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白い表紙に赤い雲形の模様

書籍名

岩波新書 女性のいない民主主義

著者名

前田 健太郎

判型など

238ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2019年9月20日

ISBN コード

9784004317944

出版社

岩波書店

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女性のいない民主主義

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民主主義は、普通選挙権を認め、複数の政党による競争的な選挙を行う政治体制である。では、こうした政治体制は、どこの国で、いつ頃生まれたのだろうか。一般的な政治学の教科書に従えば、民主主義は19世紀前半のアメリカで成立し、そこから幾度かの民主化の波を通じて世界的に普及したとされている。このような民主主義に関する説明は、大学だけでなく高校のレベルでも一般的に行われてきた。
 
だが、この記述は、実は正しくない。なぜなら、19世紀前半のアメリカでは、女性には参政権が与えられていなかったからである。連邦レベルの選挙でアメリカが選挙権を導入したのは第一次世界大戦後のことにすぎない。
 
それでは、初めて女性参政権を導入した国は、どこなのか。答えは、1893年のニュージーランドである。その後、オーストラリア、フィンランド、ノルウェーといった国々が、第一次世界大戦前に女性参政権を導入していく。教科書的な定義に忠実に従うのであれば、民主主義とはこうした国際システムの周辺の小国から生まれた政治体制だと考えなければならない。
 
このような民主主義の歴史は、おそらくはあまり知られてこなかった。その重要な理由は、これまでの日本の政治学がジェンダーの視点を欠いてきたことだろう。人間を男性と女性という二つの集団に区分し、男性の手に権力を集中させるジェンダー規範の力は、今日の日本の政治を見るまでもなく、広く作用している。それにもかかわらず、こうした視点からの議論は、常に学界の隅に追いやられてきた。日本の衆議院に占める女性の割合が世界でも最低水準にあるという、ごく初歩的な事実さえも、多くの教科書には記されていない。
 
それでは、政治においてジェンダーが重要な意味を持つということを正面から認めたとしたら、政治学はどのような学問になるのだろうか。それを考えてみたのが、本書である。第1章では政治とはいかなる営みであるのかを考察し、第2章では民主主義という政治体制の性格を検討した。第3章は福祉国家を中心とする公共政策を取り上げ、第4章は選挙を分析している。それを通じて、本書では日本の政治を「女性のいない民主主義」として捉える視点を提示した。
 
数年前に発売されて以来、本書は幸運にして多くの読者に恵まれ、版を重ね続けてきた。それは逆に言えば、本書が描いた政治の現状がほとんど変わっておらず、日本が男性支配の国であり続けているということを意味している。日本が男女平等な国となり、本書の内容が時代遅れとなる日が来ることを心から祈っている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 前田 健太郎 / 2024)

本の目次

はじめに
 
第1章 「政治」とは何か
 1 話し合いとしての政治
 2 政治における権力
 3 マンスプレイニングの罠
 4 政治の争点
 5 多数決と争点
 
第2章 「民主主義」の定義を考え直す
 1 女性のいない民主主義
 2 代表とは何か
 3 民主化の歴史を振り返る
 4 民主化の理論と女性
 
第3章 「政策」は誰のためのものか
 1 男性のための福祉国家
 2 政策は誰の利益を反映するのか
 3 福祉国家が変わりにくいのはなぜか
 4 政策の変化はどのようにして生じるか
 
第4章 誰が,どのように「政治家」になるのか
 1 日本政治の二つの見方
 2 有権者は誰に票を投じるか
 3 政党と政治家の行動原理
 4 選挙制度の影響
 
おわりに
あとがき
 

関連情報

受賞:
新書大賞 2020 第7位 (中央公論新社 2020年)
https://chuokoron.jp/shinsho_award/archive/2020.html
 
著者からのメッセージ:
男性支配と向き合う (web岩波 たねをまく 2019年10月30日)
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/2703
 
B面の岩波新書: 政治を学び直す――ある男性研究者の試み (新書余滴) (岩波新書編集部ホームページ 2019年10月5日)
https://www.iwanamishinsho80.com/post/democracy
 
著者インタビュー:
「ジェンダーは女性だけでなく男性の問題だ」政治と教育から考える日本のジェンダーの課題 前田健太郎准教授インタビュー (東大新聞オンライン 2020年3月29日)
https://www.todaishimbun.org/maeda20200329-2/
 
国際女性デー2020 日本政界、男性に「げた」 東大准教授・前田健太郎さん (『毎日新聞』 2002年3月6日)
https://mainichi.jp/articles/20200306/ddm/012/040/070000c
 
ジェンダー視点で眺めると世界は激変 「女性のいない民主主義」著者、前田健太郎・東大准教授 (毎日新聞 2020年3月3日)
https://mainichi.jp/articles/20200302/k00/00m/040/185000c
 
対談:
女性と政治、どう向き合う 前田健太郎さん×三浦まりさんが対談 (『朝日新聞』夕刊 2019年12月18日)
https://book.asahi.com/article/12974454
 
書評:
前田健太郎さんの「女性のいない民主主義」を読んで (NPO法人ジェンダーイコール 2024年1月27日)
https://column.gender-equal.com/posts/chika/kansou-1/

重田園江 評「(政治季評)「女性がいない」日本 変だと思う感覚の大切さ」 (『朝日新聞』 2022年11月17日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S15476051.html

大木直子 (お茶の水女子大学 グローバルリーダーシップ研究所) 評 (『ジェンダー研究』第23号 2020年)
https://www2.igs.ocha.ac.jp/wp-content/uploads/2020/10/review-9.pdf
 
申 琪榮 評 (『年報政治学』71巻1号p443-446 2020年)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/nenpouseijigaku/71/1/_contents/-char/ja
 
寺町東子 評 (『東京新聞』朝刊 2020年3月8日)
 
今週の本棚・この3冊 国際女性デー 加藤陽子 選 (『毎日新聞』朝刊 2020年3月8日)
https://mainichi.jp/articles/20200308/ddm/015/070/014000c

BOOKS (『ふぇみん』 2020年2月25日)
https://www.jca.apc.org/femin/digest/20200225.html
 
「今日の話題」欄 (『北海道新聞』夕刊 2020年2月15日)
 
米田佐代子 評 (『しんぶん赤旗』 2020年1月26日)

婦人公論 2020年1月28日号

週刊読書人 2020年1月3日

栗原裕一郎 評「栗原裕一郎さん (評論家) の3冊の本棚から」 (『東京新聞』朝刊 2019年11月17日)

新書 (『日本経済新聞』朝刊 2019年11月16日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO52229050V11C19A1MY6000/
 
本田由紀 (東京大学教授) 評「政治の見え方を痛快に転換」 (『朝日新聞』朝刊 2019年11月9日)
https://book.asahi.com/article/12863114
 
本よみうり堂:苅部 直 (政治学者 東京大学教授) 評 (『読売新聞』朝刊 2019年11月13日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20191102-OYT8T50083/

武田砂鉄 評 (『週刊金曜日』第1255号 2019年11月1日)
https://www.kinyobi.co.jp/tokushu/docs/1255.pdf

信濃毎日新聞 2019年10月13日

渡邊十絲子 (詩人) 評「男の幸福も阻んでいる女性の“働きにくさ”」 (『週刊新潮』 2019年10月24日号)
https://www.bookbang.jp/review/article/589879
 
書籍紹介:
会長対談: 菅沼友子会長 X 加藤陽子氏 (『NIBEN Frontier』 2023年1・2月合併号)
https://niben.jp/niben/pdf/nf202301_18.pdf

高島鈴が選ぶ、「フェミニズム」を考えるための「はじまりの5冊」【GQ VOICE】 (『GQ JAPAN』 2022年11月17日)
https://www.gqjapan.jp/culture/article/20221117-gq-voice-rin-takashima

『女性のいない民主主義』男性政治学者著作 (NNN – 日テレNEWS 2020年2月14日)
https://news.ntv.co.jp/category/politics/595201
 
イベント・講座:
国際女性デー記念トークイベント「東京大学にはなぜ女性研究者が少ないのか?」を開催しました! (#WeChangeUTokyo 2024年3月26日)
https://wechange.adm.u-tokyo.ac.jp/ja/news/513/
 
ジェンダーと政治 (日本記者クラブ 2021年3月22日)
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35862/report
 
<お知らせ>朝カル講座「女性のいない民主主義」 (朝日カルチャーセンター 2020年)
https://www.asahi.com/articles/DA3S14611028.html
 
刊行記念トークイベント前田健太郎さん×三浦まりさん
「男性の政治学から脱却するために――女性・フェミニズム・民主主義から考える」 (神保町ブックセンター 2019年11月19日)
https://www.jimbocho-book.jp/1165/
 
 

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