東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にベージュの模様

書籍名

ちくま新書 暴走する能力主義 教育と現代社会の病理

著者名

中村 高康

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2018年6月5日

ISBN コード

978-4-480-07151-4

出版社

筑摩書房

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暴走する能力主義

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本書は、著者がこれまでの研究のなかで提唱してきた「メリトクラシーの再帰性」という概念をキーとして、後期近代社会 (=現代社会) における能力主義の有り様を説明することを試みたものです。
 
「メリトクラシーの再帰性」とは、能力主義に本来的に備わっている自己反省的な性質のことです。私たちの社会では、基本的には能力による処遇の差異を認めてきましたが、実は能力を測ることは必ずしも容易ではありません (命題1)。しかし、なんらかの形で能力を測れたことにしないと社会が回っていかないことから、私たちはある種の手続きを経て得られる能力測定の結果をもって「能力が測定された」ということに社会的に決めています (命題2)。しかし、これは社会的な決めごとにすぎないため、「本当にその能力の測り方でいいのか?」という疑念を常に呼び込むことになってしまいます。このように考えると、能力主義 (メリトクラシー) には、常に反省的に問いなおされ、批判される性質がはじめから組み込まれていると考えることができます。この性質を、「メリトクラシーの再帰性」と呼ぶのです (命題3)。
 
現代社会においては、高学歴化と情報化の進展によって、この再帰性が従来以上に激しく作動していくことになります (命題4)。その結果、従来は安定して信頼されていた学力や学歴のような能力指標も時代遅れのものとして問い直し対象となることになり、様々な「新しい能力」論が次々に繰り出されることになっていきます (命題5)。現代社会では、現実にそのような「新しい能力」論が、社会の実態とはかけ離れた形で称揚されることになるのです。
 
ところが、こうした「新しい能力」論は、様々な制度改革の流れのなかでも持ち上げられ、私たちの社会に不必要な負荷をかけています。現代を生きる私たちは、こうした能力主義の暴走状態から可能な限り距離をとり、冷静な対応をすることが求められているのです。
 
以上が、本書の要約です。なお、著者として私が執筆時に課題としたのは、私自身のアカデミックな研究枠組み (再帰的メリトクラシーの理論) を、単なる学術的な知見で終わらせるのではなく、現代社会批判として、また多くの読者の方が現代社会を同じような角度から批判する際の足場となるようにわかりやすく提示する、ということでした。刊行後の各方面の反応を見る限り、その試みはある程度成功したという感触があります (命題3を論じた第4章は専門的で読みにくい方もおられるかもしれませんが)。とりわけ、現代日本の教育改革に批判的な方々から、たいへん共感的なコメントを多数いただいています。
 
現代の教育改革は、日本だけの動きではありませんので、広く海外にも今後はメッセージを発していきたいと思います。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 中村 高康 / 2018)

本の目次

第1章  現代は「新しい能力」が求められる時代か?
 
第2章  能力を測る―未完のプロジェクト
 
第3章  能力は社会が定義する―能力の社会学・再考
 
第4章  能力は問われ続ける―メリトクラシーの再帰性
 
第5章  能力をめぐる社会の変容
 
第6章  結論:現代の能力論と向き合うために
 

関連情報

関連記事:
なぜわれわれは「新しい能力」を強迫的に追い求めるのか? 『暴走する能力主義』著者、中村高康氏インタビュー – SYNODOS (BLOGOS 2018年11月29日)
https://blogos.com/article/342002/
 
研究室訪問:「人間にとって根本的な営みである教育を、冷静に、客観的に考える―教育学部・中村高康教授 (「キミの東大」ホームページ 2018年10月22日)
https://kimino.ct.u-tokyo.ac.jp/lab-visit/629
 
(耕論) 女性阻む、硬い天井 宋美玄さん、中村高康さん、木村忠正さん (朝日新聞デジタル 2018年9月19日)
https://www.asahi.com/topics/word/%E8%80%95%E8%AB%96.html
 
中村高康 “なぜ日本人は「コミュニケーション能力至上主義」に陥ったのか―出口なき <能力不安> に苛まれて…” (週刊現代 2018年9月4日)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57130
 
書評:
濱中淳子 (高大接続研究開発センター教授) 評 (『IDE―現代の高等教育』No.606 2018年12月号)
http://ide-web.net/newpublication/index.html

広田照幸 評「BookReview ●俗流能力論の思考から自由になるために」 (『教職研修』 2018年10月号)
https://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/bookstore/products/detail/101810

(日本経済新聞朝刊 2018年7月14日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO32966180T10C18A7MY6000/
 
BOOKSニュース (日刊ゲンダイDIGITAL 2018年7月18日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/233479
 
文=ムラカミヤハト「これからの時代に求められる「新しい能力」 コミュニケーション能力、リーダーシップ、責任感は新しくない!?」 (ダヴィンチニュース 2018年7月3日)
https://ddnavi.com/review/469284/a/
 
府川源一郎 (日本体育大学教授/教育史・国語教育)「第6回 2018年上半期の収穫から」 (週刊読書人ウェブ 2018年7月27日 第3249号)
https://dokushojin.com/article.html?i=3894&p=7
 
寺沢拓敬 (言語社会学者) 評: (Yahooニュース 2018年7月15日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/terasawatakunori/20180715-00089497/
 
(週刊文春 2018年8月9号)
http://bookrev.info/2018/08/1315

2019年度 大学入試問題として使用:
慶應義塾大学文学部 (小論文)、東都医療大学 (国語)、大阪産業大学 (国語)、東京家政大学 (国語)
 

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