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朱色の表紙

書籍名

戦後日本の歴史認識

著者名

五百旗頭 薫、 小宮 一夫、細谷 雄一、宮城 大蔵 (編)、東京財団政治外交検証研究会 (編)

判型など

288ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年3月30日

ISBN コード

978-4-13-023072-8

出版社

東京大学出版会

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戦後日本の歴史認識

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歴史認識についての本は数多い。
 
その中での本書の特徴は、歴史認識問題そのものを第一の専門とするのではなく、外交史を専門とする研究者が協力して、編纂した点にある。
 
その結果、どういうことが可能になるか。
 
歴史認識を個別の問題ごとに解説するのではなく、時代ごとに、歴史認識にかかわるさまざまな問題の有無、大小、相互関係を、他の外交問題との連関を意識しながら、俯瞰的に描き出すことができる。それを通じて、ある時代の日本国民が総体として過去の歴史にどう向き合い、それを通じていかなる対外態度を形成したか、を論ずることができる。つまり、歴史認識の歴史を目指した本である。
 
もっとも、こうしたタイプの研究には、波多野澄雄『国家と歴史』(中公新書、2011年) のような優れた先例がある。
 
私たちの本のもう一つの特徴は、歴史認識の歴史を、戦前から説き起こしていることである。戦後日本の歴史認識は、加害者・被害者・敗者としての認識である。だが戦前から歴史認識の歴史はあり、それは戊辰戦争 (1868~69年) に至る幕末・維新の動乱と、日清・日露戦争 (1894-95年、1904-05年) の記憶から始まった。戦前の歴史認識は、もっぱら勝者としての認識だったといえる。
 
勝者として生きるのは意外に難しく、戦争後の優位を安定させ、リスクのある再戦を避けようとする努力が、皮肉にもさらなる大陸進出と国際的緊張の呼び水となり、1937年からの日中戦争、1941年の日米開戦を経て、帝国が崩壊する遠因となった。
 
戦前についての知見は、戦後の歴史認識の位相を鮮明にするし、現在、勝者の立場を生きる中国、そして韓国の状況を理解する一助ともなる。
 
さらにもう一つの特徴を挙げるならば、共著の利点を活かして、テーマに即した多様性を実現していることである。戦前・戦後を通観した序論に続いて、戦後の各時代を扱った論考と、沖縄の歴史認識を独立して扱った論考とが並ぶ。さらに、見通しのつけにくい現代については、第一線の研究者による談論風発の座談会という形で様々な解釈の可能性を提示している。さらに、より深く知りたい読者のために関連書籍を紹介する章が付けられている。序論で謳ったように、「贅沢」な本といえよう。
 
最後に、こうした多様性にもかかわらず全体に共通する特徴、ないし論調として、和解を焦らない、ということが挙げられる。歴史認識をめぐる対立は、一朝一夕に解消されるものではない。歴史認識問題は外交関係全体の一部である。だがこの問題が激化し、互いへの失望や批判が錯綜し、対立の悪循環が作動すると、外交全体にダメージを与える。逆に、小さなアクションであってもそれが好循環を起こせば、大きな問題を緩和するきっかけになることがある。悪循環を阻止し、好循環を準備するための叡知を探ることが、本書の最大の狙いといえよう。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 五百旗頭 薫 / 2019)

本の目次

はじめに (細谷雄一)
序 章 歴史認識の歴史へ (五百旗頭 薫)
 
I 戦後歴史認識の変遷を読む
第1章 吉田茂の時代――「歴史認識問題」の自主的総括をめぐって (武田知己)
第2章 佐藤栄作の時代――高度経済成長期の歴史認識問題 (村井良太)
第3章 中曽根康弘の時代――外交問題化する歴史認識 (佐藤 晋)
第4章 沖縄と本土との溝――政治空間の変遷と歴史認識 (平良好利)
 
II 歴史認識と和解をめざして
第5章 歴史和解は可能か――日中・日韓・日米の視座から (細谷雄一・川島 真・西野純也・渡部恒雄)
第6章 東アジアの歴史認識と国際関係――安倍談話を振り返って (細谷雄一・川島 真・西野純也・渡部恒雄)
 
III 歴史認識を考えるために
第7章 歴史認識問題を考える書籍紹介 (細谷雄一)
第8章 戦後日本を知るうえで有益な文献を探る (小宮一夫)
 
おわりに (宮城大蔵)
 

関連情報

書評:
良書を誇る大学出版部特集 『戦後日本の歴史認識』= 五百旗頭薫ほか編 (毎日新聞朝刊 2017年5月3日)
https://mainichi.jp/articles/20170503/ddm/015/070/020000c
 

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