東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白とベージュの表紙

書籍名

ちくま新書 中世史講義 院政期から戦国時代まで

著者名

高橋 典幸、 五味 文彦 (共編)

判型など

272ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2019年1月7日

ISBN コード

978-4-480-07199-6

出版社

筑摩書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

中世史講義

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は「最新の研究成果をわかりやすく伝える」ことをモットーとする、ちくま新書の歴史講義シリーズの一冊として編まれたものである。日本中世の政治・経済・社会・宗教・文化・海外との交流から15のテーマを選び、それぞれ研究の最新状況を14人の研究者によって分担執筆した。テーマ設定・配列には時代順も考慮しており、本書を通読することによって日本中世史の流れがとらえられるように工夫している。

中世という時代はよく「わかりにくい」といわれる。政治権力をとってみても、鎌倉幕府・室町幕府など武家政権が実権を握っているようにみえながら、朝廷や貴族社会も一定の地位を保っていた。また比叡山延暦寺や興福寺などの大寺社は僧兵や荘園といった独自の武力・財源を抱え、しばしば幕府や朝廷に対抗的な行動をとった。さらに戦国時代の加賀国 (現在の石川県) では、浄土真宗の教えを信仰する人々が武士たちを追い出して、一国の政治権力を握った例もある。まさに中世はさまざまな組織や集団が分立した時代といえよう。ただ、社会全体が分裂・解体してしまったわけではないことにも注意したい。中世のわかりにくさの原因はこのような点にあるのだが、一方でそれは中世の魅力でもある。一律に、もしくはひとくくりに「中世とは…」とまとめるのではなく、まずは中世の多様性に目を向けてもらいたい。本書を単なる通史ではなく、テーマ別の構成としたゆえんである。そうした多様性が交錯・変化することによって中世という時代が織りなされていることを実感してもらうことこそ、本書のめざすところである。ぜひ本書全体を通読してもらいたい。

最新の研究成果の具体的な内容をここで紹介する余裕はないが、本書の試みとしてもう一つふれておきたいのは、歴史研究の一端を紹介するということである。歴史研究でもっとも重要なのは、過去にアプローチする「手がかり」、すなわち史料を見つけて、分析するということである。そうした史料は先人たちが書き残した文献にとどまらない。発掘調査によって見つかる遺物や遺跡も重要な史料である。こうした史料から、どのように歴史が読みとられていくのかという点にも注目してもらいたい。また史料の分析結果は必ずしも一義に定まるものではなく、見解が対立し、議論がくりひろげられることもある。実はこれも大事な研究活動であり、議論の積み重ねが歴史研究を進める原動力にもなっている。本書ではこうした部分にも光をあてているので、研究のいぶきのようなものを感じ取ってもらえればと思っている。

新書という媒体で伝えられることには限界があるので、本書こそ日本中世史への「手がかり」としていただきたい。各章に付されている参考文献を手にとって、さらに深く中世史に分け入ってもらうのもよし、本書を手がかりに古代や近世、さらには中世の海外にも目を向けていってもらえればと思う。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 高橋 典幸 / 2019)

本の目次

はじめに  (高橋典幸・五味文彦)
第1講  中世史総論 (高橋典幸)
第2講  院政期の政治と社会 (佐藤雄基)
第3講  日宋・日元貿易の展開 (榎本 渉)
第4講  武家政権の展開 (西田友広)
第5講  鎌倉仏教と蒙古襲来 (大塚紀弘)
第6講  荘園村落と武士 (小瀬玄士)
第7講  朝廷の政治と文化 (遠藤珠紀)
第8講  南北朝動乱期の社会 (高橋典幸)
第9講  室町文化と宗教 (川本慎自)
第10講  中世経済を俯瞰する (中島圭一)
第11講  室町幕府と明・朝鮮 (岡本 真)
第12講  室町将軍と天皇・上皇 (三枝暁子)
第13講  戦国の動乱と一揆 (呉座勇一)
第14講  戦国大名の徳政 (阿部浩一)
第15講  中世から近世へ (五味文彦)

関連情報

書評:
「天皇家」が成立したのは中世になってからだった!? (BOOKウォッチ 2019年4月5日)
https://www.j-cast.com/bookwatch/2019/04/05008862.html

ブック・レビュー2 (『週刊現代』 2019年3月2日)
https://gendai.ismedia.jp/list/books/wgendai/4910206410397

「ラジオ深夜便/ないとガイド・やっぱり本が好き。」 (NHKラジオ第一 2019年2月17日放送)
https://www.nhk.or.jp/shinyabin-blog/100/271471.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています