Economy and Social Inclusion: Creating a Society for All Social Stratification in an Aging Society with Low Fertility The Case of Japan
214ページ、ハードカバー
英語
2022年9月
978-981-19-3646-3
Springer Singapore
編著本、Social Stratification in an Aging Society with Low Fertilityは、世界で最も高齢化した社会、日本の社会階層についての9つの論考が収録されている。日本は、戦後の敗戦を経て1950年代、60年代にかけて、急激な経済発展を遂げアジアで最初に産業化を達成した国である。しかし1970年に入り、奇跡的とも評される経済成長に陰りが見えはじめ、日本は低成長期へと突中する。そこで、もう一つの重要な社会変化がおこりつつあった。少子化である。長寿化も進展して、日本の人口構造は1980年代以降、大きく高齢化していく。
社会階層は、社会学において不平等をテーマとする実証研究分野の一つであり、理論的にも方法論的にもその多くを欧米の研究蓄積から学んできた。例えば、本書で分析される調査データは、2015年実施の「社会階層と社会移動に関する全国調査」(SSM調査) であり、その第1回目調査 (1955年) の実現には、当時の国際社会学会・社会階層部門を構成する欧米の社会学者からの多大な支援があった。その後同調査は、10年毎に実施され、本書は第7回目SSM調査研究の成果である。
収録された論文テーマは、次の9つ。社会移動からみた階層構造、変化する結婚市場と同類婚、教育達成からみる教育機会の不平等、日本における長期雇用に関する変容、移動レジーム論からみた正規・非正規雇用間格差、大卒者と非大卒者の意識からみる学歴格差、地域格差の政治意識への効果、職歴に基づく生涯所得からみた社会経済格差、超高齢社会・日本の資産格差、である。
欧米を中心とする既存の階層研究の対象はいわゆる生産年齢期にあり、消費単位としての世帯を支える世帯主の労働市場における地位を中心に議論されてきた。しかし日本はいま、世界で最も高齢化した社会である。総務省統計局による人口推計によると、2023年9月15日時点で、65歳以上人口が全体人口に占める割合が29.1%である[i]。つまり、労働市場から引退する高齢者が増える現実を前に、既存の階層理論に何らかの修正が必要なのではないか。これが本書を支える研究プロジェクトのきっかけとなり、次のような問いが各章で展開される。
世代間の社会移動パターンに大きな変化が認められるのか。少子化の進展の背景にある結婚パターンは配偶者選択をはじめ変化があったのか。日本型雇用の特徴である長期雇用は長期にわたってどう変化していったのか。個人の職業経歴を基に試算した生涯所得からみた高齢者の社会経済的格差はこれまでの知見とどう違うのか。少子化を受けて教育機会の格差は拡大したのか。正規と非正規間の格差に変化がみられるのか。資産格差の実態はいなかるものか。
毎日のようにニュースに登場する少子高齢化の社会的意味を、本書から少しでも感じ取ってもらえたら幸いである。
[1]「統計からみた我が国の高齢者」統計トピックス No.138
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics138.pdf
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 白波瀬 佐和子 / 2023)
本の目次
「はじめに」白波瀬佐和子
2. Class Structure, Education, and Social Mobility in Post-war Japan: Hiroshi Ishida
「戦後日本における階層構造、教育、社会移動」石田 浩
3. The Changing Marriage Market and Status Homogamy: Satoshi Miwa
「変化する結婚市場と地位同類婚」三輪 哲
4. Relative Indices of Educational Attainment and Trend Analysis of Inequality of Educational Opportunity Using the 2015 SSM Survey Data: Takayasu Nakamura
「教育達成の相対指標と2015年SSM調査データを用いた教育機会の不平等に関する分析」中村高康
5. Long-term Trends in Long-Term Employment in Japan: Tsutomu Watanabe
「日本における長期雇用の長期に渡る趨勢」渡辺 努
6. Intragenerational Mobility Between Regular and Non-regular Employment Sectors in Japan: From the Viewpoint of the Theory of Mobility Regime: Yoshimichi Sato
「日本における正規と非正雇用間の職歴移動:移動レジーム論の視点から」佐藤嘉倫
7. Gap in Attitudes Toward Higher Education Between Graduates and Non-graduates: Glowing Educational Disparity in Younger Cohorts: Toru Kikkawa
「大卒者と非大卒者間の高等教育に関する意識格差:若年層において拡大する学歴格差」吉川 徹
8. Effects of Regional Inequality on Political Attitudes: Social Capital and Support for Redistribution and Free Competition: Naoki Sudo
「政治意識に関する地域格差の効果:社会資本と再分配と自由競争への支持」数土直紀
9. Explanation of Socioeconomic Inequality Among the Male Elderly: An Approach Based on Estimated Income History: Shin Arita
「男性高齢者間の社会経済的不平等に関す考察:所得歴からの検討」有田 伸
10. Another Aspect of Social Inequality, Wealth, in a Super-aged Society, Japan: Re-examining the Conventional Framework of Social Stratification: Sawako Shirahase
「超高齢社会・日本におけるもう一つの社会的不平等、富: 社会階層論の伝統的枠組みの再検討」白波瀬佐和子
関連情報
吉田 航 評 (『人口問題研究 (Journal of Population Problems』Vol.79 No.1(No.324), pp.100-101 2023年3月)
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/DATA/pdf/23790108.pdf
書籍紹介:
佐藤嘉倫人文学部長が論文を寄稿したSocial Stratification in an Aging Society with Low Fertility: The Case of Japanが刊行されました【人文学部】 (京都先端科学大学ホームページ 2022年9月20日)
https://www.kuas.ac.jp/news/2022/09/5456