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白と青の表紙

書籍名

逃避型ネット依存の社会心理

著者名

大野 志郎

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年1月

ISBN コード

978-4-326-25138-4

出版社

勁草書房

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逃避型ネット依存の社会心理

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本書は、インターネット依存に関するこれまでの学術的研究の概要を示すと共に、インターネット依存を構成する要素について詳細に検討し、逃避を動機としたインターネット利用が極めて重要な予測因子となることを論じたものである。
 
インターネット依存に関する学術的な量的研究の蓄積により、様々な心理社会的変数とインターネット依存との関連性が示されてきた。しかし、あらゆるネガティブな心理社会的変数が依存傾向に結びつく結果となる一方で、なぜ関連するのかという理論構築が十分に行われておらず、それが問題への実質的な対処方法の確立を困難にしていることが指摘されている。本書では、依存問題の予防教育の指針を示すため、逃避を目的としたネット使用が、様々な心理社会的苦痛やストレスとネット依存傾向とを結びつける主要な因子であるという仮説のもと、「逃避型インターネット依存モデル」を構築し、検証を行った。
 
はじめに、逃避型インターネット利用の状況を確認するため、インターネットによる重大な実害の経験者へのグループインタビュー調査の分析を行った。その結果、21人中18人が逃避型ネット使用を行っており、現実生活におけるストレス状況が要因となる可能性が示された。また横浜市の中学生を対象として実施された質問紙調査 (n =10,596) の結果、学校の欠席、テストでの失敗、身体的不健康、精神不安定、友だちとの不仲、ひきこもりのいずれかの実害項目に該当した率は、21.5%であった。東京都の高校生を対象とした質問紙調査 (n =15,191) においては、逃避型ネット使用について13.5%が「いつもある」または「よくある」と回答した。
 
中学生・高校生への質問紙調査の結果を用い、「逃避型インターネット依存モデル」について共分散構造分析により検証した。その結果、最も大きな影響が見られた経路は、心理的ストレス要因から逃避型ネット使用へ、逃避型ネット使用から潜在的ネット依存傾向へ、潜在的ネット依存傾向からネット使用の実害へと至る経路であり、心理的ストレス要因は、主として逃避型ネット使用を経由して潜在的ネット依存傾向を高めるという関係性が示された。性別、学年別、長時間使用するウェブアプリケーション別に実施した多母集団同時分析においても同様の関係性が見られた。さらに、スマートフォンゲーム熱中者に対する調査においても、同様のモデルが適合することを確認した。これらの成果は、逃避型インターネット依存モデルが、インターネット依存問題の有力な理論モデルのひとつとなる可能性を示すものである。今後は逃避目的のインターネット使用を抑制する手法の確立や、教育の場における逃避的使用に関する啓発活動が求められる。

 

(紹介文執筆者: 情報学環 助教 大野 志郎 / 2020)

本の目次

第一章 インターネット依存研究のこれまで
 1.1 1990年代:チャット依存
 1.2 2000年代:オンラインゲーム依存,SNS依存
 1.3 青少年の情報行動
 1.4 インターネット依存の呼称
 1.5 インターネット依存の定義
 1.6 インターネット依存の診断基準
 1.7 インターネット依存の構成要素
 
第二章 インターネット依存の影響
 2.1 国外のインターネット依存有病率
 2.2 国内のインターネット依存有病率
 2.3 オンラインゲーム依存の有病率
 2.4 性別,年齢,居住地域,世帯年収とインターネット依存
 2.5 インターネットの使用状況とインターネット依存
 2.6 生活満足,対人関係とインターネット依存
 2.7 心理傾向とインターネット依存
 2.8 精神的・身体的症状とインターネット依存
 
第三章 インターネット使用の実害
 3.1 2002年EverQuest
 3.2 オンラインゲームと死亡事故
 3.3 中学生のインターネット使用による実害の実態
 
第四章 インターネット依存傾向者の実態
 4.1 2010年グループインタビュー
 4.2 アプリケーションの種類による群分けと分析
 4.3 インターネットの使用動機,きっかけによる比較
 4.4 インターネット使用時の状況
 4.5 依存状況および症状
 4.6 依存傾向からの回復
 4.7 3タイプの依存プロセス
 
第五章 逃避型ネット使用の現状
 5.1 逃避型ネット使用
 5.2 逃避とインターネット依存との関係
 5.3 逃避型ネット使用の臨床例
 5.4 グループインタビューに見る逃避型ネット使用
 5.5 青少年の逃避型ネット使用問題の量的調査による検証
 
第六章 逃避型インターネット依存モデル
 6.1 逃避型ネット使用とインターネット依存との弁別
 6.2 逃避型ネット使用から依存へと至るモデル
 6.3 インターネット依存と実害との弁別
 6.4 逃避型インターネット依存モデル
 6.5 インターネット依存因子の構造化
 
第七章 逃避はストレスと依存を結びつけるか
 7.1 逃避型ネット使用,潜在的ネット依存傾向,実害の相関分析
 7.2 逃避型ネット使用と関連する心理的ストレス要因の検討
 7.3 逃避型ネット使用が潜在的ネット依存傾向と関連する程度の検討
 7.4 逃避型インターネット依存モデルの検証
 
第八章 逃避型ネット使用による依存形成について考える
 8.1 なぜ逃避が媒介変数となるのか
 8.2 なぜインターネット使用が心理的報酬となるのか
 8.3 どのような場合にインターネット依存に結びつくのか
 8.4 逃避型インターネット依存と嗜好型インターネット依存
 

関連情報

書評:
都筑学 (中央大学教授) 評「のめり込む要因、大規模調査で検証」 (日本教育新聞NIKKYO WEB 2020年6月8日)
https://www.kyoiku-press.com/post-217237/
 
岡安孝弘 評 「インターネット依存の発生メカニズムを解明」 (『図書新聞』第3450号 2020年6月6日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3450
 
書籍紹介:
けいそうビブリオフィル あとがき たちよみ (勁草書房編集部ウェブサイト 2020年1月20日)
https://keisobiblio.com/2020/01/20/atogakitachiyomi_tohigatanetizon/

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