東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

モノクロのピクセルアートでwwwと描かれた表紙

書籍名

インターネット法

著者名

松井 茂記 (編)、 鈴木 秀美 (編)、 山口 いつ子(編)

判型など

388ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2015年12月25日

ISBN コード

978-4-641-12583-4

出版社

有斐閣

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インターネット法

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「メディア」のありようは、社会の仕組みや意識、個人の思考や生活に変化をもたらし、歴史の大きな流れにもインパクトを与える。それは、人間が、絶えず情報に向き合いつつ生きる存在である以上、当然とも言える。振り返れば、15世紀における活版印刷術の登場は、聖書の普及を促し宗教革命を呼び起こす契機となり、また、19世紀における電気通信の急速な発達は、地理的な距離感覚を一国内だけでなく世界的な規模で縮めて、政治・経済の構造やスピードを一変させた。そして、技術的には電気通信の一つである放送は、人々の日々の暮らしの中に溶け込んで、報道や娯楽の新しいジャンルを生むとともに、多様な文化の幅広い世代間の共有を通じて、その時代の風景を作り出してきた。
 
今や、インターネットは、現実世界とは異なる特殊な仮想空間ではなく、こうした大きな社会変化を牽引するメディアであると言ってよい。新しいメディアは、ただ新規なコンテンツをもたらすだけではなく、これまで明確に意識していなかった仕組みや価値に目を向けさせ、当たり前だと思ってきたものを問い直させる作用がある。その意味では、社会における安定的なもの - 特に、その代表格としての、法制度 - と衝突もする。
 
法制度は、安定性を本質とすることで、社会における個人や組織の行動を予測可能にし、相互に信頼してさまざまな活動を行うための基盤となる。他方で、制度設計時の想定を超えるような新たな状況が生じた際には、その限界が問われる。インターネットというメディアがもたらしたのは、そうした状況である。インターネットの普及に伴って生じる諸問題に対して、法は、まずは安定性の枠内で、つまり、これまでの現実世界の枠組みと考え方を前提にして、解決策を探ってきた。しかし、それが限界値を越えた時には、法制度のデザインの修正を迫られる。その修正は当然に、個人の生活や社会の仕組みにも影響を及ぼし、新しい時代を切り拓く原動力となる。例えば、電子商取引に関する制度づくりはいうまでもなく、ネット上の違法・有害情報の責任を誰がどの程度まで負うべきかというルールいかんで、ネットビジネスの覇権や先端的技術の研究開発の行方が左右されることになる。また、「忘れられる権利」といった争点をめぐり、表現の自由とプライバシーといういずれも重要な価値が衝突した場合のバランスのとり方が国や地域によって大きく異なる現状は、社会の未来の構想をめぐる議論を刺激する。
 
インターネットと法に関する問題を取り扱う時の面白さは、こうしたダイナミックな緊張を意識することにある。一般に緊張という限界状況は、ものごとの本質を顕現させる何よりの機会である。この緊張の中で、私たちの社会がいかなる価値を大切にし、どのような未来を目指そうとしているのかが見えてくる。また、その取扱いにあたっては当然に、伝統的な概念や思考にはとらわれない知恵を絞ることが求められる。本書は、法の各分野の専門家が、13のトピックに関する基礎知識の解説を踏まえて、社会のさまざまな場面でいま現在生み出されているそうした緊張の姿を描き出すことで、統御技術としての法を語るだけでなく、社会を共に創生する手がかりとしての法の機能を示し、創造的な知性の活躍の実例を幅広く提示しているところに、格別の意味がある。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 山口 いつ子 / 2016)

本の目次

CHAPTER1 インターネット法の発達と特色 (松井茂記)
CHAPTER2 インターネットにおける表現の自由 (山口いつ子)
CHAPTER3 インターネット上の名誉毀損・プライバシー侵害 (宍戸常寿)
CHAPTER4 インターネットにおけるわいせつな表現・児童ポルノ (曽我部真裕)
CHAPTER5 インターネット上での青少年保護 (鈴木秀美)
CHAPTER6 インターネット上のヘイトスピーチ・差別的表現 (小倉一志)
CHAPTER7 電子商取引と契約 (木村真生子)
CHAPTER8 電子商取引の支払いと決済,電子マネー (森田 果)
CHAPTER9 インターネットと刑法 (渡邊卓也)
CHAPTER10 インターネットと知的財産法 (駒田泰土)
CHAPTER11 インターネット上の個人情報保護 (山本龍彦)
CHAPTER12 サービス・プロバイダーの責任と発信者開示 (西土彰一郎)
CHAPTER13 国境を越えた紛争の解決 (長田真里)

関連情報

有斐閣『インターネット法』紹介 - 法学教室「Book Information」コーナー
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201602-12583.pdf
 
Amazon 『インターネット法』紹介 - 出版社からのコメント
https://www.amazon.co.jp/dp/464112583X/
 

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