東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

カラー化した戦時中の写真

書籍名

光文社新書 AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争

著者名

庭田 杏珠、 渡邉 英徳

判型など

新書判

言語

日本語

発行年月日

2020年7月16日

ISBN コード

978-4-334-04481-7

出版社

光文社

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本書は、本学学生の庭田杏珠さんと、情報学環の渡邉英徳教授が共同で進めている「記憶の解凍」プロジェクトの、2020年春までの成果をまとめたものです。このプロジェクトは、庭田さんが広島市内の高校に在学していた2017年にスタートし、発展しながら続けられてきました。
 
戦前から戦後にかけての写真は、もっぱらモノクロです。カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した「凍りついた」印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか。
 
この「問い」から、カラー化の取り組みがはじまりました。庭田さんと渡邉教授はいま、AI (人工知能) と人のコラボレーションによって写真をカラー化し、対話の場を生み出す「記憶の解凍」プロジェクトに取り組んでいます。
 
「記憶の解凍」は、人工知能技術で自動カラー化した写真をもとにして、対話の場を生み出す試みです。過去から“ストック”されてきた資料の「凍りついた」イメージが、最新技術で「解凍」されて“フロー”化し、コミュニケーションが創発することによって、過去の記憶が未来に継承されます。
 
「記憶の解凍」では、まずモノクロ写真を「自動色付け」したのち、戦争体験者との対話・SNSのコメント・当時の資料などをもとに、手作業で「色補正」していきます。この過程で、できごとについての記憶が人々の心のなかでよみがえり、対話の場が生まれます。
 
庭田さんを中心とした、中島地区 (現在の広島平和記念公園) における活動は大きく拡がり、元住民との対話でよみがえった、ゆたかな「記憶の色」を再現しています。また、渡邉教授がSNSに日々投稿するカラー化写真は広く拡散され、過去のできごとにまつわる対話に、多数の人々が参加しています。こうした対話の場においてさまざまな情報が寄せられ、さらなる事実も明らかになってきました。
 
本書には、こうした「記憶の解凍」の活動成果であるカラー化写真355点を収録しました。戦前の広島・沖縄・国内のようす、そして開戦から太平洋戦線,沖縄戦・空襲・原爆投下・終戦にいたる、戦争の記憶を伝えるためのトリガーとなるはずです。
 
これまで無関心だった人にも「戦争・平和」を自分ごととして捉え想像し、それぞれが感じた想いを発信してもらうことが、本書の目的です。憎しみや悲しみを乗り越えて、「もう誰にも同じ思いをさせてはならない」と平和を願う戦争体験者の崇高な想いが、よみがえった「記憶の色」を通して共感とともに社会に拡がり、未来へ継承されていくことを願っています。

 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 渡邉 英徳 / 2020)

本の目次

「記憶の解凍」
1941 PREWAR
1941 WAR BEGINS
1942
1943
1944
1945
1945-1946 POSTWAR
ふたりが見つめた未来
「時を刻みはじめる」
 

関連情報

受賞:
new! 第11回広島本大賞 (2021年8月10日)
https://prizesworld.com/prizes/various/hrsm.htm
https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=782130&comment_sub_id=0&category_id=112

令和2年度学生表彰「東京大学総長賞」受賞
庭田杏珠 (教養学部1年)『記憶の解凍』
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/events/h12_03.html#

中央公論社新社「2021新書大賞」ベスト20 (中央公論新社 2021年)
https://chuokoron.jp/shinsho_award/
 
ACM SIGGRAPH ASIA 2019 Art Gallery/Art Papers (Full art papers), Accepted: Anju Niwata and Hidenori Watanave: "Rebooting Memories": Creating "Flow" and Inheriting Memories from Colorized Photographs; (ACM SIGGRAPH ASIA 2019 Art Gallery/Art Papers 2019年11月)
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3354918.3361904
 
第66回 国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール 外務大臣賞
庭田杏珠「世界の平和のために日本と国連ができること - AIと対話で、戦前の白黒写真の「記憶の色」を蘇らせる活動を通して -」 (公益財団法人日本国際連合協会 2019年10月15日)
http://www.unaj.or.jp/concours/c66.html#p1
 
アーバンデータチャレンジ2018,アクティビティ部門入選
渡邉英徳、庭田杏珠、山浦徹也、中川幹朗、與那覇里子、久松弘樹、土居剛幸:「記憶の解凍」(アーバンデータチャレンジ (UDC) 2019年3月16日)
https://urbandata-challenge.jp/highlight/udc2018prize
 
国際平和映像祭(UFPFF)2018 学生部門賞
庭田杏珠・山浦徹也:「記憶の解凍~カラー化写真で時を刻み、息づきはじめるヒロシマ~」 (国際平和映像祭 2018年9月22日)
https://www.ufpff.com/archives/16554
 
TV放送:
NHK又吉直樹のヘウレーカ! (NHK 2021年2月24日放送)
https://www.nhk.jp/p/heureka/ts/17QXZG4M75/

探求の階段♯71「時が動き出す~「記憶の解凍」前編 / 渡邉英徳 (東京大学大学院 情報学環 教授) 」 (テレビ東京 2021年2月18日放送)
https://www.tv-tokyo.co.jp/tankyunokaidan/

著者インタビュー:
戦時の白黒写真をAIでカラー化:広島出身の大学生と東大教授が挑む「記憶の解凍」 (ニッポンドットコム 2020年11月4日)
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00966/
 
『この世界の片隅に』のもとになった写真も 戦前・戦後の白黒写真をAIと人の手でカラー化 (BOOK STAND 2020年9月3日)
https://bookstand.webdoku.jp/news/2020/09/03/190000.html
 
戦前・戦中のモノクロ写真をAIでカラー化、資料や対話で色補正 「記憶の解凍」プロジェクト・庭田杏珠 (ITmedia NEWS 2020年9月2日)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2009/02/news038.html
 
写真集「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」 戦争の記憶を継承するため「対話」を生み出す (好書好日 2020年8月28日)
https://book.asahi.com/article/13665803
 
【ぴいぷる】「記憶の解凍」プロジェクト・庭田杏珠 戦前・戦中のモノクロ写真をAIによりカラー化、資料や対話で色補正 (zakzak by 夕刊フジ 2020年8月28日)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200828/dom2008280006-n1.html
 
特攻隊にサヨナラする女生徒、富士山を見物するB-29爆撃機…モノクロ戦争写真をカラー化して何が分かった? (文春オンライン 2020年8月15日)
https://bunshun.jp/articles/-/39685
 
あばら骨と皮だけの日本兵、焼け野原で談笑する広島のカップル――敗戦を実感する“10枚の写真”とは?   (文春オンライン 2020年8月15日)
https://bunshun.jp/articles/-/39686
 
ビジュアライゼーションからストーリーテリングへ——「記憶の解凍」プロジェクト・インタビュー (HILLS LIFE 2020年8月14日)
https://hillslife.jp/learning/2020/08/14/rebooting-memories/
 
被爆前の街 色鮮やかに 戦前・戦争 355枚をAIでカラー化 写真集 東京大の庭田さんら出版 (中國新聞 2020年8月3日)
http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=99747
 
事例&対談: 渡邉英徳 (情報アーキテクチャ)「カラー化が記憶を解凍するトリガー」 (2018年7月13日)
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2018/071301/
 
戦争は本当に「白黒」か? モノクロ写真に命を吹き込む自動着色AI (五反田バレー 2018年2月13日)
https://project.gotanda-valley.com/16273/
 
書評:
井上寿一 (学習院大学教授) 評 「歴史書の棚 戦争とは何なのか 視覚伝達による体験継承=井上寿一」 (週刊エコノミストOnline 2020年8月28日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200908/se1/00m/020/014000c
 
藤代冥砂 (写真家) 評「久しぶりにパラパラとめくることが許されない一冊に出会った」 (本が好き 2020年8月24日)
https://honsuki.jp/review/38610.html
 
平山賢一 (東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長) 評 「『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』」 (週刊エコノミストOnline 2020年8月21日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200901/se1/00m/020/011000c
 
本よみうり堂: 木内昇 (作家) 評「人々の光景に血が通う」 (読売新聞 2020年8月16日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20200815-OYT8T50132/
 
成田全 評「戦後75年の2020年に蘇る、色と記憶【写真あり】『この世界の片隅に』片渕監督の助言で着色も」 (ダ・ヴィンチニュース 2020年8月25日)
https://ddnavi.com/review/657955/a/
 
「今週の本棚」 (毎日新聞 2020年8月15日)
https://mainichi.jp/articles/20200815/ddm/015/070/021000c
 
約350枚のカラー化写真で解凍される戦前・戦争の記憶 (西日本新聞 2020年8月7日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/633169/
 
戦前・戦場写真約350枚がカラーに|書籍『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』が出版&累計2万部を記録 (qetic 2020年7月31日)
https://qetic.jp/art-culture/ai-colour-photo-200731/365461/
 
論文:
Anju Niwata and Hidenori Watanave: "Rebooting Memories": Creating "Flow" and Inheriting Memories from Colorized Photographs; Proc. of SIGGRAPH ASIA 2019 Art Gallery/Art Papers (Full art papers), Article No. 4, 12 pages, 2019.
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3354918.3361904

渡邉英徳,庭田杏珠:「「記憶の解凍」:カラー化写真をもとにした“フロー”の生成と記憶の継承」;デジタルアーカイブ学会誌 第3巻 第3号,pp. 317-323,2019年6月
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsda/3/3/3_317/_article/-char/ja/
 

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