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書籍名

格差社会の中の高校生 家族・学校・進路選択

著者名

中澤 渉、 藤原 翔 (編著)

判型など

196ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年9月

ISBN コード

978-4-326-60281-0

出版社

勁草書房

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格差社会の中の高校生

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格差社会と呼ばれる現代日本社会を生きる高校生は、どのような進路選択を行っているのでしょうか。また将来の仕事や働き方についてどのような考えを持っているのでしょうか。そして、進路選択や将来像の違いには何が影響しているのでしょうか。本書では、2012年11~12月に全国の高校2年生と母親を対象として行われた「高校生と母親調査、2012」 (有効回収1,070ペア) のデータを用いて、現代日本の高校生の進路選択の実態とそのメカニズムに、計量社会学的な方法によってアプローチしました。
 
まず、序章で、2012年までの進学率の推移や、分析に用いるデータの特徴が説明されます。第I部では、高校の偏差値や進学希望に対する親の学歴や収入の影響 (1章)、学校不適応であるのに大学進学を希望する高校生の特徴 (2章)、大学・短大の専門分野と親の専攻分野や家庭背景との関連 (3章)、推薦入試を利用する高校生の特徴 (4章)、そして高校生の希望する職業と職業において重視することの関連パターン (5章) など、進路希望や職業希望を中心とした分析の結果が報告されます。第II部では、高校生と母親の進路意識の一致や不一致とその背景 (6章)、海外志向とジェンダー平等意識の関係 (7章)、子どもの価値観に対する母親の価値観の影響 (8章)、母親の働き方と高校生のライフコース展望との関連 (9章) といった、高校生と母親の関係やジェンダー差を中心に分析されています。終章では、塾や予備校といった学校外教育の費用の分析が行われ、学校、家族、進路をめぐる、今後の親子調査の可能性が示されます。
 
本書で強調されるのは、高校生の意識や成績、通っている学校の特徴だけではなく、家族 (母親の働き方や意識) や家庭の社会経済的な特徴 (親の職業、学歴、収入、世帯の種類) が、高校生の将来像に直接的に影響してくるということです。当たり前の結果と思うかもしれませんが、新たな発見を探求するというよりも、全国規模の調査のデータ分析から、現代日本社会の高校生の進路や将来像をめぐる様々な問題について、中心的な傾向を描き出すというアプローチをとっています。
 
本書の特徴は分析に用いたデータがSSJデータアーカイブで公開されていることです。SSJデータアーカイブとは、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター (http://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/) が運営する、社会調査の個票データを二次的な分析のために提供する機関です。研究目的はもちろん、授業や卒論等でのデータ利用も可能となっていますので、本書と同様の分析や発展が可能となっています。また同センターのNesstar (https://nesstar.iss.u-tokyo.ac.jp/webview/) というシステムでは、オンラインで本書が用いたデータの基礎的な分析ができるようになっています。皆さんも実際にデータを手にとって、計量社会学を実践してみませんか。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 准教授 藤原 翔 / 2016)

本の目次

はじめに   中澤 渉

序章 高校生の進路選択へのアプローチ
「高校生と母親調査、2012」の目的、設計、分析   藤原 翔
 1 格差社会の中の高校生
 2 「高校生と母親調査、2012」の概要
 3 「高校生と母親調査、2012」データの特徴
 4 本書の課題・構成

第I部 高校生の進路選択の実態
第1章 進学率の上昇は進路希望の社会経済的格差を縮小させたのか
2002年と2012 年の比較分析   藤原 翔
 1 なくならない教育達成の社会経済的格差
 2 教育達成・進路希望の社会経済的格差研究と本章の課題
 3 分析方法
 4 高校偏差値に対する家族と成績の影響
 5 進路希望に対する家族、成績、学校の影響
 6 なくならない進路希望の格差

第2章 「学校不適応」層の大学進学
出身階層、学校生活と進路希望の形成   古田和久

 1 教育達成の階層間格差のメカニズム
 2 データと変数
 3 進路希望構造の分析
 4 曖昧な大学進学層の存在

第3章 大学・短大の専門分野はどのように決まるのか
出身階層と高等教育の学科・専攻選択との関係   白川俊之
 1 問題の所在
 2 教育分野の選択における階層差の説明
 3 教育分野と出身階層の操作的定義
 4 分析結果
 5 世代間関係の限られた開放化

第4章 誰が推薦入試を利用するか
高校生の進学理由に注目して   西丸良一

 1 大学進学における推薦入試の位置づけ
 2 入試方法を決める要因
 3 定まらない進路

第5章 高校生の職業希望における多次元性
職業志向性の規定要因に着目して   多喜弘文

 1 なぜ日本の高校生の職業希望は多次元的なのか
 2 使用変数と分析の手順
 3 職業希望と職業志向性にかんする基礎分析
 4 職業志向性の類型とその規定要因
 5 多次元的な職業希望を生み出す制度的文脈

第II部 高校生の進路選択と家族・ジェンダー
第6章 進学希望意識はどこで育まれるのか
母子間における接触と意見の一致/不一致に着目して   中澤 渉

 1 社会化の場と意識形成
 2 進路意識をめぐるこれまでの知見と課題
 3 母子関係のあり方の潜在構造
 4 母子関係の特徴と背景
 5 母子間の進路意識――一致・不一致の背景

第7章 海外に憧れる高校生はだれか
ジェンダーの視点から   髙松里江

 1 若者の海外志向
 2 変数の概要
 3 海外志向の規定要因
 4 海外志向の特徴と課題

第8章 母子間の価値観の伝達
性別役割分業の一般的規範・個人的展望に関する分析   小川和孝

 1 なぜ性別役割分業意識が重要か
 2 性別役割分業意識を社会学的に位置づける
 3 分析の戦略と変数の設定
 4 母子の意識の関連についての実証分析
 5 世代間の性別役割分業意識の関連が不平等に対して意味するもの

第9章 母親の就業経歴と高校生のライフコース展望
「仕事も家庭も」という母親が子どもに与える影響   苫米地なつ帆

 1 母親の働き方と子どもの意識・行動
 2 母親の就業は子どもにどのような影響を与えるか
 3 分析に使用する変数
 4 母親がライフコース展望に与える影響
 5 ロールモデルとしての「働く母親」

終章 親子調査からみえてきた課題
近年の高校教育と親子関係の変化をふまえて   中澤 渉

 1 学校と家庭の関係を振り返る
 2 教育達成の格差を生む原因――学校外教育への投資という視点から
 3 今後の親子調査に向けて

付録
あとがき   藤原 翔
人名索引・事項索引
 

関連情報

受賞:
令和3年度 社会調査協会賞 優秀研究活動賞 (一般社団法人社会調査協会 2021年12月8日)
https://jasr.or.jp/commend/r3/
 
関連データ:
2012年高校生と母親調査研究会 / 高校生と母親調査, 2012 (SSJ - Social Science Japan Data Archives)
https://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/Direct/gaiyo.php?eid=0873
 
書評:
森田次朗 評 (『フォーラム現代社会学』第16号 2017年)
https://www.ksac.jp/2017/07/21/ksreview2017/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ksr/16/0/16_147/_pdf/-char/en
 
元治恵子 評 (『教育社会学研究』98、260-262p 2016年)
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020882003
 
 

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