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書籍名

[格差の連鎖と若者2] 出会いと結婚

著者名

石田 浩 (監修)、 佐藤 博樹、石田 浩 (編)

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年4月

ISBN コード

978-4-326-64883-2

出版社

勁草書房

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出会いと結婚

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若者の間の格差・不平等の現状はいかなるものなのか。格差はどのように生まれ連鎖していくのか。『格差の連鎖と若者』シリーズは、まさにこの問題に正面から取り組んだ成果である。東京大学社会科学研究所では、若年・壮年者を長期にわたり追跡する東大社研パネル調査プロジェクトを実施している。2007年に若年 (20-34歳) と壮年 (35-40歳) であった対象者に対して、働き方、結婚・出産、生活様式とライフスタイル、意識や価値観など多様な側面にわたって20頁ほどの質問紙票を毎年配布し回収している。本シリーズは10年近くにわたる追跡調査データを分析した成果をまとめたものである。第1巻では学校から職場への移行と職業キャリアに焦点を当て、第2巻では出会いから結婚への移行と出生意欲・夫婦関係を取り上げ、第3巻では若年者の意識や価値観の変化を扱った。
 
第2巻『出会いと結婚』では、未婚の男女が出会い、どのような過程を経て結婚に至るのか、また出会いや結婚を促したり、阻害したりする要因はいかなるもので、出会い・結婚をめぐる格差はどのように生じているのかを主題としている。出会い・結婚・出産というライフイベントに焦点を当てる背景には、未婚化・晩婚化が、現代日本の少子化社会の進展を生み出す大きな要因となっているからである。出会いから結婚への過程を分析した章では、出会いが結婚に移行する重要な要因は強い結婚意欲であり、男女で配偶者の選択基準が異なることが結婚への移行の障害となりうること、学歴・初職といった階層要因は出会いの機会とは関連がないのにかかわらず、結婚に至る過程に影響を与えており、すべての出会いが結婚に結びつくわけではないことを明らかにしている。
 
結婚をめぐる意識に着目した章の分析によれば、男女で結婚の意味が異なり、男性では結婚はゴールであり通過点であるため結婚後も満足度は維持されるが、女性では結婚はスタートでありその後の子育てや就業の経験が結婚満足度に大きく影響する。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」といった性別役割分業の意識は、女性の場合には、結婚を機に性別役割分業を肯定する方向に変化し安定する。このことは、「幸福な家庭生活」の中に標準的な性別役割分業がすでに組み込まれてしまっている可能性がある。
 
子どもが欲しいかどうか、いる場合にはもう1人欲しいかどうかという出生意欲を規定する要因を分析すると、年齢・子ども数という人口学的要因とともに、夫の収入や失業不安、妻の働き方などの経済的要因の重要性が明らかになった。出生意欲が高ければ、2年以内に子どもをもつ確率が高いことがわかっている。出産の先送りを食い止めるためには、夫婦の収入と雇用機会の安定化が不可欠である。

 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 特別教授 石田 浩 / 2021)

本の目次

シリーズ刊行のことば [石田 浩]

序章 出会いと結婚 佐藤博樹
 1.「出会いと結婚」で取り上げる幾つかのテーマ
 2.未婚化の進展を背景に結婚への関心の高まり
 3.出会いと結婚──「出生動向基本調査」から
 4.各章の分析で得られた幾つかの知見

I部 結婚意欲・交際そして結婚

第1章 結婚を阻む「壁」の在り処──結婚意識と配偶者選択 [三輪 哲]
 1.結婚意識から家族形成への道筋
 2.JLPSデータからみえる婚姻・交際の状況
 3.結婚についての意向と希望時期
 4.結婚意欲の移行
 5.配偶者選択基準の変化
 6.すれ違う男女と主観的な結婚の「壁」

第2章 結婚への道のり──出会いから交際そして結婚へ [茂木 暁・石田 浩]
 1.結婚への二つの移行過程
 2.「交際への移行」
 3.「交際から結婚への移行」
 4.「交際への移行」の分析
 5.「交際から結婚への移行」の分析 (1)
 6.「交際から結婚への移行」の分析 (2)
 7.結論と考察──「交際への移行」と「交際から結婚への移行」の違い

第3章 性別役割意識の変容──若年層の保守化と結婚意欲をめぐって [橋本摂子]
 1.性別役割意識のアポリア
 2.性別役割意識の変容
 3.未婚者層における意識の変容と受容
 4.意識の変容から「幸福」の多様化へ

II部 夫婦関係と出産・結婚満足度

第4章 既婚男性の働き方と就業環境──家事分担を規定するか [不破麻紀子]
 1.日本の既婚男性の家事労働
 2.男性の就業環境改善の取り組み
 3.家事分担の規定要因
 4.データと分析方法
 5.既婚男性の家事は増えているか
 6.考察──就業環境と既婚男性の家事
 
第5章 出生意欲は低下するのか [村上あかね]
 1.依然として深刻な少子化
 2.なぜ少子化になったのか
 3.分析
 4.出生意欲が低下するまえに

第6章 結婚をめぐる若者の意識──家族形成初期のジェンダー差に着目して [鈴木富美子・佐藤 香]
 1.若者と結婚
 2.家族形成をめぐる状況と意識の推移──第5波~第12波のデータから
 3.30歳時 (第12波) までの結婚した人としなかった人の違い
 4.結婚へ移行した後の状況──結婚満足度を中心に
 5.結婚の意味するもの──ジェンダーによる違い

終章 格差の連鎖・蓄積と家族形成 [石田 浩]
 1.はじめに
 2.ライフコースの枠組
 3.若年者の家族形成
 4.格差の連鎖・蓄積と家族形成
 5.おわりに

付録 分析に使用した調査票の設問一覧
索引

関連情報

東大社研パネル調査プロジェクトのホームページ:
http://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/panel/JLPS/
 
書評:
中川まり (東京女子大学 女性学研究所) 評 (『ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報』23号pg.268-270 2020年7月31日)
https://teapot.lib.ocha.ac.jp/records/43022#.YZXkDBrP2Uk
 
中村真理子 (国立社会保障・人口問題研究所) 評 (『家族社会学研究』32巻1号p.116 2020年4月30日)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoffamilysociology/32/1/32_116/_article/-char/ja/

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