
書籍名
y-knot, Musubu 権力を読み解く政治学
判型など
394ページ、四六判、並製カバー
言語
日本語
発行年月日
2023年12月
ISBN コード
978-4-641-20008-1
出版社
有斐閣
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
本書は、有斐閣の大学生向け教科書の新シリーズy-knotにおける政治学入門である。その基本的な立場としては、主権者ではなく「被治者」の視点から政治を考えることを目指した。
日本国憲法によれば、日本は国民主権の国であるという。だが、そのことを実感している人は、決して多くはあるまい。仮に主権が一般市民にあるとしても、実際に国家権力を行使する機会を持つ人はほとんどいないからである。特に日本では、法的には男性と平等な権利を持つはずの女性が、国会議員や高級官僚にはほとんど存在しない。また、数百万人に上る在日外国人の場合には、そもそも主権者としての地位が与えられていない。その意味において、日本で暮らす多くの人はむしろ、権力行使の対象、すなわち被治者として一生を送るのである。人々は、被治者として税金を納め、行政サービスを利用し、懸命に働き、時には戦場で命を投げ出す。本書の第I部では、人々を支配する権力を、「主権者」の権力としてではなく、国民国家の権力として捉える視点を提示した。
そうだとすると、このような権力は、なぜ存在するのだろうか。この政治学における最も基本的な問いは、近年の政治学の教科書では扱われない傾向にあった。国民国家が既に成立していることを当然の前提として出発することが主流となってきたのである。確かに、仮に一般市民が主権者であり、権力を行使する側なのであれば、その権力がなぜ存在するのかを敢えて問い直す必要はないのかもしれない。だが、一般市民を、権力を行使される側として、すなわち被治者として見るのであれば、その権力の成り立ちは極めて重要な問題だろう。そこで、本書の第II部では、権力の源を思想、経済、軍事力、制度の四つに分け、それぞれの視点から国民国家の成立を説明する論理を展開した。従来、こうしたテーマについては西洋由来の学説を解説する教科書が多かったが、本書では東アジアの国としての日本における独特の近代国家の形成過程にも多くのページを割いている。
それでは、このようにして成立した権力は、誰が行使するのか。従来の政治学の教科書では、日本が民主主義の国だという認識の下、国民が憲法をはじめとする政治制度を通じて政治家や官僚をコントロールするメカニズムを解説するのが一般的だった。これに対して、本書の第III部では、政治権力の実際の作動原理が政治制度の建前と乖離している面を強調する。現実の政治制度は、少数のエリートの手で設計され、その権力闘争こそが政治の行方を決めてきたのである。
このように、本書では日本が民主主義の国である以前に、国民国家であるという視点から、その権力の成り立ちを読み解く。それを通じて、本書の読者が自らを支配する権力と向き合い、それに抗い、やがては連帯して世の中を変えていくための助けとなることを期待したい。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 前田 健太郎 / 2024)
本の目次
第I部 基本的な考え方(羅 芝賢)
第1章 政治権力と暴力
第2章 国家
第II部 国民国家の成立──なぜ世界は1つになれないのか(羅 芝賢)
第3章 国民を創る思想
第4章 国民経済の成立
第5章 軍事力と国家の拡大
第6章 制度と国家の安定
第III部 国民国家の民主主義──その理想と現実(前田健太郎)
第7章 民主主義の多様性
第8章 市民とは誰か
第9章 メディアと世論
第10章 集団と政治
第11章 選挙の戦略
第12章 政党と政党システム
第13章 政策決定
終章
関連情報
y-knot『権力を読み解く政治学』号評会 (『書斎の窓』 2024年9月号)
https://www.yuhikaku.co.jp/shosai_mado/2409/index.html?detailFlg=0&pNo=4
書評:
本よみうり堂: 苅部直 (政治学者・東京大学教授) 評「権力の監視 市民の役割」 (読売新聞オンライン 2024年3月1日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20240226-OYT8T50126/
https://www.bookbang.jp/review/article/773145#google_vignette
関連書籍:
羅 芝賢『番号を創る権力 - 日本における番号制度の成立と展開』 (東京大学出版会 2019年3月14日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/A_00146.html