東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、いくつかのキューブと人の模型

書籍名

パネル調査にみる子どもの成長 学びの変化・コロナ禍の影響

著者名

東京大学社会科学研究所、 ベネッセ教育総合研究所 (編)

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2024年2月

ISBN コード

978-4-326-25174-2

出版社

勁草書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

パネル調査にみる子どもの成長

英語版ページ指定

英語ページを見る

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は、子どもの自立と成長のプロセスとその規定要因を分析する「子どもの生活と学び」研究プロジェクトを実施している。約2万組の親子を追跡調査するこのプロジェクトは、2023年に10年目を迎えた。特に近年には新型コロナウイルス感染症の拡大と全国一斉の休校、GIGAスクール構想の急速な実現、新学習指導要領の実施など、子どもたちの生活と学びに著しい影響を与える出来事が生じている。
 
本書では、2015年度に実施された第1回調査 (Wave1) から2021年度に実施された第7回調査 (Wave7) までの結果を中心に、分析結果を紹介している。
 
第I部では、特に近年の子どもの学びと育ちの変化についてのデータをもとに、コロナ禍と教育のデジタル化の影響、7年間の保護者の子育て環境および意識・行動の変化、高校卒業時調査をもとにした進路決定の早期化やリスク回避の傾向などについて詳細に解説している。特にGIGAスクール構想の前倒しにより教育のデジタル化が著しく進展し、子どもの学びの形態が大きく変化している一方で、学びそのものへの影響は限定的である現状が明らかになり、今後の教育をどのように改善していくべきかについて考えるための重要なデータが数多く紹介されている。
 
第II部では、子どもの成長 (変化) に影響を与える様々な要因について、様々な視点から考察が行われている。読書行動の変化についての分析では、小1という低学年から不読層が存在することが示された。小学校から中学校に移行する際の学校適応についての分析では、高い進学意識を持つことや運動部加入が中学移行時の不適応を抑制する可能性が示唆された。家庭学習に関する分析では、メタ認知的学習方略 (自分の学習の仕方をふりかえり、コントロールする方略) をとることが、学習の動機付けを高めることが明らかになった。コロナ禍の親子関係についての分析では、子どもの学習意欲の低下要因として、親の学習支援の減少など親側の要因の存在を指摘した。学習意欲の推移についての分析では、学習意欲の高・中・低層は小4時点よりも前に定まり、その後は大きく変化しないことが示された。教育アスピレーションに関する分析では、四大に進学する生徒の約9割は、小6という早期から志望している実態が明らかになった。
 
本書は膨大なサンプル数による親子ペアの縦断調査という特色を生かした多角的な分析を通して、子どもの学習と生活の向上に寄与する要因を探索している。7年間にわたる同一個人の変化を詳細に検討しており、国際的にも高い学術的価値を持つ実証データを提供している。この研究成果は、今後の教育政策や実践の改善に向けた重要な示唆を与えるものである。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 特任准教授 大野 志郎 / 2024)

本の目次

はしがき
 
第I部 経年比較にみる子どもの学びと育ちの変化
第1章 親子パネル調査のねらいと設計[木村治生]
第2章 親子パネル調査 (Wave 1~7) の回収状況とサンプル脱落[岡部悟志]
第3章 子どもたちの生活の様子,人間関係の実態
     ──2015年度から21年度の経年変化を追う[木村治生・松本留奈]
第4章 学習行動・意識の変化と学校デジタル機器利用[大野志郎
第5章 保護者の子育て環境,意識・行動の変化
     ──2015年度から21年度の経年変化を追う[松本留奈・木村治生]
第6章 卒業時サーベイ (高3生調査) にみる進路選択の変化[佐藤昭宏]
第7章 コロナ禍は子どもの生活と学びになにをもたらしたのか[耳塚寛明]
第8章 コロナ禍は学校の意味をどう変えたか[松下佳代]
 
第II部 子どもの成長(変化)に影響を与える要因の分析
第9章 小中高校生の読書行動の7年間の縦断的変化とコロナ禍による影響の検討[秋田喜代美・濵田秀行]
第10章 小学校から中学校への移行にともなう学校適応の変化
     ──中1ギャップ/中1ジャンプの規定要因[須藤康介]
第11章 家庭学習の問題再考
     ──親子の会話頻度・動機づけ・学習方略の関連に着目して[小野田亮介]
第12章 コロナ禍における親子関係の変化
     ──子どもの学習意欲との関連に着目して[佐藤 香
第13章 小学生から高校生まで7年間の学習意欲の推移
     ──混合軌跡モデリングによるパネルデータ分析[大野志郎]
第14章 小・中・高校生の教育アスピレーション加熱/冷却への成績自己評価の影響に関するパネルデータ分析
     ──「ベースサーベイ」および「卒業時サーベイ」データから[中西啓喜]
第15章 親子パネル調査の結果からわかること
     ──教育の変化、デジタル化、コロナ禍の影響[木村治生]

関連情報

東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学び」研究プロジェクト
https://web.iss.u-tokyo.ac.jp/clal/
 
関連記事:
「学習方法の理解」が学習意欲・成績向上に効果的!【東京大学・大野特任准教授】 (Wellulu 2023年8月24日)
https://wellulu.com/family-growth/childcare-family-growth/6709/
 
文系、理系の壁: ベネッセ・木村治生さん「文系、理系の意識は小学校時代にできあがる」 (EduA|朝日新聞 2021年9月30日)
https://www.asahi.com/edua/article/14449414

このページを読んだ人は、こんなページも見ています