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白い表紙に韓国・北朝鮮の歴史的人物6名の顔写真

書籍名

叢書 東アジア近現代史 第4巻 ナショナリズムから見た韓国・北朝鮮近現代史

著者名

木宮 正史

判型など

314ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年2月1日

ISBN コード

978-4-06-220967-0

出版社

講談社

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本書は、講談社の『叢書東アジアの近現代史』シリーズの第4巻である。朝鮮半島情勢は、北朝鮮の核ミサイル開発をめぐって依然として不透明性が高い。こうした朝鮮半島の現実がなぜもたらされたのか、そこにどのような政治的行為者の選択が介在しているのかに焦点を当て、19世紀後半から21世紀にかけて、3つの世紀にまたがる朝鮮半島のダイナミズムを、朝鮮ナショナリズムの一貫性とその変容に注目することで描こうとした。
 
まず、朝鮮半島とナショナリズムとの関係を論じることが、既存の朝鮮半島論、ナショナリズム論にとってどのような新しい意味をもつのかを問うことで、韓国も北朝鮮もナショナリズムが強いという多くの日本人の先入観を問い直した。そして、近代化を通して近代国家を建設し国力を蓄えるという「近代化ナショナリズム」、大国によって包囲される状況の中で独立国家としての自主性を確保するという「対大国ナショナリズム」の2つを、近代的朝鮮ナショナリズムの原型として抽出する。
 
そのうえで、19世紀末の朝鮮の開国に起因する近代化の試みとその挫折、20世紀に入ってからの日本による植民地支配とそれに対する抵抗の試み、さらに、第2次世界大戦での日本の敗北に伴う米ソ分割占領と米ソ冷戦に起因して成立し、朝鮮戦争を戦った南北分断体制の成立、その体制下における日米中ソ (ロ) という大国間国際政治と連携した韓国と北朝鮮の体制競争とその帰結、こうした展開を、異なるナショナリズムのそれぞれの担い手がどのような関係にあったのかに注目して明らかにした。
 
当初の北朝鮮優位から韓国優位への変容は劇的で、それがナショナリズムの変容にも影響を及ぼした。但し、韓国が優位を占めることでナショナリズムを韓国が専有したわけではなかった。21世紀に入って中国が大国化する中で、米中という大国と韓国・北朝鮮がそれぞれどのような関係を構築していくのか、重大な局面にさしかかっている。さらに、朝鮮ナショナリズムは常に日本という存在を意識したし、統一という目標も一貫して共有した。こうした日本との関係や統一との関係についても、本書では再論した。
 
韓国と北朝鮮は相互対称性に起因する類似のナショナリズムを共有しながらも、対照的な選択に起因した異質なナショナリズムを分有した。統一ナショナリズムを共有したが、南北分断の承認を求める「2つのコリア」政策を韓国が選択したのに対して、北朝鮮はそれは「分断の固定化」であるから受け入れられず、連邦国家としての国際的承認を求めるべきだという「1つのコリア」政策に固執した。同盟関係にある米中ソという大国との間でいかに「自立」を確保するのかという課題を、韓国と北朝鮮は共有したが、韓国は大国との関係を利用することでよい政策実績を収めるという強い指向を持ち体制競争における逆転勝利を収めることに帰結した。
 
こうした3世紀にまたがる朝鮮半島の歴史のパノラマを理解するための一助になることを期待したい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 木宮 正史 / 2018)

本の目次

はじめに
第一章  ナショナリズムと朝鮮半島
第二章  日本の植民地支配と朝鮮ナショナリズム (1875年~1945年)
第三章  冷戦体制下の分断・競争ナショナリズム:北朝鮮の優位 (1940年代~60年代)
第四章  冷戦変容下の分断・競争ナショナリズム:韓国優位へ (1970年代・80年代)
第五章  ポスト冷戦下南北ナショナリズムの非対称性 (1990年代以後)
第六章  中国の大国化と南北ナショナリズムの現在:南北の「用米」「用中」ナショナリズム
第七章  朝鮮ナショナリズムと日本
第八章  朝鮮半島の統一とナショナリズム
おわりに
 

関連情報

著者インタビュー:
米朝首脳会談、カギは「国交」の駆け引きか (自著『ナショナリズムから見た韓国・北朝鮮近現代史』をめぐって (『日経Biz Gate 日本経済新聞電子版』 2018年5月11日)
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3024366009052018000000?channel=DF200320183519
 
書籍紹介:
(日本国際貿易促進協会『旬刊国際貿易』  2018年2月)
http://www.japit.or.jp/newspaper/3.html
 
書評:
木村 幹 評 (現代韓国朝鮮学会『現代韓国朝鮮研究』  第18号  2018年11月)
http://www.ackj.org/?page_id=2385
 

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