シリーズ戦争と社会 全5巻
A5判、上製
日本語
2022年
[1]「戦争と社会」という問い 9784000271707
[2] 社会のなかの軍隊 / 軍隊という社会 9784000271714
[3] 総力戦・帝国崩壊・占領 9784000271721
[4] 言説・表象の磁場 9784000271738
[5] 変容する記憶と追悼 9784000271745
岩波書店
「京都で『先の戦争』と言えば応仁の乱をさす」と冗談めかして言われるが、対話者同士の戦争観のずれとしてとらえれば、現在も世界中そこかしこで起こっていることだ。日本国内で「戦中」「戦後」と言う際、そこでイメージされる「あの戦争」は、第二次世界大戦、あるいはその一部としてのアジア・太平洋戦争の場合が多い。しかし、20世紀後半以降戦争に関わってきた地域ではまったく事情は異なる。現在は、軍事テクノロジーに限らず、戦争のあり方も大きく変わっており、グローバル化した世界で改めて戦争を考えるならば、認識のアップデートが必要だ。本シリーズでは、主に日本社会と戦争の関係に焦点を当てて、それが現代に至るまでどう変化したのかを、人文社会系の多様な学問的視点から読み解こうとしたものだ。2017年の構想段階では、戦争がこれほどまでに社会的話題になるとは正直考えていなかった。しかし、戦争は社会のあり方に大きな影響を与え、社会の側も戦争を生み出し、あるいはそれに抗う。こうしたことを同時代的に考えるための重要なヒントを、読み応えのある諸論考から探ってほしい。以下は、各巻の概要である。
第1巻『「戦争と社会」という問い』
暴力をコントロールする手段として社会に深く根差してきた戦争は、殺戮や貧困など様々な悲劇を生み出すと共に、自由・平等・豊かさなどの普遍的価値の誕生にも関わってきた。従来の戦争のあり方が大きく変わりつつあるいま、戦時 / 平時を問わず社会のなかに遍在する戦争や軍事に対抗するための理論的な構図を提示する。
第2巻『社会のなかの軍隊 / 軍隊という社会』
日本軍から自衛隊へとその名称を変えながら、軍隊 (軍事組織) は戦時 / 平時を問わず日本社会のなかに存在し続けている。社会は軍隊からどのような影響をうけているのか、軍隊は市民社会・地域社会とどのような関係を取り結んでいるのか。敗戦による軍の解体を画期とする連続と断絶の両面から、新たな構図を描き出す。
第3巻『総力戦・帝国崩壊・占領』
太平洋戦争という「総力戦」と戦後の「冷戦」は各地域にどのような社会変革をもたらし、変わる世界のなかを人びとはいかにして生き抜いたのか。大日本帝国の成立と崩壊が起こした移動と動員のダイナミズムに迫る。
第4巻『言説・表象の磁場』
GHQによる占領、戦中・戦後の世代間対立、ベトナム戦争、冷戦終結、そしてインターネットの普及……。時代の変遷のなか、何が語られ、何が忘れられてきたのか。戦争と社会の接点としての言説・表象を考える。
第5巻『変容する記憶と追悼』
敗北に終わった戦争を記憶・記念し、無残な死を遂げた者を追悼する営みは、時の流れにともない困難さを増し、変質を余儀なくされてきた。戦後日本社会の歴史の中で記憶と追悼が変容してゆく過程をたどるとともに、過去の出来事を眼差すそれらの営みが、未来を開く可能性を秘めていることを明らかにする。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 西村 明 / 2023)
本の目次
『シリーズ 戦争と社会』刊行にあたって(第2巻以降も同様に巻頭に掲載のため、以下では省略)
総説 「戦争と社会」、「軍事と社会」をめぐる問い………野上 元、佐藤文香
第I部 戦争・軍事への問い
第1章 兵になり兵に死す………青木秀男
――学徒兵の精神構造をめぐる一考察
第2章 戦争と暴力………佐藤文香
――戦時性暴力と軍事化されたジェンダー秩序
第3章 戦争と国家………佐藤成基
――総力戦が生んだ強力でリベラルな国民国家
第4章 戦争と文化………柳原伸洋
――戦後ドイツの子ども文化に日本を照らして
第5章 戦争と責任………吉良貴之
――歴史的不正義と主体性
コラム [1] 現代における軍事と科学………高橋博子
コラム [2] 志願制時代の「経済的徴兵」………布施祐仁
第II部 冷戦から「新しい戦争」へ
第6章 「国家に抗する戦争」と「新しい戦争」………佐川 徹
――文化人類学からのアプローチ
第7章 平和構築と軍事………和田賢治
――「救援」と暴力のマネジメント
第8章 反暴力の現在………大野光明
――ポスト冷戦・「新しい戦争」・ネオリベラリズムのなかの日本の反戦・平和運動
第9章 情報社会と「人間」の戦争………野上 元
コラム [3] 批判的思考の拠点としての「銃後史」………平井和子
第2巻『社会のなかの軍隊/軍隊という社会』
総 説 軍隊と社会/軍隊という社会……………一ノ瀬俊也、野上 元
第I部 旧日本軍と社会
第1章 軍事エリートと戦前社会……………河野 仁
――陸海軍将校の「学歴主義的」選抜と教育を中心に
第2章 徴兵制と社会階層……………渡邊 勉
――戦争の社会的不平等
第3章 退屈な占領……………阿部純一郎
――占領期日本の米軍保養地と越境する遊興空間
第4章 戦後日本における軍事精神医学の「遺産」とトラウマの抑圧……………中村江里
コラム [1] 重層的記録としての戦争体験記……………山本唯人
――東京空襲を記録する会・東京空襲体験記原稿コレクションを事例に
コラム [2] 「癈兵」の戦争体験回顧……………松田英里
第II部 自衛隊と社会
第5章 自衛隊と市民社会……………佐々木知行
――戦後社会史のなかの自衛隊
第6章 自衛隊基地と地域社会……………清水 亮
――誘致における旧軍の記憶から
第7章 防衛大学校の社会学……………野上 元
――市民の「鏡」に映る現代の士官
第8章 自衛隊と組織アイデンティティの形成……………一ノ瀬俊也
――沖縄戦の教訓化をめぐって
第9章 「自衛官になること/であること」……………佐藤文香
――男性自衛官の語りから
コラム [3] 「萌え」と「映え」による自衛隊広報の変容……………須藤遙子
コラム [4] 自衛隊と地域社会を繫ぐ防衛博覧会……………松田ヒロ子
――小松市「伸びゆく日本産業と防衛大博覧会」(一九六二年)を中心に
第3巻『総力戦・帝国崩壊・占領』
総説 総力戦・帝国崩壊・占領……………石原 俊・蘭 信三
第I部 総力戦と動員
第1章 日本帝国軍の兵站と「人的資源」……………佐々木啓
第2章 「民族」の壁に直面した「内鮮一体」……………三ツ井崇
第3章 総力戦の到達点としての島嶼疎開・軍務動員……………石原 俊
――袂袒南方離島からみた帝国の敗戦・崩壊
コラム [1] 内地・外地の疎開と家族主義……………大石 茜
第II部 帝国崩壊と人の移動
第4章 戦後東アジア社会の再編と民族移動……………蘭 信三
第5章 戦時体制から戦後社会の再編へ……………石田 淳
――人口動態・社会移動データからの俯瞰
第6章 占領と「在日」朝鮮人の形成……………崔徳孝
――アメリカによる戦後処理とグローバル冷戦のなかで
コラム [2] 引揚者の性暴力被害……………山本めゆ
――集合的記憶の間隙から届いた声
コラム [3] 台湾二二八事件と在日華僑社会……………陳來幸
第III部 占領と社会再編
第7章 占領をかみしめて……………青木 深
――暁テル子が歌った「アメリカ」と「解放」
第8章 基地社会の形成と変容……………古波藏契
――沖縄占領体制とその遺産
第9章 重層する占領・虐殺……………高誠晩
――済州四・三事件を中心に
コラム [4]「アメリカの湖」のなかのミクロネシア……………竹峰誠一郎
第4巻『言説・表象の磁場』
総説 「体験」「記憶」を生み出す磁場――戦後と冷戦後の位相……………福間良明
第I部 拮抗する「反戦」と「好戦」
第1章 国民参加のファシスト的公共性……………佐藤卓己
――戦時デモクラシーのメディア史
第2章 ミリタリーカルチャーの出版史……………佐藤彰宣
――戦記・戦史・兵器を扱うことの苦悩
第3章 日本遺族会と靖国神社国家護持運動……………福家崇洋
第II部 戦争体験論のポリティクス
第4章 「戦中派」とその時代……………福間良明
――断絶と継承の逆説
第5章 小林金三と「満洲国」建国大学……………根津朝彦
――『北海道新聞』論説陣を支えた東アジアの視座
第6章 沖縄戦記と戦後への問い……………櫻澤 誠
――「本土」への懐疑と希求
第III部 冷戦後の社会と前景化する記憶
第7章 被害と加害を再編する結節点としての「戦後五〇年」……………玄武岩
――国境を越えてゆく戦後補償の運動と言説
第8章 ネット時代の「歴史認識」……………森下 達
――「慰安婦」「靖國」の争点化から「ネット右翼」へ
第9章 原発災害後のメディア言説における「軍事的なもの」……………山本昭宏
――「感謝」による統合とリスクの個人化
第5巻『変容する記憶と追悼』
総説 戦争を記憶し、戦争死者を追悼する社会とそのゆくえ……………西村 明
第I部 記憶する人々
第1章 シドニー湾特殊潜航艇攻撃をめぐる日豪の記憶とその変遷……………田村恵子
第2章 憲兵と暴力……………岡田泰平
――マニラBC級裁判の記録を中心に
第3章 死者と生者を結びつける人々……………中山 郁
――パプアニューギニアにおける戦地慰霊と旅行業者
コラム [1] 朝鮮人特攻隊員という問い……………李榮眞
第II部 記憶の支点――想起をもたらす場所とモノ
第4章 「原爆の絵」が拓く証言の場……………直野章子
第5章 空襲の死者を想起する場所……………木村 豊
――遺骨・モニュメント・写真
第6章 アジア系アメリカと「慰安婦」碑……………中村理香
――国境を超える共感と批判
コラム [2] 花岡町と鉱山と『花岡事件』をめぐる人々……………坂井田夕起子
コラム [3] 戦後天皇と慰霊……………西村 明
――「靖国型追悼路線」からの展開
第III部 記憶・記念の実践と冷戦後の社会
第7章 戦争記憶の世代間継承と社会……………石井 弓
――「選択されたトラウマ」と山西省盂県の記憶
第8章 「沖縄の精神衛生実態調査」にみる戦争と軍事占領の痕跡……………北村 毅
第9章 なぜ私たちは黙禱するのか?……………粟津賢太
――近代日本における黙禱儀礼の成立と変容
コラム [4] 戦争の記憶を共有すること……………大川史織
――記憶表現の現場から
関連情報
特集3『シリーズ 戦争と社会』から考える (戦争社会学研究会編『戦争社会学研究』第7巻 みずき書林 2023年6月20日)
野上元「『シリーズ 戦争と社会』を振り返って――企画者の一人として」
成田龍一「あらたな“危機”のなかで読む、『戦争と社会』」
上野千鶴子「「戦争社会学」から「戦争と社会」へ」
西原和久「「戦争と社会」と「戦争と平和」の狭間――『シリーズ 戦争と社会』の書評に代えて」
吉田裕「歴史学から戦争社会学を見る」
https://www.mizukishorin.com/30-7%E6%88%A6%E4%BA%89%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E7%A0%94%E7%A9%B67%E5%B7%BB
中村信也「黙祷の季節」[第5巻粟津賢太論文への言及] (『東京新聞』 2022年8月13日夕刊)
濱田寿夫 評「統治地域の事象を論考」[第3巻への書評] (『沖縄タイムス』 2022年8月6日)
池上大祐 評「日常生活の延長上にある戦争————多様な専門分野による学際的営為に支えられたシリーズ」[第1巻への書評] (『週刊読書人』 2022年4月22日)
https://jinnet.dokushojin.com/products/3437-2022_04_22_pdf
書籍紹介:
加藤陽子「2022年この3冊」 (『毎日新聞』 2022年12月17日)
編集委員寄稿・インタビュー:
石原俊「変容する「戦争と社会」――シリーズの完結に寄せて」 (聖教新聞 2022年9月20日)
https://www.seikyoonline.com/article/E1238FD62A26EBDCB785E872986C375E
野上元「「シリーズ戦争と社会」(全5巻) を編んで――「あの戦争」の研究を継ぎつつ、視野を広げる」 (『公明新聞』 2022年8月15日)
「戦争への感度 鈍っていた日本 歴史をめぐる論文集5巻が完結 編集委員石原俊さんに聞く」 (『朝日新聞』 2022年8月3日夕刊)
https://book.asahi.com/article/14687242
西村明「シリーズ戦争と社会 歴史と現状を見据えて」 (『長崎新聞』 2022年5月2日)