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陪審員6名がピクトグラムで描かれた表紙

書籍名

Who Judges? Designing Jury Systems in Japan, East Asia, and Europe

著者名

Rieko Kage

判型など

276ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2017年10月

ISBN コード

9781108163606

出版社

Cambridge University Press

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Who Judges?

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一般市民が刑事裁判に参加し、有罪・無罪や量刑の判断に関わる制度は陪審制や参審制などと呼ばれる。大雑把にいえば、イギリス・アメリカなどのいわゆる英米法体系を採る国は陪審制を、またフランス・ドイツなどいわゆる大陸法体系を採る国は参審制と呼ばれる制度をもつことが多い。よく知られるように、2009年より、日本においてもこの一形態として「裁判員制度」が導入されている。「裁判員制度」のような制度はなぜ実現したのか。本書は、日本の裁判員制度の導入過程を、日本と同様に1990年代以降に刑事裁判における市民参加制度を導入したスペインや韓国、またこの10年ほど同様の制度の導入を検討してきている台湾との比較において考察したものである。
 
刑事裁判に市民が参加する、いわゆる陪審制度や参審制度は、現代民主制の下で、一般市民が国家の意思形成に直接携わるほぼ唯一の制度である。一般に「政治参加」といえば、投票や署名運動、請願などを指すのが一般的である。しかしこれらは「参加」といっても市民が国家の意思決定に直接関わるわけではなく、市民が意思決定権者(政治家)を選んだり、あるいは意思決定権者に影響を与えようとする、いわば間接的な「政治参加」である。これに対して陪審制や参審制(裁判員制度を含む)は、一般市民が国家の意思決定(判決)に直接携わる制度であり、その意味で現代民主制度の中でもかなり特殊な制度である。
 
逆に裁判官の側からみれば、これらの制度を導入するということは、従来裁判官が独占してきた、有罪・無罪や量刑を決定する権限を、一般市民に(少なくとも一部)譲り渡す、つまり委譲する、ということになる。考えてみればこれは大変な決断である。国家というものは権力をそうたやすく手放すものではない。もちろん市民が参加することで、裁判所の判断にいわゆる「市民感覚」を加えることはできるかもしれない。しかし他方、判決に市民が参加するとなると、裁判官がそれまで専門的知識に基づいて積み上げてきた判例の蓄積などを無視した、突拍子もない判決が出てしまうリスクもある。日本やスペイン、韓国、台湾といった国々は、なぜ司法判断に市民を参加させようとしたのか。また「参加」といっても、市民がどこまで実質的に刑事判断に参加できるかは、国によっても差が見られる。この差が生じたのはなぜか。本書はこれらの問いに答えようとするものである。
 
本書の分析は、日本の事例については国会の議事録や膨大な二次資料に依拠し、また台湾の事例については現地での詳細なインタビュー調査に依拠する。裁判員制度という、非常にテクニカルで、かつ政治とは無縁と思われがちな制度が、実はさまざまな政治力学を背景に作られていることを感じて頂ければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 鹿毛 利枝子 / 2018)

本の目次

1 - Introduction
2 - Theoretical Framework: Participation and Partisan Politics
3 - The Distribution of Cases
4 - The History of the Lay Judge System Debate in Japan up to 1996
5 - Bringing the Lay Judge System Back In, 1997–2004
6 - Setting the Agenda: New Left-Oriented Parties and Deliberations in the Japanese Parliament
7 - Proposals for Lay Participation in the Republic of China (Taiwan)
8 - Introducing Jury Systems in South Korea and Spain
9 - The Impact of New Lay Judge Systems
10 - Conclusion

関連情報

書評:
Reviewed by Luke Nottage (University of Sydney Law School & Australian Network for Japanese Law) (The University of Sydney 2018年12月1日)
http://blogs.usyd.edu.au/japaneselaw/2018/12/review_-_rieko_kage_who_judges.html
 
Reviewed by Tom Ginsburg (University of Chicago Law School) (Social Science Japan Journal, Vol. 22, Issue 1, Winter 2019 2018年12月9日)
https://academic.oup.com/ssjj/article/22/1/160/5236862
 

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