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白い表紙に雲状の赤い模様

書籍名

岩波新書 メディア不信 何が問われているか

著者名

林 香里

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2017年11月21日

ISBN コード

9784004316855

出版社

岩波書店

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メディア不信

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出版社より
「フェイクニュース」「ポスト真実」が一気に流行語となり、世界同時多発的にメディアやネットの情報の信憑性に注目が集まる時代。権威を失いつつあるメディアに求められるプロフェッショナリズムとは? 市民に求められるリテラシーとは? 独英米日の報道の国際比較研究を通して民主主義を蝕む「病弊」の実像と課題を追う.
 
著者より
本書は、2016年に米国、英国、ドイツに滞在して書きました。とくに、2016年の大統領選挙を目の当たりにしたのが執筆のきっかけです。
 
本書では、現在世界中に広がり、民主主義を蝕んでいる「メディア不信」について考えています。「メディア不信」は単純にメディアを嫌うのではなく、そこから現代社会に対する怒り、悲しみ、不安などの感情も広がっていると感じます。なぜ、そういった感情が「メディア不信」へと接続されるのか、その状況を考えてみたいと思いました。しかも、それは、米国だけでなく、英国、ドイツ、日本など、先進諸国共通の現象です。私が考えるのは、「メディア不信」とは、フェイクニュースやセンセーショナリズムの横行というメディアやジャーナリズムの問題にとどまらない、現代の民主主義社会が抱える病弊の一つの表現だと考えています。
 
他方で、各国比較では、日本は世界に比べて政治参加意欲が低いのに加えて、極端にメディアに無関心なのも大いに気になっています。世界先進国ではメディアや政治家による煽情的な言葉によって社会が分断されていく点が懸念されていますが、日本では市民たちの政治やメディアに対する静かな無関心から来る社会的分断が気になります。また、インターネットが既存のメディアを追い上げて、新聞やテレビも、これまで拠って立ってきたビジネスモデルを抜本的に見直さなくてはならなくなっています。いまのところ、それがよい方向に行くのかどうかは予測できませんが、商業主義に巻き込まれ、民主主義制度にとって重要なジャーナリズムの機能まで駆逐されそうな崖っぷち状態です。
 
本書ではさらに、かつては次世代の民主主義の担い手として期待されたフェイスブックやグーグルなどのグローバル情報産業が、いまでは民主主義制度を危うくする存在として危ぶまれて状態についても指摘しています。本書では、「メディア」の現在を、グローバルな社会全体から位置付けなおして見直す努力をしています。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 林 香里 / 2018)

本の目次

序 章 メディア不信  ― 何が問題か
  世界同時多発する「メディア不信」
  社会現象としての「メディア不信」
  「メディア」とはだれか
  「信頼」と「不信」
  「慣れ親しみ」
  二通りの「メディア不信」
  民主主義の否定
 
第1章 うそつきプレス!  ― ドイツの右翼グループの台頭
  高いドイツのメディアへの信頼度
  ドイツのメディア制度の特色
  「うそつきプレス」が二〇一四年「イケない言葉」に
  ユダヤ人陰謀説とナチスによる弾圧
  ドイツの右傾化と「うそつきプレス」
  難民問題でつまずいたジャーナリズム
  ジャーナリズムの職業倫理との葛藤/改正されたプレス・コードのガイドライン
  右傾化ドイツのジャーナリズムの行方
 
2章 大衆紙の虚報とBBCの公平性 ― 英国のEU離脱決定
  英国のEU離脱
  EUとメディア
  ネットよりも低い新聞への信頼度
  EU離脱キャンペーンと「フェイク・ニュース」
  大衆紙の影響力
  分断される社会、戸惑う一般市民
  BBCは何をしていたか
  BBCの「公平性」への回帰
  階級社会から生まれる「メディア不信」
 
3章 大統領が叫ぶフェイク・ニュース!   ― 分裂する米国社会
  米国のメディア理念
  下降する信頼度
  トランプ大統領とマスメディア
  大統領選中に広がった「フェイク・ニュース」
  大統領が叫ぶ「フェイク・ニュース!」
  分裂する言論空間
  「ディープ・ステイト」陰謀説
  リベラル・ジャーナリズムの失敗
 
4章 静かなメディア不信  ― 日本のメディア無関心
  日本の新聞市場の特徴
  地上波テレビ局の覇権
  日本人はメディアを信頼しているか
  「マイメディア」のない国
  弱いメディアへの問題意識
  漠然とした不信
  メディアと市民の距離
  薄い市民の影
  日本のメディアの党派性
  『産経新聞』と読者の関係
  右派「草の根」運動とメディア
  左派の市民運動とメディア
  「老舗」の危機とメディアの将来
 
5章 ソーシャル・メディアの台頭 ― 揺らぐ先進諸国の民主主義
  広がりながら閉じていくネット空間
  ソーシャル・メディアによる社会の分断
  フェイスブックをつかった心理操作
  フェイスブックから割り出される人物像
  「マイクロ・プロパガンダ」
  億万長者の影
  「ボット」の繁殖
  「ファクト・チェック」の限界
  マスメディアの地盤沈下と揺らぐ民主主義
 
第6章 ポピュリズムと商業主義に蝕まれる言論空間
  「リベラルな民主主義」への不信
  「リベラルな民主主義」の矛盾と相克
  危うい日本の無関心
  商業主義への懸念
  「メディア不信」を乗り越える
  メディアがつくる「公共」の必要性
  ポジティヴな不信へ
 
  あとがき
  主要引用・参考文献
 

関連情報

書評:
週刊本の発見 渡辺照子 評: 「普通の人」が抱く知的エリートの怒り (レイバーネット 2018年10月11日)
http://www.labornetjp.org/news/2018/1011hon

公明新聞 2018年3月26日
 
別府三奈子 (法政大学教授) 評 「ジャーナリズムの弱点は商業主義と国家主義」(週刊読書人 2018年3月2日)
https://dokushojin.com/article.html?i=2991

女性のひろば 2018年3月号

しんぶん赤旗 2018年1月22日

週刊新潮 2018年1月18日号
https://www.bookbang.jp/review/article/545436

日本経済新聞(朝刊) 2017年12月21日

読売新聞(夕刊) 2017年12月18日
 

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