東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ベージュの横ライン入り表紙、紫の帯に「強調と対立の外交官会を振り返り、未来を構想する」とコメントあり

書籍名

日韓関係史 1965-2015 I 政治 [全3巻]

著者名

木宮 正史 (編)、 李 元徳 (編)

判型など

450ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年6月24日

ISBN コード

978-4-13-025161-7

出版社

東京大学出版会

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日韓関係史 1965-2015 I 政治

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非対称的な相互補完関係から対称的な相互競争関係へという日韓関係の構造変容、日韓を取り巻く東アジアのパワーシフトなどに伴って、日韓関係は不透明さを増しつつある。こうした状況に直面する日韓関係の将来を展望するためには、何よりも、1965年の国交正常化以後50年の日韓関係をどのように評価するのかという問題への真摯な取り組みが重要である。本書は、そうした問題意識を共有する日韓共同研究の成果である。
 
この50年間、日韓は東アジアにおいて、さらに世界において、その協力を通して多くの実績を積み上げてきた。経済発展が代表的なものであるが、それだけではなく、激烈な南北朝鮮の体制競争における韓国の優位が確立され、朝鮮半島の統一に向けた展望もある程度は開かれつつある。周囲から見ると、この50年は「祝福されるべき50年だ」と評価される。にもかかわらず、当事者である日韓には、そうした認識があまりないようだ。
 
一方で、1965年の国交正常化は元来が「正義にかなったものではなく不十分なものでしかなかった」、そもそも問題があったのだから、その後の50年も否定的に評価されることを免れない。」韓国の一部では、こうした批判が持続した。他方で、日韓関係の現状に対する不満に鑑みて、「過去において、対立激化を抑制する日韓妥協のメカニズムは機能したかもしれないが、もはやこれ以上は通用しない」という批判も提起される。最近の日本では、日韓関係を悪化させたのは「過去の問題は一切解決したという合意を守ろうとしない」韓国のせいだという批判が台頭する。この50年の日韓関係に対する、こうした双方向からの批判が、日韓関係をさらに離間させるように遠心的に働く。但し、そうした批判は、「あるべき日韓関係」を必ずしも明確に描き切れていないばかりか、日韓双方の合意が得られがたい。そうした「挟撃」を克服して日韓関係を正当に評価するためには、この50年を全否定するのでもなく、また礼賛するのでもなく、功罪併せて事実を認識する、即ちそれを「抱きしめる」以外にはない。
 
本書は、そうした実績を積み上げてきたにもかかわらず、それに自信が持てない両国民に対する「応援団」の役割を果たしうる。但し、この50年の日韓関係は素晴らしいものであり、それを批判するべきでないなどと言うつもりは毛頭ない。本書には、この50年の日韓関係を批判的に再検討する論文が数多く収録されている。1965年の国交正常化は、その後の日韓の力関係の変化や植民地支配に対する歴史観の変化などを考慮すると不十分なものであったと言わざるを得ない。だからこそ、その合意を守るために、それに対する批判を受け入れて「修正」を不断に付加してきたのである。本書は、相互に批判を受け入れ不断に「進化」を求め続けた50年の軌跡を、そのためにどのような知恵を働かせたのかを含めて描いたものである。なお、本書は韓国語版 (書名は同じ、歴史空間から刊行) と共に日韓同時出版され、日韓文化交流基金と韓国北東アジア歴史財団からの刊行助成を受けた。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 木宮 正史 / 2016)

本の目次

序論 構造変容に直面し漂流する日韓関係 木宮正史 (東京大学)
I 日韓協力の軌跡とその諸相
  第1章 日韓関係1965年体制の軌跡 -- 過去と現在の照明 李 元徳 (国民大学)
  第2章 日韓外交協力の軌跡とその現在的含意 木宮正史
  第3章 国家戦略と市民受容の整合性から見る日韓関係50年 朴 喆熙 (ソウル大学)
  第4章 日韓自治体間協力の展開 - 姉妹都市提携の戦略 大西 裕 (神戸大学)
  第5章 日韓政策コミュニティの生成と変化 崔 喜植 (国民大学)
II 国際政治の中での日韓関係
  第6章 戦後日韓関係と米国 - 日米韓トライアングルの変容と持続 李 鍾元 (早稲田大学)
  第7章 韓国の外交と日韓安保関係の変容 1965-2015 朴 栄濬 (国防大学)
  第8章 中朝関係の変化と日朝関係 -「二つの朝鮮」、日韓基本条約の解釈をめぐって 朴 正鎮 (津田塾大学)
  第9章 独島問題と日韓関係 1965-2015 玄大松 (海洋水産開発院)
  第10章 日韓関係における「境界問題」--「竹島・独島問題」の「現状」をめぐるダイナミズム 浅羽祐樹 (新潟県立大学)
  第11章 海洋をめぐる日韓関係50年 趙 胤修 (東北アジア歴史財団)
III 歴史問題への取り組み
  第12章 日韓諸条約の評価をめぐる日韓関係 -- 基本条約第二条、請求権協定第二条一を中心に 吉澤文寿 (新潟国際情報大学)
  第13章 歴史問題と日韓関係 南 相九 (東北アジア歴史財団)
  第14章 民主化の代償 --「国民感情」の衝突・封印・解除の軌跡 浅野豊美 (早稲田大学)
  第15章 個人請求権問題をめぐる日韓関係 -- 葛藤の過程と原因 張 博珍 (韓国外国語大学)
  第16章 日韓条約以後の「在日朝鮮人問題」の展開 外村 大 (東京大学)

関連情報

木宮正史「日韓国交正常化50周年記念学術大会を終えて」 『日韓文化交流基金NEWS』第75号、2015年9月25日号
 
木宮正史「日韓関係の未来をどのように切り拓くか 『日韓関係史 1965-2015』全三巻の刊行に寄せて」『UP』518号、2015年12月号 pp.10-14
 
木宮正史「構造変容に直面し漂流する日韓関係: 過去・現在・未来」 『日韓文化交流基金NEWS』第77号、2016年3月28日 pp.8-9
 
木宮正史「シリーズ完結に寄せて 日韓関係の「不思議」-- 国交正常化五〇年を振り返って」『パブリッシャーズ・レビュー』第45号、2016年5月25日
 
東京大学韓国学研究部門の開所に関するインタビュー 『東洋経済日報』2015年10月23日
 
書評: 石坂浩一 評 (立教大学教授) 『週刊読書人』2015年8月28日号
 
東京大学韓国学研究センター
http://www.cks.c.u-tokyo.ac.jp/
 

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