東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

イラストなし、真ん中に書名と著者名のみのシンプルな若草色の表紙。

書籍名

生活と文化の歴史学 第5巻 戦争と平和

判型など

536ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2014年10月9日

ISBN コード

978-4-902084-25-2

出版社

竹林舎

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生活と文化の歴史学5 戦争と平和

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本書は日本中世の戦争と平和をさまざまな側面から明らかにすることを目的に編まれた論文集です。平和が人類共通の価値であり、究極の目標であることはいうまでもないことでありますが、歴史学の問題として平和を考える場合は、それとは対極的な位置にあるさまざまな戦い・争いという過去の事実をも直視する必要があります。もちろん歴史学は私たちが当面する課題を解決する特効薬ではありません。とくに日本中世の戦争と平和を考えることは迂遠で、現代の生活には無関係にすら思われるかもしれません。しかし、そこには現在の私たちが気づかないような論点やヒントが隠されているかもしれません。
 
一例として、「戦争と平和」(本書のタイトルにもなっていますが…) という捉え方に注目してみましょう。そこには戦争と平和をそもそも対照的・対極的なものとするような見方がないでしょうか。もちろんそれが誤りとは言えませんが、たとえば戦後日本の平和と繁栄が朝鮮戦争や米ソの冷戦などと深く関わっていたことを考えれば、両者は簡単に弁別できるような単純な関係でないことは明らかでしょう。
 
実は日本中世の戦争と平和を考えることの意味はその点にあります。日本の中世社会では、当事者主義・自力救済の社会と言われるように、自分の権利や生活はみずからの力で手に入れ、守らなければならないものでした。平和も例外ではありません。誤解を恐れずに言えば、日本中世の平和と戦争は「隣り合わせ」の関係にあったとさえ言えると思います。「戦争と平和」という捉え方そのものを考え直すヒントが日本中世に隠されていると言えるのではないでしょうか。
 
以上のような関心から、本書では日本中世の戦争と平和の様々な側面を掘り起こすことに努めました。その際の手がかりとして、政治・集団・外交・環境・記憶という五つのテーマを設定しました。政治や外交が戦争・平和と密接な関係にあることは言うまでもないことですが、歴史のそれぞれの段階での戦争や平和のあり方といった点に注目してもらいたいと思います。また前近代、とくに中世において特徴的なことは、必ずしも国家が自明な存在ではなく、様々な集団が戦争の担い手だったことです。戦争と集団を考えることからは、現在の戦争のあり方を相対化する視座が得られるでしょう。さらに戦争をとりまく環境 (技術と言ってもいいでしょう) と日常生活におけるそれとの意外な近さにも気づかされることでしょう。そして、「平和」(あくまでも戦時状態ではないという意味での) の中にあってなお生き続ける戦争の記憶からは、戦争とは決して戦時状態の終結によって解決される問題ではないことを考えたいと思います。
 
「戦争と平和」とはすぐに結論が出るような単純な問題ではありませんが、いったん歴史を振り返ることによって、そのことを考える手がかりやきっかけが得られれば、と願っています。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 高橋 典幸 / 2016)

本の目次

第I部 戦争と政治
  中世前期の内乱と京都大番役 (木村英一)
  南北朝内乱と公武関係 (松永和浩)
  戦国時代の戦争と地域社会 (菊池浩幸)
  豊臣政権と西国・東国 (戸谷穂高)
第II部 戦争と集団
  南北朝期の戦術と在地領主 (呉座勇一)
  綸旨にみる南朝 (杉山 巖)
  戦争の祈りと中世寺院 (衣川 仁)
  中世後期の村落間相論にみる村社会と枠組 (若林陵一)
  戦国時代の戦場と足軽・傭兵 (長谷川裕子)
第III部 戦争と外交
  モンゴル襲来をめぐる外交交渉 (高橋典幸)
  応永の外寇 (荒木和憲)
  朝鮮出兵の原因・目的・影響に関する覚書 (津野倫明)
第IV部 戦争と環境
  戦争と交通環境 (齋藤慎一)
  戦国期の戦争と「古城」(竹井英文)
  戦国時代における戦時・平時の戦争経済 (久保健一郎)
  中世の戦争と商人 (及川 亘)
  生業と合戦 (菱沼一憲)
第V部 戦争の記憶
  官位にみる武家の系譜意識 (木下 聡)
  中世の戦争と鎮魂 (田辺 旬)
  鎌倉幕府の草創と二つの戦争 (下村周太郎)
  戦争の記憶と文学 (鈴木 彰)