東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

水色に黄色の題字

書籍名

日本のオルタナティブ 壊れた社会を再生させる18の提言

著者名

金子 勝、 大沢 真理、 山口 二郎、遠藤 誠治、 本田 由紀、 猿田 佐世

判型など

204ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2020年3月4日

ISBN コード

9784000613941

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

日本のオルタナティブ

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「学習性無力感」という概念がある。これは、「もう何をやっても無駄だ」というあきらめや絶望を、後天的に身につけてしまう事態を意味している。これを発見した心理学者マーティン・セリグマンによれば、人が「学習性無力感」に陥ってしまう原因は、その人が物事を解釈する際の考え方に見られる3つの特徴にある。その特徴とは、永続性(「いつまでも変わらない」)、普遍性(「どんなことについても同じ」)、個人性(「自分のせい」)だという。このような考え方の傾向が強いと、「学習性無力感」に囚われてしまいやすいのだと。
 
さて。日本社会に生きる私たちも、「学習性無力感」に支配されてはいないだろうか? もう四半世紀以上、経済はぱっとしなくなり国際的プレゼンスはダダ下がりだ。暮らしは厳しくなるばかり、子どもの教育にはずいぶんなお金がかかる、「女性の活躍」など絵空事で爺様ばかりが偉そうにしている、大学の世界ランキングも落ちてゆく一方…。もうどうしようもない、苦しいのは自分が無能なせい…。これはまさに「学習性無力感」の兆候ではないのか?
 
「学習性無力感」の源になる3つの考え方の特徴をまとめて吹っ飛ばすには、「社会は変えられる」と考えることだけでよい。言い換えれば、私たちには「他の可能性」つまりオルタナティブがある、と考えることだ。そのオルタナティブを、できるだけ具体的にわかりやすく示したい、それが、6人の著者が集まってこの本をつくった理由である。
 
6人で何度も打ち合わせをして、本全体の形式やそれぞれの担当章の内容について、議論を繰り返した。形式について定まってきたのは、6つの各章の冒頭で、現状の3つの問題点と、それをどう変えていくかの3つの提言を簡略に示すこと。それに続いて、各章のテーマについて総論を示した上で、冒頭の3つの問題点、3つの提言を、言葉を足して説明する。本の巻末には、もっと知りたい読者のための読書案内をつける。そのような書き方で全体を統一した。それ以外にも様々なアイデアー若い方に読んでもらった上で座談会をする、写真やイラストを盛り込むなどーが出たが、まずは早く刊行することを優先し、主張を伝えるためのエセンスのみの形になった。
 
6つの章の順番は、「経済」、「税・社会保障」、「社会」、「外交・安全保障」、「沖縄」、「政治」である。6人の著者がそれぞれの専門分野を担当した。どのテーマも、いまの日本を考える上で不可欠なことばかりだ。「沖縄」があえて独立した1つの章となっているのは、私たちがそれをきわめて重要なことだと考えたからだ。
 
私の担当章はやや残余的な「社会」であり、どのように論じるか悩んだ末に、「不平等・差別・強制」という問題に焦点を絞ってまとめた。この主題には、教育も、労働も、福祉も、言論も、もつれあって流れ込んでくる。著者全員の合意で自らに課した短い紙幅の中で、うまく問題の整理や提言ができたかどうかは、読者の判断や批判に委ねたい。
 
2020年9月、うんざりするほど長く続いてきた首相は交代した。しかし、オルタナティブの実現にはほど遠い、状況をいっそう悪化させたいのかと疑わせるような首相交代であった。だからといって無力感をさらに学習してはならない。私たちにはオルタナティブがある。社会は、変えられる。

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 本田 由紀 / 2020)

本の目次

第1章 経 済
 電力会社を解体し、賃金と雇用が増える地域分散型経済をつくる……………金子 勝
 1 「失われた三〇年」という現実
 2 見えてきた日本経済の崖
 3 〈提言1~3〉危機を回避し経済を立て直す道を
 
第2章 税・社会保障
 蟻地獄のような税・社会保障を、どう建て替えるか……………大沢真理
 1 子育てや女性の就業に「罰」が科されている
 2 惨憺たる現状
 3 〈提言4~6〉希望のシナリオ
 
第3章 社 会
 「不平等・差別・強制」にどう立ち向かうか……………本田由紀
 1 悪化する「いじめ国家」
 2 不平等・差別・強制の支配
 3 〈提言7~9〉誰もがその人らしく生きられる社会へ
 
第4章 外交・安全保障
 東アジアに相互信頼のメカニズムをどうつくるか……………遠藤誠治
 1 世界秩序の変化と安倍政権の対応
 2 時代遅れの軍事安全保障モデル
 3 〈提言10~12〉世界のモデル国家として、二一世紀世界の指針を示す
 
第5章 沖 縄
 焦点としての沖縄……………猿田佐世
 1 沖縄基地問題を「自分事」として考える
 2 沖縄の声を踏みにじる現状
 3 〈提言13~15〉これからの未来に向けて
 
第6章 政 治
 今とは反対の政治をつくる……………山口二郎
 1 長いだけの安倍政権
 2 民主主義の崩壊
 3 〈提言16~18〉今とは反対の政治へ
 
オルタナティブのための読書案内
 

関連情報

配信動画:
【短期連載 日本のオルタナ 18の提言から】税と社会保障 大沢真理×山口二郎 (デモクラシータイムズYouTube 2020年3月31日)
https://www.youtube.com/watch?v=E9iZ74F2s24
 
シンポジウム:
総会記念シンポジウム「日本のオルタナティブ」 (生活経済政策研究所 2020年7月1日)
http://seikatsuken.or.jp/info/20200701.html

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