会議 (1927年)、ロンドン海軍軍縮会議 (1930年) などでの軍縮論議に、関係各国はどのように関与し、兵器生産国としていかに対応したのだろうか。本書は「軍縮下の軍拡」を、以下の三側面から再考する。
 
第一は、ワシントン海軍軍縮条約以降における補助艦での建艦競争と航空戦力拡張の新たな展開である。ワシントン軍縮の艦艇保有制限によって英米日三国における主力艦 (戦艦・巡洋戦艦) と航空母艦の一部については廃棄ないしは建造中止となった。他方で、条約で制限されなかった補助艦、とりわけ大型巡洋艦と駆逐艦で英米日の三つ巴の建艦競争が展開された。また、第一次世界大戦に始まった航空戦力拡張の動きは、戦後、一旦縮小に転じたものの、ワシントン軍縮以降、再び加速化した。
 
第二の側面は、ワシントン軍縮以降における新兵器製造分野の拡大である。巡洋艦・駆逐艦・潜水艦などの補助艦の建造が引き続き維持・拡大の方向にあったのに加え、魚雷や航空機の分野でも大幅に拡張した。ロンドン海軍軍縮において補助艦の保有量にも規制が課された結果、各国の兵器体系においては航空戦力の占める比重が急上昇した。ワシントン軍縮会議では、航空委員会が飛行機の戦時使用を統制しようと試みたものの不発に終わり、それ以降もジュネーヴ軍縮会議 (1932~34年) に至るまで度々議論が重ねられたが、結局、なんの成果も得られなかった。しかも、敵艦隊に対抗する航空戦力は1930年代中葉には海面への従属性から解放されて、陸上運用の大型長距離機を生み出し、それが後の戦略爆撃と、戦後の大量航空輸送への道を拓いた。航空機を商用と軍用に分けて後者を管理下に置く試みは断念されて、航空機は軍民両用 (dual use) の性格を持ったまま世界中に普及した。
 
第三の側面は、軍縮下における兵器生産国と輸入国の増大である。欧米各国の軍用機調達は民間企業に大きく依存していたが、軍縮期には各国航空機産業は、自国の軍需だけでは維持できず、広く海外市場の開拓が求められた。他方で、戦後に誕生した新興諸国が国家の主権と独立保持の条件として、軍用機の輸入による兵力の整備と国産化とを追求し始めた。かくして、戦間期の航空機分野では「軍縮下の軍拡」と武器移転が同時進行して、航空機産業は世界的転回を遂げたのだが、この転回は軍縮の破綻、再軍備の開始で終ったのではなく、第二次大戦以降に連続した。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 小野塚 知二 / 2018)

本の目次

序  章 (横井勝彦)
第I部 両大戦間期
第1章  日本における陸軍航空の形成 (鈴木 淳)
第2章  日本海軍における航空機生産体制の形成と特徴 (千田武志)
第3章  ドイツ航空機産業とナチス秘密再軍備 (永岑三千輝)
第4章  ルフトハンザ航空の東アジア進出と欧亜航空公司 (田嶋信雄)
第5章  戦間期航空機産業の技術的背景と地政学的背景
 ―海軍航空の自立化と戦略爆撃への道― (小野塚知二)
 
第II部 第二次大戦期および戦後冷戦期
第6章  ドイツ航空機産業発展におけるアメリカ資本の役割
 ―ユンカース爆撃機Ju88主要サプライヤーとしてのアダム・オペル社― (西牟田祐二)
第7章  ラテンアメリカの軍・民航空における米独の競合
 ―航空機産業、民間航空を中心に― (高田馨里)
第8章  戦前・戦後カナダ航空機産業の形成と発展 (福士 純)
第9章  戦後冷戦下のインドにおける航空機産業の自立化 (横井勝彦)
 

関連情報

書評:
『国際武器移転史』第5号、161-164頁、2018年1月 (萩原 充 執筆)
 
amazon:
https://www.amazon.co.jp/dp/4818824283/
 
書籍紹介:
航空機産業と航空戦力の世界的転回 (明治大学 国際武器移転史研究インスティテュート)
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~transfer/book/book.html
 

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