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黄色と黄緑のバルーン模様

書籍名

人生の歩みを追跡する 東大社研パネル調査でみる現代日本社会

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年1月

ISBN コード

978-4-326-60326-8

出版社

勁草書房

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人生の歩みを追跡する

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『人生の歩みを追跡する』は、進学、就職、交際、結婚、子育てなどひとびとが経験する様々なイベントの蓄積を個人のライフコースの軌跡として捉え、多くのひとびとが辿る軌跡とともにどのように異なる軌跡があるのかを明らかにし、ライフコースの多様性を記述する。個人のライフコースを束ねることは、同時に私たちの社会の姿を描くことにも通じる。例えば日本社会にみられる少子化の進展は、個人の出産をめぐるライフコースの帰結として社会全体の動きとして現れたものである。他方で社会の制度は、個人のライフコース上の選択を制約し条件づける。就業と子育ての両立を支援する仕組みは、個人の出産と就業継続の選択と不可分の関係にある。このように個人と社会は互いに影響しあっており、個人のライフコースを分析することで社会のもつ特徴を浮かび上がらせることができる。
 
この研究は、10年以上にわたって個人を追跡している東大社研パネル調査を用いている。一時点の調査と異なり、同一個人を追っていくことで、個人のライフコースとその変化を跡付けることが可能となる。第1部「就業・キャリア・貧困」では、就業と経済的帰結に焦点を当てた3つの章で構成される。キャリアを積むことで所得が年齢と共に上昇していく「右肩上がりの人生」は本当なのか、ライフコースの過程でどのようにしてひとびとは貧困に陥ったり貧困から抜け出したりできるのか、キャリアの進展に従って男女間の収入格差がどのように拡大していくのか、を分析している。第2部「生活・健康」では、健康、住まい、社会的孤立に関する軌跡を取り上げる。ひとびとの健康状態が、職場環境や仕事の仕方、運動・食事などの健康行動によりどのように変化するのか、誰がどのような住宅の住んでおり、持ち家に移行するのは誰なのか、友人関係の獲得と喪失の過程で誰が孤立しやすく孤立から抜け出すのか、について考察している。
 
第3部は「家族」に関連した結婚、ワーク・ライフ・バランス、教育意識を検討する。どのような「婚活」が結婚あるいは破局に繋がりやすいのか、職場のワーク・ライフ・バランスに関する環境が結婚と仕事満足度に影響を及ぼすのか、自分の子どもにはできるだけ高い教育を受けさせたいという高学歴志向が高いのは誰なのか、について分析している。第4部「社会・政治に対する意識・態度」では、ひとびとの意識の変化に着目する。2000年代の政治や社会の状況の変化は、ひとびとの抱く希望と生活満足度を変化させたのか、雇用と家族に関するリスクの高まりは、福祉国家への支持を変化させたのか、について分析している。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 特別教授 石田 浩 / 2022)

本の目次

序章 パネル調査によるひとびとの「人生の歩み」の追跡[藤原 翔・石田 浩・有田 伸]

 1.ひとびとの人生の歩みを追跡する意義と方法
 2.「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)
 3.パネルデータを用いた社会学的研究
 4.本書の構成
 参考文献

第1部 就業・キャリア・貧困

第1章 誰が所得上昇を果たしているのか?21世紀日本社会の「右肩上がりの人生」[有田 伸]
 1.年齢と所得の関係
 2.個人所得の変化傾向
 3.大きな所得上昇を果たしているのは誰か?
 4.対象期間中のイベントが所得上昇にもたらす影響
 5.「右肩上がりの人生」とその格差のゆくえ
 参考文献

第2章 若年・壮年期の貧困世帯形成と世帯の収入源からみた動態分析[林 雄亮]
 1.日本社会の貧困問題と本章の目的
 2.貧困の定義と基礎分析
 3.貧困の動態分析
 4.ライフコースのなかに潜む貧困とその課題
 参考文献

第3章 ライフコースにおける男女間収入格差の生成不平等と階層に着目して[大久保将貴]
 1.日本における男女間収入格差
 2.格差指標としての不平等と階層
 3.方法とデータ
 4.男女間収入格差の分析結果
 5.男女間収入格差の「見える化」に向けて
 補遺
 参考文献

第2部 生活・健康

第4章 健康格差はいかに生成されるのか?ライフコースの流れに着目して[石田 浩]
 1.健康の格差を考える
 2.健康の格差に関する研究
 3.健康格差をパネル調査から考える
 4.主観的健康感の推移
 5.健康格差が生じる要因
 6.健康格差のゆくえ
 参考文献

第5章 誰が持家に移行するのか階層と家族に注目して[村上あかね]
 1.「持家社会」日本の成立と変容
 2.日本型住宅システムの特徴と歴史
 3.住宅所有の実態
 4.ライフコースと住宅所有
 5.ポスト「住宅すごろく」時代のライフスタイルと住宅
 参考文献

第6章 社会的孤立を生み出す2段階の格差友人関係の獲得と喪失の過程に着目して[石田賢示]
 1.社会的孤立と友人関係
 2.社会的孤立状態の格差の背景と孤立リスクの動態への着目
 3.分析に用いるデータ・変数
 4.友人不在の状態と動態
 5.社会的孤立を生み出す2段階の格差
 参考文献

第3部 家族

第7章 どのような「婚活」が結婚へと導くのか[三輪 哲・田中 茜]
 1.「婚活」の時代
 2.「婚活」への計量的アプローチ
 3.「婚活」の実相
 4.「婚活」により生まれたカップルのその後
 5.「婚活」の現在とその後
 参考文献

第8章 職場のワーク・ライフ・バランス環境とパートナー関係[不破麻紀子]
 1.職場のワーク・ライフ・バランス環境とパートナー関係
 2.WLB環境の変動
 3.配偶者間のコミュニケーション
 4.パートナー関係の概念
 5.データと分析方法
 6.WLB環境の効果の分析
 7.WLB環境の効果は限定的?
 参考文献

第9章 高学歴志向の差異と変化ライフイベントに注目して[藤原 翔]
 1.教育意識から社会を読み解く
 2.高学歴志向の差異
 3.結婚による高学歴志向の変化
 4.子どもによる高学歴志向の変化
 5.高学歴志向のゆくえ
 参考文献

第4部 社会・政治に対する意識・態度

第10章 希望と満足は政治を動かしたか?社会・政治意識と政治状況の相互作用の解明[田辺俊介]
 1.日本社会における希望と満足
 2.希望と満足の語られ方
 3.2000年代日本における希望と満足の実態:社会・政治意識との関連
 4.社会・政治的環境とひとびとの意識の相互作用
 参考文献

第11章 福祉国家に対する支持の変容雇用・家族リスクの拡大は何をもたらすか[永吉希久子]
 1.新たなリスクと福祉国家
 2.日本型福祉国家への支持はどのように変化したか
 3.福祉国家支持を変えるもの
 4.福祉国家のゆくえ
 参考文献

終章 人生の歩みの追跡からみる現代日本社会[有田 伸・藤原 翔・石田 浩]
 人は変わっていく
 パネル調査データが明らかにしてくれるもの
 リスクの経験比率は案外高い
 格差の生成メカニズムを特定する
 根本のフレームは変わりづらい
 現代日本社会へのインプリケーション
 参考文献

あとがき
索引
 

関連情報

社研パネル調査プロジェクト (東京大学 社会科学研究所 付属社会調査・データアーカイブ研究センター):
http://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/JLPS/
 
あとがきたちよみ:
けいそうビブリオフィル: あとがきたちよみ『人生の歩みを追跡する』 (勁草書房編集部ウェブサイト 2020年1月31日)
https://keisobiblio.com/2020/01/31/atogakitachiyomi_jinseinoayumiwo/
 
書評:
福田節也 評 (『人口学研究』57巻p.60-63 2021年11月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jps/57/0/57_2104002/_article/-char/ja
 
筒井淳也氏の『人生の歩みを追跡する:東大社研パネル調査でみる現代日本社会』の書評に応えて (『教育社会学研究』第107集 (2020年11月30日)
https://jses-web.jp/publication/journal/journal107/
 
本田由紀 評 (『社会学評論』71巻2号p.343-344 2020年9月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr/71/2/71_343/_article/-char/ja

仲野徹 評「大規模調査が明かした人生の真実 THIS WEEK'S THEME 格差が生まれる背景』」 (『日経ビジネス』 4月10日号)
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/culture/00065/
 

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