東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に雲の形の赤い模様

書籍名

岩波新書 1691 トマス・アクィナス 理性と神秘

著者名

山本 芳久

判型など

286ページ、新書

言語

日本語

発行年月日

2017年12月20日

ISBN コード

9784004316916

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

トマス・アクィナス 理性と神秘

英語版ページ指定

英語ページを見る

西洋中世を代表する哲学者・神学者であるトマス・アクィナス (1225-1274) は、聖書に由来するキリスト教の神学と古代ギリシアに由来する哲学 (とりわけアリストテレス) を統合することによって、『神学大全』に代表される斬新な神学・哲学の体系を築き上げました。
 
トマスの知の営みを捉えるとき、しばしば、「信仰」と「理性」の統合という言い方が為されます。それに対して、本書では、「理性」と「神秘」の対話という仕方で、トマスの体系的な知の特徴を捉え直しました。
 
「信仰と理性」でも、「理性と神秘」でも、たいした違いはないのではないかと思う人も多いかもしれません。ですが、そこには一点非常に大きな相違があります。「信仰と理性」という捉え方をするとき、「信仰」と「理性」は相対立する傾向のあるものとして捉えられがちです。「理性」は合理的にものを考える能力だが、「信仰」は合理的に考えるだけではわからない事柄に関わるものであるというように。
 
他方、「理性と神秘」という言い方をするときには、事情は異なります。「神秘」というのは、人間の把握を超えたこの世界の根源のことです。この世界全体にその存在の意味を与えている「神秘」を探求するために、人間は、自らの有するあらゆるものを動員します。そのとき、「信仰」と「理性」は人間が「神秘」と関係を持つために持っている二つのツールとして、力を合わせることになります。
 
人間の「理性」は、自らを超えた「神秘」を前にして、萎縮するだけではありません。自らの力のみで神の「神秘」を探求することはできないとしても、「神の言葉」である「聖書」を手がかりにしながら、人間の「理性」は、神の「神秘」の内奥へと少しずつ入り込んでいくことができます。自らを超えた「神秘」との出会いのなかで、「理性」は成熟し、「神秘」との共同作業の中で、自らの能力をより優れた仕方で実現することができるように導かれていくことができるのです。このような仕方で「理性」に開かれている可能性を、本書では「人間理性の自己超越性」という観点から丹念に分析しています。
 
『神学大全』に代表されるトマスの著作群からの豊富な引用を行い、それらを丹念に解読しながら議論を進めていますので、トマスのテクストを読み解く力を身につけるための手堅い入門書にもなっています。哲学や宗教に関心のある学部生の方にぜひ手にとっていただきたい一冊です。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 山本 芳久 / 2024)

本の目次



第一章 トマス・アクィナスの根本精神
 一 トマスの「新しさ」
 二 キリスト教とアリストテレスの統合
 三 「饒舌」と「沈黙」
 四 神秘と理性

第二章 「徳」という「力」――「枢要徳」の構造
 一 トマス人間論の中心概念としての「徳」
 二 「枢要徳」と「神学的徳」
 三 「徳」と「善」
 四 「節制」と「抑制」――徳の喜び
 五 アリストテレスに洗礼を施す――キリスト教的「純潔」
 六 親和性による認識――枢要徳と神学的徳を架橋する

第三章 「神学的徳」としての信仰と希望
 一 信仰――知性による神的真理の承認
 二 恩寵と自由意志の協働
 三 神学的徳による人間神化
 四 希望――旅する人間の自己超越

第四章 肯定の原理としての愛徳
 一 神と人間との友愛としての愛徳
 二 「神からのカリタス」と「神へのカリタス」
 三 神の愛の分担者となる

第五章 「理性」と「神秘」
 一 受肉の神秘
 二 「最高善の自己伝達」としての受肉
 三 受肉と至福
 四 「ふさわしさ」の論理
 五 人間理性の自己超越性――「神秘」との対話

あとがき
参考文献

 

関連情報

受賞:
2018年受賞 サントリー学芸賞 思想・歴史部門 (サントリー文化財団 2018年)
選評: 宇野 重規 (東京大学教授) 評
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/detail/201809.html
 
著者インタビュー:
山本芳久さん『トマス・アクィナス 理性と神秘 (B面の岩波新書 | Web岩波新書 2018年1月16日)
https://www.iwanamishinsho80.com/post/shan-ben-fang-jiu-san-tomasuakuinasu-li-xing-toshen-mi
 
著者コラム:
本を読んだぐらいで人生は変わるのか (考える人 2021年2月12日)
https://kangaeruhito.jp/trial/43956
 
「理性」と「神秘」 (『教養学部報』第609号 2019年5月8日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/609/open/609-1-01.html
 
書評:
宗教の名著巡礼 第10回 島薗進
超越者とこの世の経験の調和的理解
──山本芳久『トマス・アクィナス 理性と神秘』岩波新書、2017年── (なぎさ 2024年1月16日)
https://nagisamagazine.wixsite.com/t-jiyudaigaku/post/%E5%AE%97%E6%95%99%E3%81%AE%E5%90%8D%E8%91%97%E5%B7%A1%E7%A4%BC-%E7%AC%AC%EF%BC%91%EF%BC%90%E5%9B%9E

週刊読書人 2018年3月30日
 
苅部直 (政治学者・東京大教授) 評 (読売新聞オンライン 2018年3月12日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20180305-OYT8T50046/
 
書籍紹介:
自己愛が隣人愛に優先する 実は今っぽい哲学者・トマス・アクィナスの真実
山本芳久――この人のスケジュール表 (『週刊文春』 2019年1月17日)
https://bunshun.jp/articles/-/10330
 
ワークショップ:
Aquinas’ social ontology and natural law in perspective
Insights for and from the social sciences  (The Pontifical Academy of Social Sciences, バチカン市国 2024年3月7-8日)
https://www.pass.va/en/events/2024/aquinas.html
 
講座:
【10月期】キリスト教神学入門:トマス・アクィナス『神学大全』を読む (NHKカルチャー 2024年10月12日~2025年3月8日)
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1302670.html
 
哲学入門 - トマス・アクィナス『神学大全』を読む (早稲田大学エクステンションセンター 2024年4月8日~6月17日)
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/62760/
 
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています