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白い表紙に青い四角模様

書籍名

教育と社会階層 ESSM全国調査からみた学歴・学校・格差

著者名

中村 高康、 平沢 和司、荒牧 草平、中澤 渉 (編)

判型など

246ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年7月31日

ISBN コード

978-4-13-050193-4

出版社

東京大学出版会

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教育と社会階層

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本書は、「教育と仕事に関する全国調査」の名称で実施された、教育・社会階層・社会移動全国調査 (ESSM2013) のデータに基づく分析結果を集成した論文集です。
 
現在の日本社会では、非正規雇用の増大、少子高齢化などにより、教育や子育て、働き方、ライフスタイルは大きく変化しています。それにともない、価値観も多様化し、教育や子育てに対してもさまざまな考え方や意見が聞かれるようになるとともに、人びとの間での格差にも注目が集まるようになってきました。
 
このように教育においても、また仕事や経済状況においても、格差の議論が活発になされるようにはなってきましたが、これまでは教育をテーマとする調査では仕事や経済状況についての情報が不足しており、逆に仕事や経済状況をテーマとする調査では教育については十分に調べられてきませんでした。その結果、教育と仕事や経済状況との関係については、どのデータをみても実態を正確に把握できるだけの十分な情報がない状況となっています。
 
こうした状況を受け、私たちの研究グループ (教育・社会階層・社会移動調査研究会) は、教育体験と職業および社会的格差との関連を両面から詳しく調べることとしました。それにより、従来のデータではうまく解明できなかった教育と社会の関係を学術的に測定・分析することが可能となり、また、その分析結果を生かして今後の教育政策にも有効な提言を行うことができると考えています。
 
たとえば、従来の社会階層調査では、幼稚園と保育園の選択に社会階層がどのように関わっているのか、全国レベルで十分に確認できるデータはなく、その点にメスをいれた第1章があります。あるいは、逸脱行為やいじめといった教育界ではなじみの深いトピックも、社会階層との関連では十分に解明されてきませんでしたが、それに関しては第2章で扱われています。学歴や教育に関する体験や意識についての調査項目も、従来の社会階層調査に比べて格段に多くなっており、それらの多様な体験・意識情報を集約して社会階層との関連で分析することも、この書籍では試みています (第3章、第8章、第9章)。
 
また、ESSM2013は、内容面だけでなく調査データとしての質も確保しています。有効回収率60.3% (計画サンプル数をベースとした純粋な回収率です) は、類似調査と比較しても非常に高い値です。序章にも書きましたが、回収率を上げるために様々な工夫を実際に行ってきました。全国ランダムサンプリングの調査であることもあって、データの学術的信頼度は非常に高いと自負しています。関心のある方はぜひ手に取ってみてください。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 中村 高康 / 2021)

本の目次

序章 教育と社会階層の調査:ESSM2013の概要(中村高康・平沢和司)
1章 就学前教育と社会階層:幼稚園・保育所の選択と教育達成との関連(小川和孝)
2章 学校における「いじめ」体験と社会階層 (中村高康)
3章 戦後生まれコーホートの教育体験の潜在構造:その規定要因と教育達成・教育意識への影響(胡中孟徳)
4章 男女における専門学校進学の意味:「変容モデル」再考(多喜弘文)
5章 大学進学率の上昇とメリトクラシー(中澤 渉)
6章 世帯所得・親学歴と子どもの大学進学(平沢和司)
7章 子どもの教育達成に対する家族・親族の影響:オジオバの学歴と男女差に着目して(荒牧草平)
8章 親の教育意識の類型と子どもに対する教育期待:潜在クラスモデルによるアプローチ(藤原 翔)
9章 高学歴社会における「学校教育の意義」:学校経験に対する人々の認識をもとに(古田和久)
終章 教育と社会階層をめぐる諸問題:ESSM2013から見えるもの(中村高康)

関連情報

参照ホームページ:
『教育と仕事に関する全国調査』 (東京大学大学院教育学研究科・教育学部 中村高康 研究室ホームページ)
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/~tknaka/survey
 
関連記事:
社会に潜む格差を見つめ続けて60年 - 肌感覚の確からしさを科学する社会学 (東京大学ホームページ 2017年6月2日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00082.html
 
Column 世界の調査/日本の調査 中村高康「2013 年教育・社会階層・ 社会移動全国調査 (ESSM2013)」 (『社会と調査』No.17 2016年9月)
https://jasr.or.jp/wp/asr/asrpdf/asr17/asr17_080.pdf
 
書評:
山本耕平 評 (『社会と調査』24号 2020年3月)
https://jasr.or.jp/asr/24/
 
川口俊明 (福岡教育大学) 評 (『教育学研究』第86巻第2号pp.162-163. 2019年6月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku/86/2/86_322/_pdf
 
吉川徹 評 (『日本労働研究雑誌』No.704号 pp.47-49 2019年2・3月号)
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2019/02-03/pdf/047-051.pdf
 
尾崎史章 (同志社大学社会学部教授) 評 (『社会学評論』2019年70巻2号 p.162-164 2019年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr/70/2/70_162/_pdf/-char/ja

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