東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にベージュの模様

書籍名

ちくま新書 「超」進学校 開成・灘の卒業生 その教育は仕事に活きるか

著者名

濱中 淳子

判型など

224ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月7日

ISBN コード

978-4-480-06879-8

出版社

筑摩書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

「超」進学校 開成・灘の卒業生

英語版ページ指定

英語ページを見る

ここ10年ぐらいだろうか、名門校として語られることが多い、いわゆる「超」進学校を扱った書籍が次々と出版されている。生徒たちを導いている教員自らの手で、あるいは卒業生やジャーナリストの手によって、学校の内実が詳しく紹介されたものである。
 
以上の書籍を読むと、なるほど、たしかに超進学校の様々な側面を知ることができる。勉強ばかりではなく、部活動や学校行事も盛ん。生徒たちの自主性が大事にされている等々。しかし、である。おそらく読み手の中には、次のような疑問を抱いた者もいるはずだ――結局、このような学校の卒業生たちは、どのような仕事人生を歩んでいるのだろうか。
 
試みとして、調査会社のモニターを使って、超進学校卒業生のイメージについて調べたことがある。寄せされた声は、好意的な印象を述べるものが半分、否定的なものが半分。「頭がよい」「まじめ」「集中力がある」といった言葉が得られたものの、負けず劣らず多かったのが、「人間関係が不得手」「世間知らず」「打たれ弱い」というものだった。私たちの多くは、彼らの実像を知らないままにいる。
 
本書は、東西の代表的な進学校として知られる「開成中学校・高等学校」ならびに「灘中学校・高等学校」の卒業生に実施したアンケート調査の分析結果を紹介したものである。両校合わせた回収数1072という貴重なデータを用いて、就業実態の素描のみならず、リーダーとしての可能性、卒業生たちが抱えている葛藤、そして開成・灘両校の違いなどについて検証している。可能な限り幅広い視野から、しかしながら散漫にならないように議論したつもりだが、いずれにせよ、どれほどリアルな姿を描き出すことに成功しているかは、読者の判断に任せたい。
 
ただ、最後に一つ強調しておきたいのは、超進学校卒業生の働き方を知ることは、日本社会を理解することにもつながるという点だ。彼らが活躍しているかどうか、活躍できているかどうかは、日本がどのような社会であるかということも大きく関係している。たとえば、開成中学校・高等学校の校長、柳沢氏は次のような見方を示している。
 

中学生、高校生にリーダーシップを身につけさせるには、
これからどうしたらいいかと問われることが多いのですが、
私はリーダーシップをとれる生徒はすでにたくさんいることを知っています。
むしろ、私は社会にこう問いたい。
「リーダーシップの取れる卒業生をどう処遇してくれますか」と。
(『「開成×灘式」思春期男子を伸ばすコツ』より)
 
超進学校卒業生の実像から日本社会と教育の実相を逆照射したいという想いを込めて本書を編んだ。そのようなことを念頭に置きつつ、手に取っていただければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 高大接続研究開発センター 教授 濱中 淳子 / 2018)

本の目次

プロローグ 「超進学校卒業生」という人材
第1章 超進学校卒業生たちの仕事―全体像と多様性
第2章 リーダーとしての可能性―卒業生たちのソーシャルスキル分析
第3章 超進学校卒業生の葛藤―課される試練
第4章 開成卒業生と灘卒業生は何が違うのか
エピローグ 超進学校卒業生にみる日本の課題
 

関連情報

著者インタビュー:
UTOKYO VOICES 004: 学歴――素直に教育の意義を問い続ける異色の研究者
高大接続研究開発センター 入試企画部門 教授 濱中 淳子
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/voices004.html
 
連載: 平均年収1400万円、「開成・灘」卒業生とは何者か (PRESIDENT 2017年3月20日号)
https://president.jp/articles/-/21720
 
書評:
井上 修 (中学受験情報誌「進学レーダー」編集長) 評:
イメージと異なる、超進学校の濃密な六年間 (Webちくま 2016年4月26日)
http://www.webchikuma.jp/articles/-/68
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています