東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にピンクとブルーで描かれたイラスト

書籍名

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

著者名

加藤 陽子

判型など

480ページ

言語

日本語

発行年月日

2016年8月9日

ISBN コード

9784255009407

出版社

朝日出版社

出版社URL

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戦争まで - 歴史を決めた交渉と日本の失敗

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本書は、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』に続く、高校生と共に考えるシリーズの第二弾にあたります。今回のお相手は、池袋ジュンク堂本店による募集で集まった高校生たちでした。今回の私の目論見は、日々不可逆の選択を迫られつつ生きる若い人々に向けて、選択をする場合の困難さと対処する時の心構えといったものについて、過去の事例から一緒に考えておきたいという点にありました。
 
まずは、一人一人の選択自体、政治的には平等の重さを持っていない現状があります。2014年12月の第47回衆議院選挙を例にとれば、年代別投票率に人口をかけて得られる60歳代以上の票数は、20歳代の票数の約6倍に達しました。また、「東京大学谷口将紀研究室・朝日新聞共同調査」の本衆議院選挙について見ると、憲法改正について、有権者の賛成派 (賛成・どちらかといえば賛成) が33%だったのに対し、当選議員中の賛成派は84%に達しました。自民党の比例区に投票した有権者に限ってみた場合でも賛成派は46%だったのに対して、自民党の当選議員中の賛成派は97%に上りました。
 
世代別による意思表示の多寡、そして、国会議員と有権者の抱く構想の差を考えてみても、主権を持つ国民が意思表示をすることの難しさを想起できるはずです。ですから、若い人々に、さあ選択せよと背中を押すだけではダメであって、選択の入口の地点で、ゲームのルールが不公正であったり、レフリーが不公平であったりした場合、国家との社会契約が途絶えたと絶望する道をとるのではなく、ゲームのルールを公正なものに、レフリーを公平な人に代えていく、その方法や方略を過去の歴史から学ぶことが、今、最も大切なことだと私は考えています。
 
過去の歴史を正確に描きながら、そうすることで未来をつくるお手伝いをするのが歴史家の本分と心得て、本書の第1章では、国家と国民の関係が大きく動くとき、国家と国民の間でやりとりされた問題がなんだったのかを、遺された史料や演説の言葉から跡づけ、最新の研究の成果を取り入れて、論じました。続く第2章から4章は、本書の中核部分にあたります。選択という行為が真空状態でなされるのではなく、さまざまな制度の制約を受け、国際環境や国内政治情勢の影響下でなされることは、先にも述べました。そうであれば、国や個人が選択を求められる場合に重要なのは、問題の本質が正しいかたちで選択肢に反映されているのか、という点です。
 
日本の歴史を大きく左右した、(1) 満州事変とリットン報告書、(2) 日独伊三国軍事同盟、(3) 日米交渉、この三回の交渉を扱い、為政者やジャーナリズムが誘導した見せかけの選択肢ではなく、世界が日本に示した本当の選択肢のかたちと内容を明らかにしつつ、日本側が対置した選択肢のかたちと内容についても正確に再現しながら、世界と日本が切り結ぶ瞬間を捉えようと努めました。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 加藤 陽子)

本の目次

    はじめに
 
1章  国家が歴史を書くとき、歴史が生まれるとき
    「歴史のものさし」で世の中をはかってみる
    現代の史料を、過去のデータと照らし合わせて読む
    歴史が書かれるとき
    歴史の始まりとは
 
2章  「選択」するとき、そこでなにが起きているのか リットン報告書を読む
    日本が「世界の道」を提示されるとき
    選択肢のかたちはどのようにつくられるか
    日本が選ぶとき、為政者はなにを考えていたのか
 
3章  軍事同盟とはなにか 二〇日間で結ばれた三国軍事同盟
    軍事同盟とはなにか
    なぜ、ドイツも日本も急いだのか
    「バスに乗り遅れる」から結んだのではない
 
4章  日本人が戦争に賭けたのはなぜか 日米交渉の厚み
    戦争前夜、敵国同士が交渉の席に着く意味は
    史料に残る痕跡
    日本はなぜアメリカの制裁を予測できなかったのか
    絶望したから開戦したのではない
 
終章  講義の終わりに 敗戦と憲法
    講義の終わりに
 

関連情報

出版社特設ページ (書評の一部を含む)
https://www.asahipress.com/sensomade/index.html
 
受賞:
2017年度 紀伊國屋じんぶん大賞 読者と選ぶ人文書ベスト30【大賞】受賞
https://www.kinokuniya.co.jp/c/20170210100800.html
 
著者インタビュー:
3つの「選択ミス」が日本を戦争へと走らせた (東洋経済新聞 2016年9月11日)
https://toyokeizai.net/articles/-/134988

書評:
今週の本棚 池澤夏樹 評『戦争まで―歴史を決めた交渉と日本の失敗』(毎日新聞 2016年9月4日)
http://mainichi.jp/articles/20160904/ddm/015/070/025000c
 
ベストセラー解読 永江朗 評 (週間朝日 2016年9月9日号)
https://dot.asahi.com/ent/publication/reviews/2016090100126.html
 
佐藤優 評 (『AERA』 2016年9月12日号)
 
ベストセラー早読み (日刊ゲンダイ 2016年9月13日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/189710
 
原田敬一 評 (京都新聞、神奈川新聞 2016年9月18日)
 
文化面インタビュー (読売新聞 2016年9月19日)
 
SUNDAY LIBRARY 開沼 博 評 (『サンデー毎日』 2016年9月25日)
http://mainichi.jp/articles/20160913/org/00m/040/026000c
 
成田龍一 評 (日本経済新聞朝刊 2016年9月25日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO07593860U6A920C1MY7000/
 
保阪正康 評 (朝日新聞 2016年10月2日)
 
筒井清忠 評 (東京新聞 2016年10月2日)
 
三省堂書店 x WEBRONZA 神保町の匠 大槻慎二 評 (編集者・田畑書店社主) (WEBRONZA 2016年10月3日)
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2016092500001.html
 
荻上チキ・Session-22 (TBSラジオ 2016年8月15日)
 
大竹まことゴールデンラジオ (文化放送 2016年9月6日)
 
【ジャーナル文化流行】9月16日放送
ゲスト 田口久美子「戦争を知らない世代に薦める本」(NHKジャーナル 2016年9月20日)
http://www.nhk.or.jp/r1-blog/journal/252876.html
 

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