本書は、政治とマスメディアの関係をめぐる、一般書、学術書、そして教科書である。
政治とマスメディアに関しては、研究テーマが拡散しており、また一つのテーマの中でも通説が確立されていない場合が多い。そこで本書では、変化・比較・実証というキーワードを基に、国内外における近年の研究動向を踏まえて、多くの実証研究が行われ、かつ日本でもレレヴァンスが高いと思われるテーマ群を4つ (終章を含めれば5つ) 選んだ。その上で、本書独自のデータ分析も交えながら、どこまでが共通了解になっていて、どこで見解が分かれているのか、また日本の文脈からはどのように考察できるのかを検討した。
各章の構成は、以下の通りである。第1章では、マスメディアは権力の監視者かそれとも政治のアクターか、そして政治主体として捉える場合には権力の批判者か伴走者か、というマスメディアの役割をめぐる議論を振り返った後、企業としての側面がマスメディアのあり方に及ぼす影響、そしてマスメディアに対する人びとの信頼感の考察を通じて、第四権力と言われたマスメディアの現状を展望した。
第2章では、マスメディアが世論に与える影響について、議題設定 (agenda setting) とプライミング (priming、誘発・呼び水効果)、フレーミング (framing、枠付け)、そしてバイアス (bias) という比較的新しい論点に絞って略述した。
第3章は、メディアの多元化に関連して、メディア悪玉論をめぐる論争、娯楽的要素を含んだソフトニュース (soft news) の効果、トークラジオ (talk radio)、ケーブルテレビ、衛星放送など多チャンネル化と選択的接触 (selective exposure) といったトピックスを取り上げた。
第4章は、政党や政治家に主眼を置いて、政治のメディア化 (mediatization) をキーワードに、マスメディアが政治のあり方に及ぼす影響、そして政治側のマスメディア戦略を概観した。
政治の目的 (の一つ) が人びとの生命と財産を守ることにあるとすれば、戦争や災害はそれらが危険にさらされる究極の政治と言える。終章では、アメリカにおける同時多発テロからイラク戦争に至る過程、そして日本における東日本大震災から浮かび上がった、政治とマスメディアをめぐる課題を考えた。
近年、マスメディアに対する批判が盛んになされているが、これに対して本書は、従来型の政界報道であれ、あるいは解説や論説・提言の充実であれ、調査報道とくに権力監視の強化であれ、いかなる途を採ったとしても、もはやマスメディアは人びとの信頼を取り戻せない、と見る。どのようにしても人びとに愛されなくなる趨勢の中、それでもなお民主政治にとって必要不可欠な機能を果たしていくより外はないと腹を括って、それぞれが信じる途で悪戦苦闘する、政治報道の等身大の姿を描くことこそが、本書のメイン・テーマである。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 谷口 将紀 / 2016)
本の目次
第1章 「第四権力」の現在
第2章 マスメディアと世論
第3章 多元化するメディア
第4章 メディアが変える政治
終章 危機とマスメディア
関連情報
「政治とマスメディア 谷口将紀著 報道の手法を実証的に考察」日本経済新聞2015年11月15日朝