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ライトクリームイエローの表紙

書籍名

現代日本の代表制民主政治 有権者と政治家

著者名

谷口 将紀

判型など

336ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年3月13日

ISBN コード

978-4-13-030171-8

出版社

東京大学出版会

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現代日本の代表制民主政治

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政党や政治家を左右対立軸上に位置付けるのは、よくあることである。日本の主要政党では、自民党が右、立憲民主党は中道からやや左、共産党は左などというのが、一般的な理解だろう。
 
ただし、このような理解は、〇〇党は△△党よりも左 (右) といった相対評価に過ぎず、モノサシで測ったわけではない。このため、有権者と政治家の政策位置はどちらが左寄り (右寄り) か、この10年間で〇〇党の政策位置はどのくらい変化したのかという質問に対し、客観的に答えることは難しい。
 
本書は、このように民主政治にとって重要なクエスチョンに、客観的エビデンスを提示した。2003年から国政選挙のたびに実施してきた、有権者と政治家双方を対象とした東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査データを用いて、有権者と政治家の政策位置を横断的に比較するとともに、各主体の時系列的な変化を追跡した。政治家調査は世界各国で行われているオーソドックスな方法だが、従来は低回答率という致命的問題があった。これに対して、東大谷口研・朝日調査は9割を超える候補者から回答を得ることに成功し、有権者調査の結果と直接照合できた点で世界的に稀少価値が高い。
 
分析の結果、例えば2017年総選挙時の調査データを基に、有権者と衆議院議員の政策争点態度を基に左右イデオロギー位置を析出したところ、有権者によって選ばれた国会議員のイデオロギー分布は、有権者と比べて右寄りであり、また、その国会議員によって指名された安倍首相 (安倍首相も調査に回答している) の政策位置は、大半の議員よりも (加えて自民党議員間でも) 更に右側にある、といった事実を明らかにすることができた。また、長期間調査を継続したことにより、自民党は2005年総選挙を境に右傾化し、2012年の政権復帰後も下野前と比べて大きく右に寄ったままである、といった時系列比較も可能になった。
 
政党や政治家には、人びとの声を施政に反映する役割に加えて、人びとを説得し、導く役割もあるため、有権者と政治家の政策位置が離れることが直ちに悪いとは言えない。ただし、政党・政治家に対する永遠の白紙委任であってはならず、人びとが政治家によって指し示された立場へ将来の合理的期間のうちに到達できることが、規範的に正当化しうる政治と有権者の乖離の限界である。そのためにも、各政党・政治家には有権者とのコミュニケーション・チャネルを一層太く、密なものにすることが期待される。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 谷口 将紀 / 2020)

本の目次

第1章 目的と方法
 第1節  本書の目的
 第2節  研究方法
  第1項 政治家調査
  第2項 有権者による評価
  第3項 議会における投票記録
  第4項 テキスト分析
  第5項 専門家による政党評価
  第6項 データマイニング
  第7項 本書の方法
 第3節  理論的検討
  第1項 古典的代表制論
  第2項 代表制論的転回
  第3項 規範的理論の検証基準
 第4節  本書の構成
 
第2章 政治状況
 第1節  はじめに
 第2節 小泉内閣期
  第1項 2003年衆院選
  第2項 2004年参院選
  第3項 2005年衆院選
 第3節  民主党政権へ
  第1項 2007年参院選
  第2項 2009年衆院選
  第3項 2010年参院選
 第4節 第二次安倍内閣以降
  第1項 2012年衆院選・2013年参院選
  第2項 2014年衆院選・2016年参院選
  第3項 2017年衆院選・2019年参院選
 第5節 おわりに
 
第3章 有権者と政治家のイデオロギー
 第1節 はじめに
 第2節 比較の方法
  第1項 課題
  第2項 イデオロギー位置の推定方法
 第3節  クロスセクション比較
  第1項 有権者と議員
  第2項 政党別分析
  第3項 小括
 第4節  時系列比較
  第1項 政策位置の変化
  第2項 小括
 第5節 おわりに
 
第4章 左右イデオロギー争点
 第1節  はじめに
 第2節 憲法
  第1項 概況
  第2項 有権者と議員の態度
  第3項 小括
 第3節  外交・安全保障
  第1項 概況
  第2項 有権者と議員の態度
  第3項 小括 
 第4節  原発・エネルギー
  第1項 概況
  第2項 有権者と議員の態度
 第5節 社会問題
  第1項 治安と私権
  第2項 外国人
  第3項 教育
  第4項 家族・ジェンダー
 第6節 おわりに
 
第5章 経済争点
 第1節  はじめに
 第2節 個別争点の分析
  第1項 概況
  第2項 原則的争点
  第3項 短期的争点
  第4項 長期的方針
  第5項 小括
 第3節  新自由主義と社会民主主義
 第4節 おわりに
 
第6章 候補者の政策位置
 第1節 はじめに
 第2節 政策位置の規定要因
 第3節 選挙結果への影響
 第4節 おわりに
 
第7章 議員・党首・内閣
 第1節 はじめに
 第2節 党首
 第3節 大臣
 第4節 おわりに
 
第8章 有権者と政党
 第1節 はじめに
 第2節 政治的洗練
 第3節 党派性
 第4節 信用度
 第5節 おわりに
 
第9章 党首選挙と派閥
 第1節 はじめに
 第2節 党首選挙
  第1項 自民党
  第2項 民主党
 第3節 派閥と政党再編
  第1項 派閥
  第2項 政党再編
 第4節 おわりに
 
第10章 政党の戦略
 第1節 はじめに
 第2節 人的要因
 第3節 戦略的要因
 第4節 おわりに
 
第11章 結論
 
資料I 調査方法
資料II 主要項目の集計結果

関連情報

書評:
飯尾潤 (政策研究大学院大学教授) 評「自民党 平成以降の歩み検証 官邸主導の弊害克服が課題」 (『日本経済新聞』 2021年2月13日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69049430S1A210C2MY6000/
 
只野雅人 (一橋大教授) 評「2000年代以降の代表制民主政治のあり方を,有権者と政治家の政策位置の比較から解明」 (『図書新聞』第3458号 2020年8月1日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3458
 

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