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白い表紙に家系図ライン

書籍名

天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承

判型など

320ページ、A5判、並製カバー装

言語

日本語

発行年月日

2019年2月20日

ISBN コード

978-4-88116ー134-0

出版社

績文堂出版

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天皇はいかに受け継がれたか

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本書は現代的同時代的な問題意識に基づいて編まれた論文集である。2016年8月8日になされた明仁天皇 (現上皇) による退位 (譲位) 表明メッセージを契機として、安倍晋三内閣は有識者会議を設置し議論を開始する一方、国会の側は大島理森衆議院議長の主導による全体会議を開催し極めて短い審議を経て、17年6月16日「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」を成立させた。この特例法により、1817年の光格天皇以来200年ぶりとなる天皇の退位 (譲位) が2019年4月末に実施された。
 
前近代では普通になされていた譲位という制度は、明治維新以降、伊藤博文ら、大日本帝国憲法・明治皇室典範の起草者らの政治判断によって廃止されていた。当時、民党勢力が有力であった議会に対抗しうる強力な内閣制度を持てなかった明治政府としては、譲位という手段を通じてなされうる天皇の政治的恣意性を極力排除したかったものと考えられる。
 
皇位継承は天皇の崩御の場合に限るとしたこの仕組みは、先にも述べたように、明仁天皇による譲位の希望表明を契機として、変更が加えられることとなった。国民へのメッセージ一つで、譲位を是とする国民の圧倒的支持をさらってしまった天皇の、象徴としての「力」に対して、驚きの目をもって見つめた歴史研究者は多かったと思われる。ならば、歴史上の時々の支配権力は、皇位をいかに安定的に継承させ、その地位の正当化を図り、その正統性を説明してきたのか。それらを明らかにすべく、天皇をめぐる歴史を通史的に漏れなく押さえ、またアジア史ヨーロッパ史の中で比較相対化することは、歴史家が真剣に取り組むべき問題なのではないかと考えた。その際、天皇を主語とし、天皇が自らの地位の存続のため、政治・社会の展開や変化に、いかに対応してきたのか。この「問い」を動態的に解き、天皇制「存続」の歴史具体的な要因を明らかにすることが目指された。
 
日本史にいう、古代・中世・近世・近代といった時代区分はあくまで便宜的なものではあるし、それぞれの時代をまたぐ移行期への目配りを忘れてならないのは勿論だが、律令国家・摂関政治・幕府・明治政府などの国制の違いをひとまずは括弧にくくり、通時的に天皇及び天皇制の生存戦略を捉えてみようと試みた。考えてみれば、在位中に殺害される王 (天皇) がまったく稀で、譲位する王 (天皇) が、これほど多く存在する歴史をもつ国は、世界でも珍しいのではないか。
 
各章の検討で明らかになったのは、日本史上、皇位継承に関する明確な準則が敢えて決められなかったことにより、時代ごとに継承方式の推移が見られ、「擬制的な直系」の創出がめざされていたことである。また、アジアやヨーロッパの王権構造と比較することで、虚構性を自覚しつつも万世一系という世襲方式に固執する日本の王権の特性が改めて明らかにされた。また、崩御した前天皇から新天皇への即位が直ちになされるといった制度は、明治期に創出された新たなものであることも確認された。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 加藤 陽子 (野島 陽子) / 2019)

本の目次

はじめに   加藤陽子
 
I 譲位の誕生と幼帝の出現――古代の天皇
     「譲位」の誕生   荒木敏夫
    幼帝の出現と皇位継承   仁藤智子
    (コラム) 諡号・追号・大行天皇号   岩本健寿
    (コラム) 古代・中世の皇位継承と幼帝   佐伯智広
 
II 譲位の制度化と中断――中世の天皇
    譲位の制度化――中世天皇の世代サイクル構造   新田一郎
    「譲位」の中断と天皇の立場   池 享
    (コラム) 中世移行期における神社宗廟観と廃朝廃務   井上正望
    (コラム) 即位年齢の上昇・東宮の変化   遠藤基郎
 
III 朝幕関係と皇位継承――近世の天皇
    近世の皇位継承   藤田 覚
    (コラム) 皇位継承と天皇・公家の経済   佐藤雄介
    (コラム) 近世の上皇と皇嗣   村 和明
 
IV 二つの憲法と皇位継承――近代の天皇
    皇室典範の制定――明治の皇位継承    西川 誠
    近代の三人目の天皇として−―昭和天皇の場合    加藤陽子
    戦後天皇制と天皇−―制度と個人のはざまでの退位   河西秀哉
    (コラム) 皇室財政と皇室財産   加藤祐介
    (コラム) 代替わりと「おことば」  国分航士
 
V アジアの君主とその表徴
    中国皇帝の譲位と元号   金子修一
    (コラム) 姿を現すシャー: ガージャール朝イランにおける君主像の表象   小澤一郎
    (コラム) 近代中国における皇帝の退位と「人治」志向   久保茉莉子
 
VI ヨーロッパの王政と王位継承
    ヨーロッパの選挙王政と世襲王政   中澤達哉
    (コラム) ローマ教皇と世俗権力   永本哲也
    (コラム) 中世フランスの世襲王政   鈴木喜晴
 

関連情報

著者インタビュー:
天皇代替わりを振り返る=東京大教授・加藤陽子氏 (毎日新聞 2019年12月17日)
https://mainichi.jp/articles/20191217/ddm/005/070/004000c
 
加藤陽子氏インタビュー (『週間 読書人』2019年5月24日第3290号)
https://dokushojin.stores.jp/items/5ee714920d5e3844a640e9f2
 
書評:
本郷恵子氏 (東京大学史料編纂所教授)による「今年のうちに読みたい3冊」 (『讀賣新聞』 2019年12月22日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/feature/CO036371/20191224-OYT8T50013/
 
読書室 (『歴史地理教育』7月号No896 - 特集・歴史学・民俗学と歴史教育の対話 2019年6月24日)
https://www.rekkyo.org/archives/4601

保阪正康 評 存続への対応 歴史的に分析 (朝日新聞掲載 2019年5月4日)
https://book.asahi.com/article/12342764
 
天皇はいかに受け継がれたか 歴史学研究会編 (日本経済新聞朝刊 2019年4月20日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO43951660Z10C19A4MY7000/
 
刊行記念イベント:
加藤陽子トークセッション「近代の天皇(制)を歴史から考える」 『天皇はいかに受け継がれたか~天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版社)刊行記念 (ジュンク堂池袋本店 2019年3月28日)
https://honyade.com/?p=80233
 
ラジオ出演:
歴史学者・加藤陽子さん (文化放送 くにまるジャパン極 2019年4月30日)
http://www.joqr.co.jp/kiwami/2019/04/post-6757.html
 
生協TOP 10:
BOOK BEST 10 (東京大学生協 本郷書籍部 2019年4月)
https://www.univcoop.or.jp/fresh/book/best10/best10_1904.html
 

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