ツイッターの心理学 情報環境と利用者行動
本書は世界的に活発に利用されている代表的ソーシャルメディアの一つであるツイッターを題材とした学術専門書である。特に社会心理学的なCMC研究の系譜に位置づけられ、ツイッター利用者の調査データの分析を通じて、ソーシャルメディア時代におけるオンラインコミュニケーションを考察し、ウェブの現在と将来を論じている。
今やきわめて広い層に利用されるようになったインターネットの、20年を経ても変わらぬ特徴は、カスタマイズ可能性と発信可能性であろう (川上ら、1993)。カスタマイズ可能性とは、利用者のニーズに応じた情報環境の選択可能性を指す (池田、柴内、1997)。それは利用者自身が自らの手で選びとる場合もあるが、近年はログインを前提にしたサービスも多く、その場合はアルゴリズムによって選択・表示される内容が利用者ごとに異なることも多い。またインターネットサービスの多くは広告に依存した収益モデルで成立しており、表示される広告もカスタマイズされる。いずれにせよ『永続的個人化』(Schafer et al., 2001) が前提となっているわけだが、ソーシャルメディアはそのような代表的なサービスであるといえよう。
別の観点からインターネットの利用を見た場合、対人コミュニケーションとマスメディアという2つの区分が可能である。前者はインターネット上でのコミュニケーションを主眼とし、後者はマスメディアの機能代替や購買の意思決定にかかわる情報源を主眼としている。また、前者は双方向的なコミュニケーションであることが多く、後者は一方向的なコミュニケーションであることが多い。しかし、このような区分はソーシャルメディアにおいては十分に機能しない。なぜならば、マスメディアによって流れることの多かったニュースなどに個人的な感想が添えられて投稿されたりし、双方がそこには包含されうるからである。そして、さらに言えば、オンライン世界とオフライン世界を重ね合わせる面でのカスタマイズも利用者ごとに異なっているのである。
こうした背景から行われたツイッター利用に関する実証的研究をもとに、本書は書かれている。具体的には、2013年から2014年にかけて行った、ツイッター利用者に対するアンケートとツイッターログを組み合わせた調査データをもとに、以下のことを明らかにした。(1) 情報収集のための情報ネットワークと交流のためのソーシャルネットワークの利用。それらとオンライン世界とオフライン世界の重なりと分離の実態。(2) 発信内容と受信内容の実態と投稿の理由。情報内容の玉石のうち「石」が増えたといわれる中での情報過多感の実態、である。
(紹介文執筆者: 情報学環 助教 河井 大介 / 2016)
本の目次
1章 ツイッターとソーシャルメディア
第一節 ツイッターの基本的仕組み
第二節 ツィッターの特徴と利用目的
第三節 海外と日本でのツイッター利用
第四節 情報環境としてのツイッター
第五節 ツイッターの「利用と満足」
2章 ツイッター上のネットワーク
第一節 情報ネットワークと対人交流ネットワーク
第二節 フォローネットワークの構成とツイッター利用動機 (1)
第三節 情報ニーズと対人交流ニーズのツイッター利用動機
第四節 フォローネットワークの構成とツイッター利用動機 (2)
第五節 ツイッターでのフォローのオフラインでの関係とツイートの種類
第六節 ツイッター上のネットワークに関するまとめ
3章 人びとの「つぶやき」のわけ -- 情報発信手段としてのツイッター
第一節 オンラインでの情報発信動機
第二節 ツイート内容の定量的把握
第三節 「つぶやき」を生み出す感情
第四節 「つぶやき」のコンサマトリー性とカタルシス性
第五節 「つぶやき」の理由や意図
第六節 10代ユーザーの「つぶやき」の理由や意図
第七節 「つぶやき」の理由や意図に関するまとめ
4章 人びとの「リツイート」のわけ -- 情報転送手段としてのツイッター
第一節 「シェア」概念の変遷とリツイート研究
第二節 公式リツイート (元ツイート) 内容別投稿頻度
第三節 公式リツイートを生み出す感情
第四節 公式リツイートのコンサマトリー性
第五節 公式リツイートの理由や意図
第六節 10代ユーザーの公式リツイートの理由や意図
第七節 公式リツイートの理由や意図に関するまとめ
第八節 ツイッターにおける他者への期待、再考
5章 人びとはツイッターで何を見ているのか -- 情報発信手段としてのツイッター
第一節 情報環境としてのツイッターと意見レベルの極化
第二節 高選択メディア環境と内容 (ジャンル) レベルの極化
第三節 利用者が受信するツイートの内容
第四節 何が読まれているのか
第五節 誰が何を受信するのか
第六節 マスメディア接触とツイッターでの情報受信
第七節 まとめ
6章 「つぶやき」とネットワークがもたらす情報過多
第一節 情報過多をめぐって
第二節 情報過多感とネットワークのサイズ / 密度の関係
第三節 利用者のツイート処理をめぐって
第四節 情報過多感による利用者のツイート処理方法の変化
第五節 ツイートを目にしてもらい、転送してもらうには
終章 ソーシャルメディア時代のオンライン世界の今後
文献
あとがき