東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

薄ベージュの表紙に小豆色の書名

書籍名

市民を雇わない国家 日本が公務員の少ない国へと至った道

著者名

前田 健太郎

判型など

328ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2014年9月24日

ISBN コード

978-4-13-030160-2

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

市民を雇わない国家

英語版ページ指定

英語ページを見る

一般的なイメージに従えば、日本の官僚制は強大な権力を持っている。しかし、そうしたイメージとは裏腹に、日本の公務員数は先進国の中でも極端に少ない。本書は、その理由を探ったものである。
 
まず、本書では日本の公務員数が他国よりも少ないという事実を、様々な資料に基づいて確認する (第1章)。しばしば、日本の公務員が少ないのは、他の国と数え方が違うだけで、外郭団体の職員などを含めた実質的な公務員の人数はかなり多いという主張が行われることがある。これに対して、本書では、国家公務員と地方公務員に加えて政府系企業や外郭団体の職員を数えたとしても、国際比較の観点から見た日本の公務員数はほとんど変わらないということを示す。
 
次に、本書では現在の日本と他国の公務員数の違いが生じたメカニズムを明らかにする (第2章)。歴史を遡れば、日本は常に公務員の少ない国だったわけではない。それどころか、第二次世界大戦前までの日本は、経済発展の水準から見れば公務員の数が相対的に多い国であった。他国と比べた日本の特徴は、経済成長に伴う公共部門の膨張を未然に防いだことにある。日本は、第二次世界大戦後の高度成長期という、他国に比べて早い時期に行政改革を開始し、公務員数の増加に歯止めをかけた事例なのである。
 
こうして日本で早い時期に公務員数の増加が止まった理由を説明するべく、本書では公務員の給与制度の働きに注目する (第3~5章)。第二次世界大戦後の日本では、終戦直後から激化した公共部門の労使紛争に対応するため、アメリカの影響下で、公務員の労働基本権を制約するのと引き換えに、その給与水準を人事院が設定する人事院勧告制度が採用された。こうした制度は、当初は公務員の給与水準を抑制する仕組みであったが、高度経済成長によって民間部門の賃金水準が上昇すると、逆に公務員の給与水準を引き上げるメカニズムとして機能するようになった。その結果、人事院勧告によって膨張する人件費に対応するため、1960年代から公務員の定員を抑制するための試みが開始されたのである。その結果、公務員数は低い水準に留まる一方で、公務員に代わって公共サービスの供給を担う公益法人などの政府外の組織が膨張することになった。つまり、日本では政府が公務員の給与水準を抑制する手段を制度的に制約されていたがゆえに、他の国々よりも早く行政改革の乗り出したのである。
 
この議論を国際比較の中で裏付けるため、本書では日本と異なる制度を選択した他国の事例を取り上げる (第6~7章)。イギリスでは、労使交渉を通じて公務員の給与を抑制する手段が採用されたため、1970年代に経済危機が生じるまで公共部門が拡大を続けた。他の欧米先進国でも、公務員の給与を抑制しやすい制度を持つ国では行政改革を開始するタイミングが遅くなり、公務員数の増加がかなり遅い時期まで続いた。
 
以上の結果、日本の公務員数は他の国々よりも極端に低い水準に留まり、「市民を雇わない国家」となったのである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 准教授 前田 健太郎 / 2016)

本の目次

序論
第1章 日本の小さな政府
第2章 小さな政府への道
第3章 上からの改革
第4章 戦後改革と制度の選択
第5章 給与と定員
第6章 イギリスの転換
第7章 福祉国家と行政改革
結論

関連情報

田中暁子 (2015)「書評 前田健太郎『市民を雇わない国家』」『都市問題』第106巻 第2号
 
千田航 (2015)「書評 出来事のメカニズムから解く公務員数抑制への道: 前田健太郎著『市民を雇わない国家: 日本が公務員の少ない国へと至った道』」『レヴァイアサン』第57号
 
内山融 (2015)「書評 前田健太郎著『市民を雇わない国家』」『季刊行政管理研究』第149号
 
原田久 (2016)「書評 前田健太郎『市民を雇わない国家』」『立教法学』第93号
 
北村亘 (2016)「書評 前田健太郎『市民を雇わない国家: 日本が公務員の少ない国へと至った道』」『年報行政研究』第51号

このページを読んだ人は、こんなページも見ています