皇位継承 歴史をふりかえり変化を見定める

2019年5月、天皇の代替わりが行なわれた。天皇の代替わりは天皇や天皇制への関心を高めるが、そうした関心の向かう先の一つとして、「これまでの天皇や天皇制はどうだったのだろうか?」、すなわち天皇の歴史があげられる。約30年前、昭和から平成への代替わりに際しても、天皇や天皇制の過去についての関心が高まり、多くの著作が刊行された。またそれがきっかけとなって、天皇や天皇制に関する歴史的研究も進められている。そうした状況は今回の代替わりでも同様であるが、今回は天皇・天皇制の歴史の中でも、皇位継承、すなわち「天皇の地位はどのように継承されてきたのか」という点に関心が集まっているのが特徴的である。そこで、古代から近代にかけての皇位継承の歴史をふりかえり、その概要をコンパクトに伝えることを目的に編まれたのが本書である。

天皇の地位が代々引き継がれていくことは天皇制の基本であり、たしかに古代以来、天皇の地位は連綿と継承されているようにみえる。しかし、「どのように継承されたか」、そのあり方はけっして不変ではなく、時代による変化が大きい。その一例として、先にふれた譲位について、その歴史を本書についてふりかえってみよう。まず古代においては皇位継承がそもそも流動的で、皇位をめぐる皇族・豪族間の争いが激しかった。そのため、譲位には円滑な皇位継承という役割が期待された。中世になると、天皇の地位につく家筋「天皇家」が固まってくるが、これをもたらしたのも譲位であった。すなわち、意中の子孫に皇位を伝える手段として譲位は利用されたのである。ところが、次第に武士が政治の実権を握るようになると、皇位継承も武家政権によって管理されるようになる。江戸時代には、譲位を望む天皇と、それを押しとどめようとする幕府とのかけひきがくり返された。そして近代、立憲君主制国家をめざした明治政府は、時々の政治情勢に左右されない、安定的な皇位継承を企図して、皇室典範 (旧皇室典範) を定めたが、そこでは譲位は不可とされ、皇位継承は崩御によるのみとされたのであった。ところが、21世紀になってこの規定も変わり、202年ぶりに譲位が復活したことは私たちも目撃したところである。

天皇や天皇制が日本の歴史に大きな影響を与えたことは間違いないが、天皇・天皇制それ自体も政治や社会の影響を受け、時代とともに変化し続けてきたのである。皇位継承の歴史はそのことをよく物語っている。現代を生きる私たちに必要なのは、天皇の歴史をふりかえって、そうした変化や時代ごとの特徴を見定めることであろう。本書はその手がかりとなることを意図している。読みやすさ・わかりやすさを旨として、古代から近代にいたる皇位継承の歴史をコンパクトに展望することをこころがけた。さらに関心をもたれた向きには、巻末に掲げた読書案内に進まれることを期待している。

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 高橋 典幸 / 2019)