本書は、「家族」、「ジェンダー」、「学校」、「友だち」、「経済・仕事」、「政治・社会運動」、「『日本』と『自分』」という各章のタイトルに即して、できる限り国際比較データに依拠しつつ、日本社会の特徴をかみくだいて説明することを目的としている。想定している読者層が主に高校生であるということもあり (むろん中学生や大学生、あるいは大人にも広く読んでいただけているが)、平易に書くことを心がけた。
 
あとがきでも触れているように、様々なテーマで講演のご依頼を受けることがしばしばあり、お話しする際のプレゼンテーションで、日本の状況を視覚的に理解してもらいやすい国際比較のグラフを数多く収集していた。その中には、望ましい数値については日本が最低水準、望ましくない数値については日本が最高水準という形で、「外れ値」的な位置づけにあるものが少なくない。ごく一部の例を挙げるならば、「過去1か月の間に、助けを必要としている見知らぬ人を助けたか」については140か国中でほぼ最下位、公的な場における女性のプレゼンスも最下位、そして少子高齢化のスピードや、「ストレスが大きすぎる」という項目を肯定する割合は30か国中ほぼトップである。普通に見渡しているだけで、そうした国際比較の結果が次々に目に入る。これはいったいどういうことだろう?　日本はいまどんな国になってしまっているのだろう?　そうした問いを7つのテーマに関してまとめて示し、最終章では今に至る歴史的な経緯を説明した。
 
日本では、1960年代を中心とする高度経済成長期、その後の70～80年代の安定成長期において、経済成長をエンジンとする独特な社会モデルが成立した。欧米先進諸国とは異なる諸制度や慣行のもとで、敗戦から奇跡のように復興した日本は、この時期に強い自負と他国からの賞賛を勝ち取った。しかし1990年代以降の世界的な大変化に日本は適応できず、いまや社会のあらゆると言ってよい側面にひずみが表れている。
 
この現実を直視し、打開策を真剣に追求しようと試みたのが本書である。率直に言って気が滅入る実情ばかりであり、これを読んだ10代の若者たちを、いっそう暗い気持ちに陥れてしまったかもしれない。
 
でも、この本を貫くメッセージは、「どれほど多難であってもあきらめない」ということだった。たまたまこの国に生まれて半世紀以上そこで生きてきた者として、現状に責任を感じるとともに、絶対にあきらめてしまいたくない。あきらめないための提案もちりばめてある。もしそれらに賛成してくれる人が増えてくれるなら、何とか山積する問題を変えてゆきたい、そういう思いのつまった本である。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 本田 由紀 / 2022)

本の目次

関連情報

ためし読み:
日本がダメでも自分がよければそれでいい…のか?　データが明らかにする若者世代の低い「自己効力感」 『「日本」ってどんな国?』より本文を一部公開　(webちくま　2021年10月11日)
https://www.webchikuma.jp/articles/-/2565
 
関連記事:
上東麻子「日本のジェンダー、現在地は？国際比較データを本田由紀さんと読む」　(『毎日新聞』　2022年3月8日)
https://mainichi.jp/articles/20220307/k00/00m/040/045000c

書評・書籍紹介:
弁護士会の読書　(福岡県弁護士会　2022年3月24日)
https://www.fben.jp/bookcolumn/2022/03/post_6794.php
 
社会　『日本』ってどんな国?　(山陰中央新報デジタル　2022年2月5日)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/159730
 
澁谷知美 評「日本、やばい」をデータで直視する　(じんぶん堂　2021年12月22日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14504609
 
[読書] 社会　本田由紀著　「日本」ってどんな国？　現状変革の使命感に感服　(沖縄タイムス　2021年12月18日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/881302
 
池内了 (総合研究大学院大学及び名古屋大学名誉教授) 評　(『週刊エコノミスト』第99巻 第45号 通巻4725号　2021年12月7日号)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211207/se1/00m/020/012000c
 
中川敬士 評　ワンポイント・ブックレビュー　(『労働調査』11・12月合併号　2021年11月)
https://www.rochokyo.gr.jp/articles/br2111.pdf
 
『しんぶん赤旗』2021年11月21日
https://www.jcp.or.jp/akahata/web_weekly/2021/11/21-week/
 
澁谷知美 評　(『ちくま』No.608　2021年11月号)
https://www.chikumashobo.co.jp/blog/pr_chikuma/entry/1561/
 
週刊図書館　ベスト・レコメンド　(『週刊朝日』　2021年11月19日号)
https://publications.asahi.com/ecs/backnumber/24.shtml
 
宇野重規「解題新書」　(『読売新聞』夕刊　2021年11月6日)
https://www.yomiuri.co.jp/

イベント:
ケアレスな日本の教育と政治～大月書店「ジェンダーと多様性を考える」ブックフェア記念トークイベント～岡野八代＆本田由紀　(Readin’ Writin’ BOOK STORE　2021年10月23日)
http://readinwritin.net/2021/09/28/%e3%82%b1%e3%82%a2%e3%83%ac%e3%82%b9%e3%81%aa%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%ae%e6%95%99%e8%82%b2%e3%81%a8%e6%94%bf%e6%b2%bb%ef%bd%9e%e5%a4%a7%e6%9c%88%e6%9b%b8%e5%ba%97%e3%80%8c%e3%82%b8%e3%82%a7%e3%83%b3/
 
動画アーカイブ:
”家族の絆”が少子化を招く [本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (1)　(デモクラシータイムス | YouTube　2021年12月9日)
https://www.youtube.com/watch?v=ZEMoFm75usI&t=4s
 
これが絶望的な日本の性差だ！ [本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (2)　(デモクラシータイムス | YouTube　2021年12月4日)
https://www.youtube.com/watch?v=JzFwWPZ0CMY
 
学校は青息吐息 [本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (3)　(デモクラシータイムス | YouTube　2022年1月11日)
https://www.youtube.com/watch?v=OdcVvYoOFkA
 
どうする、とことん寂しい日本人！ [本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (4)　(デモクラシータイムス | YouTube　2022年1月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=NUBBj1JJMiE
 
その組織、その働き方が経済をダメにする[本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (4)　(デモクラシータイムス | YouTube　2022年1月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=yaD3Kc5KT44
 
若者よ、民主主義をあきらめるな [本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (6)　(デモクラシータイムス | YouTube　2022年1月30日)
https://www.youtube.com/watch?v=bH5dSKUtOGw
 
グダグダ日本の私たちに生きる道はあるか [本田由紀のヤバい日本をあぶりだす!] (7)　(デモクラシータイムス | YouTube　2022年1月25日)
https://www.youtube.com/watch?v=MnB_kQLdtH8
 
ニコ生チャンネル「深掘TV ver.2」　『データで「日本」を徹底解剖⇒問題点と出口まで考える』（2022年1月13日放送・前半無料パート）ゲスト：本田由紀、出演：宮台真司　(ニコ生深掘TV　2022年1月13日)
https://www.youtube.com/watch?v=HsQLsOCJ3-E
 
ラジオ出演:
【ゲスト：本田由紀】2021年11月12日（金）大竹まこと　室井佑月　本田由紀　太田英明【大竹メインディッシュ】　(【公式】大竹まこと ゴールデンラジオ | YouTube　2021年1月12日)
https://www.youtube.com/watch?v=l5lktWkf5pc
 

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