『東大政治学』は、2023年度のAセメスター (後期) に東京大学教養学部前期課程、主に1年生向けに開講した総合科目「現代と政治」の講義録を基に、実況中継風に原稿を書き起こしたものです。
東京大学法学部 (厳密には、大学院法学政治学研究科または公共政策大学院に所属しつつ、法学部担当を兼ねる教員) には、広い意味での政治学を専門とする教授・准教授が約20名います。このうち13名が、1人1コマずつ、いま関心を持って取り組んでいる具体的課題を紹介した授業が「現代と政治」です。このコースを開設するにあたり、講義を担当する各教員には、これまでに政治学を学んだ経験のない学生も数多く履修すること、そして、これから法学部以外に進学する人も大勢いることは伝えましたが、その上で基礎的な事項を分かりやすく説明するのか、あるいはアップ・トゥ・デイトなトピックスを専門的な観点から解説するのか、はたまた敢えてそれぞれの専門分野における最先端の議論を紹介するのかは、各自の判断に委ねました。
本書は大学1年生向けの授業を基にしているとはいえ、中学校・高等学校での社会科の授業を復習し、大学における政治学の体系を易しく解説する「政治学101」の教科書、あるいは各種資格試験の受験参考書となることは意識していません。歌舞伎の顔見世公演やクラシック音楽のガラ・コンサート、さらにはロック・フェスティバルに近い「おいしいとこ取り」の本と言えるでしょう。ですから、本書は前の章を読まないと後ろが理解できないことはなく、ご関心のある章からページを開いていただいて構いません。
本書は、いささか僭越にも「東大政治学」を名のりますが、執筆者は2023年度に出講した大学院法学政治学研究科や公共政策大学院の教員に限られます。本来の東大政治学は、大学院総合文化研究科・教養学部、社会科学研究所、東洋文化研究所、先端科学技術研究センター、未来ビジョン研究センターなど本学の各部局に所属している、本書よりもさらに豊かな広がりを持った政治学者の総称です。われわれ東京大学の政治学者は、たとえて言えば一つの恒星を共有する惑星系を成してはいませんけれども、一人ひとりが独自の色、明るさ、重力をもって相互作用を及ぼしている星団のようなものです。
本書に触れることをきっかけに、さまざまな対象に多彩なアプローチで迫る政治学の世界に関心をもっていただけたならば嬉しいです。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 谷口 将紀 / 2024)
本の目次
第2講 政治とは、国際政治とは――戦争と平和の問題を中心に(遠藤 乾)
第3講 「冷戦の終わり方」を問い直す――ドイツ統一をめぐる国際政治史研究を題材に(板橋拓己)
第4講 「利益誘導」の条件――日仏の政治史を比較すると何が見えるか?(中山洋平)
第5講 現代アメリカの政治――「分断」の由来と大統領の挑戦(梅川 健)
第6講 「中国化」の中国政治――習近平のアイデンティティ政治を読み解く(平野 聡)
第7講 自由をめぐる政治思想(川出良枝)
第8講 「公共」と政治学のあいだ――日本政治思想史の視角から(苅部 直)
第9講 戦前の政党内閣期が示唆すること(五百旗頭薫)
第10講 現代日本の官僚制と自治制――行政研究の焦点(金井利之)
第11講 ジェンダーと政治(前田健太郎)
第12講 憲法をめぐる政治学(境家史郎)
第13講 租税政策をめぐる福祉国家の政治――比較の中の日本(加藤淳子)
関連情報
苅部直 評「本よみうり堂 読書委員 この1年」 (『読売新聞』 2024年12月22日)
書籍紹介:
法学部における次世代養成の取り組み (『東京大学大学院法学政治学研究科・法学部ニュースレター』No.35 2024年10月)
https://www.j.u-tokyo.ac.jp/alumni/wp-content/uploads/sites/6/2025/05/NEWSLETTER_No35_forWEB.pdf