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白い表紙の中心に緑の模様

書籍名

シリーズ少子高齢社会の階層構造 1 人生初期の階層構造

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年7月13日

ISBN コード

978-4-13-055141-0

出版社

東京大学出版会

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学内図書館貸出状況(OPAC)

人生初期の階層構造

本書は、2015年SSM調査プロジェクトにおいて、とりわけ若年期に生じるライフイベントにみられる格差・不平等について研究した成果をまとめた書籍である。SSMとは、Social Stratification and Mobilityの略で、社会的資源が不平等に分配されている状態 (社会階層) および、階層的地位の移り変わり (社会移動) を意味する。社会階層による格差は、人生のさまざまな場面で観察される。たとえば、一生のうちに産む子どもの数に階層による違いがあるし (出生力の階層差)、階層により進学や卒業のチャンスも異なる (教育達成の格差)。初めて就職した仕事から次の仕事へと移っていくこと (キャリア移動あるいは世代内移動)、親の階層的地位が自身の到達する地位へと移ること (世代間移動) にも、社会階層が大いにかかわる。こうした階層研究のための基礎資料として、長い伝統があり、国際的にも高く評価されるものが、SSM調査のデータなのだ。
 
SSM調査データを用いた実証研究の集大成たる本書は、4部から構成される。第I部では、世代間移動と教育格差のトレンドの検討がなされる。高学歴化したにもかかわらず、世代間の階層移動の機会がほぼ変わらなかったことや、長期的には教育機会の格差は概ね一定水準のまま持続しているという知見が見出された。第II部においては、ジェンダー、家族、地域、学校の設置者などのさまざまな視角から、教育達成における不平等の諸相を描き出している。大学進学のジェンダー格差は縮小しつつあるが決してなくなってはいないこと、きょうだいの人数や出生順位の遅さによる教育達成の不利がみられたこと、出身地域により教育機会には差があり特に地方出身者が高等教育進学するにはより高い成績が必要となっていたこと、地域や時代の影響を考慮してもなお国立や私立中学への進学には出身階層の影響がみられること、が明らかにされた。第III部では、学校卒業後の就職にかかわる研究成果が収められている。学校経由の就職は依然として影響が大きいが出身階層との関連はみられないことや、大学に進学しにくい層が専門職となって「手に職」をつける機能がありうること、大学中退が初期キャリアで不利になるのは戦後日本で一貫してみられたこと、恵まれない出身階層の女性が職業資格をとってキャリアを挽回する傾向が専門学校卒でみられること、正規事務職の減少などの労働需要要因の変化が高卒女性の非正規就労の拡大へとつながったこと、などが明らかとなった。第IV部では、離家、結婚、出産など、家族にかかわるライフイベントにみられる階層性を焦点に議論が展開される。離家の経験率にみられる量的な格差の縮小がみられる一方で離家のきっかけという質的な格差は残ること、出生力には階層差があることで男性では学歴再生産を強化する傾向がみられること、自由恋愛に基づく出会いのきっかけの比重が高まっていくなかで階層同類婚が減少してきたこと、ジェンダーによる差異が強固に維持されたままでライフコースの多様化が進行したこと、が論じられた。
 
全体的な論調は、戦後を通して階層間の格差は不変でいつの時代にもみられる、ということになる。社会階層は、古くかつ新しい問題なのである。社会の変動は激しく時代は動いていくものの、社会的不平等を生み出す潜在的な構造は簡単には変えられないほど根が深いものなのだと、本書の成果から改めて思わされた。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 三輪 哲 / 2022)

本の目次

序 人生初期の階層構造 (中村高康・三輪 哲・石田 浩)
 
I 社会移動と教育の趨勢
1 世代間階層移動と教育の趨勢 (石田 浩)
2 教育機会格差の趨勢―長期的トレンドと若年層の動向 (中村高康)
 
II 教育達成の構造
3 戦後日本の教育拡大と階層・ジェンダー―大学進学に向けて男女は競合するようになったか (中澤 渉)
4 子どもの教育達成ときょうだい構成 (苫米地なつ帆)
5 教育達成格差構造のなかの中学校―国私立中学校進学とその地域差に着目して (濱本真一)
6 教育機会の地域間格差と地域移動 (上山浩次郎)
 
III 教育から仕事への移行
7 学校経由の就職の規模と効果の趨勢 (小川和孝)
8 大学進学が初職に及ぼす効果―専門職へのルートとしての大卒の意味 (森いづみ)
9 大学中退から職業への移行 (菅澤貴之)
10 専門学校から職業への移行 (多喜弘文)
11 なぜ高卒女性で初職非正規雇用リスクは高まったのか (阪口祐介)
 
IV 家族形成の変容
12 離家の変化と出身階層による格差 (林 雄亮)
13 出生力と学歴再生産 (余田翔平)
14 変わりゆく結婚市場と階層同類婚 (三輪 哲)
15 若年期のライフコースの多様化はどう生じたか―男女差からみえる変化と不変 (香川めい)
 

関連情報

少子高齢社会の階層構造【全3巻】シリーズ
https://www.utp.or.jp/book/b601054.html
 
受賞:
令和4年度 社会調査協会賞 優秀研究活動賞 - 多喜弘文 氏 (法政大学社会学部 准教授) (一般社団法人 社会調査協会 2022年12月19日)
https://jasr.or.jp/commend/r4/
 
書評:
池田岳大 (立教大学社会情報教育研究センター助教) 評 (『家族社会学研究』34巻1号p.80 2022年4月30日)
https://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.34.80

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